南山大学

 
指定
選必
期間
春学期
秋学期
単位
年次
2〜4
担当者
友岡 敏明
他の科目との関連
履修対象学科
副題 政治における寛容と暴力
講義内容  本講義では「人間の尊厳」を政治・経済の視点から考察する。そのために、人間の営みと深く関わっている政治や経済のあり方、また政治学や経済学などの社会科学的観点から見られる人間の問題に注目し、現代社会に生起している政治的、経済的現象のなかで「人間の尊厳」がどのように扱われているのかを見極め、これを維持・回復していくために、どのような方策と努力が必要かを検討する。
講義計画  世界的に認知された原則は、次のように言う。すなわち、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等の、かつ奪い得ない権利を認めることが世界における自由、正義及び平和の基礎をなすものであるから、そしてこれらの権利が人間の固有の尊厳に由来することを認めて、「すべての人民は、自決の権利を有する(All peoples have the right of self-determination)。この権利に基づき、すべての人民は、その政治的地位を自由に決定し、ならびにその経済的、社会的及び文化的発展を自由に追求する」(「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」)ことができることを宣言する、と。
 しかし、この「尊厳」を実現することの難しさは、冷戦下で実質自決の権利を目指したチェコやハンガリーがワルシャワ条約機構軍に押さえ込まれてしまったこと、旧ユーゴスラヴィア連邦の解体後独立を目指したクロアチアやボスニアにおける激しい混乱と残忍な人種浄化が生じたこと、もっと近くでは、70%の住民が同人種であることを根拠にしてユーゴスラヴィアからいっそうの自治を獲得しようとしたコソヴォ地方が“No!”を突きつけられ、ついにNATO軍によるベオグラード等のユーゴーの主要都市への爆撃となったこと等、の事例で容易に知ることができる。そうそう、遂に独立を達成した東ティモールをこれに加えることもできよう。まだある、クルド族はどうするか、狂気と思えるほどのテロで有名なバスク地方の処理はどうなるかなど。
 その国際的に認知された原則の実現の困難さが、強者側における一方的な無理解・非寛容に由来することもあれば、独立を要求する側の狂信的な行動が穏健・冷静な大衆を巻き込んだ結果であることもある。しかし、困難ではあるが、諦めて放棄してはならない人間の尊厳に基づく権利として民族自決をとらえるとき、そこに歴史の中で実際に人びとがどう苦吟し、悩み、切り抜けてきたかという問が発せられる。そこでは、時には“暴力”が高貴な原則の実現に有効に働くこともあると同時に、“忍耐”と“寛容”と“相互理解”が合意形成の柱として不可欠であることを見て取ることができる。
 この講義では、自決へ到る道の困難さと非情さ、歴史においてその道が非常にパラドキシカルな姿をとることに注意を喚起する。そのために、導入部分で、人間の尊厳の根源的な意味を簡単に検討した後、尊厳の追求の例として、冷戦構造の崩壊後の民族自決や自立の例(東欧諸国、ボスニア、コソヴォ等)を簡単に見、やや詳細な例をアイルランドの自治獲得の過程で当事者が陥った苦労に取ってみる。

 (1) 人間の「尊厳」の意味
   (ア)冒しがたさの根源
   (イ)人格の社会性からナショナリズムの実存性へ
 (2) 冷戦崩壊(立役者ゴルバチョフの出現)後の民族自決の動き
   (ア)ゴルバチョフのソ連
   (イ)東欧
   (ウ)ボスニアとコソヴォ
 (3) マイケル・コリンズ(Michael Collins, 1890−1922)の時代までのアイルランド
   (ア)英国による征服以後のアイルランドの悲惨
   (イ)カトリック解放(オコンナーの活躍)とホーム・ルール
 (4) コリンズの時代
   (ア)イースター蜂起および「共和国宣言」等
   (イ)「アングロ・アイリッシュ条約」調印と自治と内戦
 (5) コリンズ以後の推移
   (ア)北アイルランド問題(不信・恐怖・差別)
   (イ)テロと挑発と和解の模索
評価方法 問題意識への真摯な取り組み、したがって授業への取り組みにおける誠実度を参照し、定期試験における達成度で見る。
テキスト 特に指定しない。
その他