講義内容 |
学校でスカーフを着用したために退学処分を受ける──これは規律の厳しい日本の学校の話ではなく、「自由の国」フランスにおける出来事である。フランスでは「政教分離原則」が厳格に適用され、公立学校で宗教的印を身につけることが禁止されている(と言われている)。一方、現在フランスに400万人程度いるといわれるイスラム系住民の間ではイスラム教復興運動が盛んになっているが、イスラム教では女性が頭髪を隠すスカーフを着用することが義務になっている(と言われている)。したがってこのスカーフ騒動は異文化共存の困難さをもっとも象徴的に表している事件であると言えるが、本演習ではこの問題を中心的なトピックスにすえて、そこにフランスのどのような文明観、社会観が反映しているかを多面的に検討したい。この問題はフランスが激しい葛藤のすえに実現した政教分離原則と宗教の復権、共同体主義をきらう普遍主義的哲学とそれに対する多文化主義的相対主義、女性解放思想と伝統的な女性観、根強い人種差別主義的感情と反人種別主義などさまざまな問題が関係している。こうした問題を新聞・雑誌記事やイスラム団体その他のインターネット・ホームページ、18世紀以来のフランスの様々な思想家の文明や文化をめぐる著述など多面的なテクストを利用して取り扱いたい。 |