南山大学

 
指定
期間
春学期
集中(8月上旬)
単位
年次
1・2
担当者
篠原 和大
講義題目
開講キャンパス
講義内容  東海地方は、日本列島文化の東西差の境界線に位置し、先史時代以来、考古学的に貴重な東西差の接点と見なされてきた。このことに鑑み、その東西差の接点の先駆けとなる事象として、東海地方の縄文文化から弥生文化への転換と弥生文化としての盛行に着目し、その社会背景を考古学的資料からどのように追求できるかを提示する。と同時に、特定地域に特化した地域考古学研究という志向がどのような歴史像形成に寄与するのか、その有効性も論じてみたい。
講義計画 第1回 日本列島の東西と東海地方の弥生文化
 自然環境や先史時代以来の歴史から見た東海地方の位置を確認し、その特徴を捉える。
また、縄文時代の動植物管理や雑穀栽培を含めて灌漑水田耕作にいたる現代的な日本農耕形成論について解説し、東海地方の弥生時代を見つめる上での論点を掘り起こす。
第2回 東海地方弥生土器編年の概要
 西日本の弥生文化の系統を示す遠賀川系土器と縄文時代以来の伝統を保持する条痕文系土器の対峙、複数の土器系統が併存しながら変遷する様相など、東海地方の弥生土器文化の特徴を解説するとともに、以降の講義の前提となる地域性・年代観の基準を示す。
第3回 朝日遺跡の変遷
 朝日遺跡は濃尾平野の中心部に位置する、弥生時代を通じて集落が継続した大規模な遺跡である。朝日遺跡の遺構・遺物の変遷は、東海地方の趨勢や東西日本の動向をも反映している。これらを作業を行いながら分析することによって、東海地方弥生集落の動態の一つのあり方を確認する。
第4回 朝日遺跡をめぐる諸問題
 朝日遺跡における土器、石器、木製品などの生産のあり方、他の周辺集落と比較した生産形態の違いや流通のあり方は、弥生社会の特徴のいくつかを描き出す。こうした研究を紹介し、遺物の分析から何を導き出すかを追求するとともに、東海地方の弥生社会の特徴を分析する。
第5回 条痕文系土器文化の様相と東日本の初期農耕
 視点を農耕の問題に移し、まず、弥生時代の成立期の日本の農耕起源について考察する。
また、条痕文系土器文化に属する遺跡の立地や石器などの道具のあり方から、東日本における初期農耕の様相について分析する。
第6回 弥生時代水田農耕をめぐる諸問題
 日本初期農耕社会の一つの中心的なあり方として、灌漑水田を管理、運営する社会が考えられる。前回の初期農耕から灌漑水田農耕にはどのように転換したか、弥生時代灌漑水田の技術的段階、生産性、生業全体との関係等の現在的見解について解説する。
第7回 登呂遺跡に見る弥生時代の生活文化
 登呂遺跡は、研究史上著名な弥生時代農耕集落の遺跡である。一方、近年まで数多くの発掘調査が行われてきたが、現在でも登呂遺跡ほど集落と生産域(水田)との関係を明瞭に把握しうる遺跡はない。したがって、登呂遺跡を対象に、灌漑水田の管理・運営を行いつつ多様な生業を行う弥生時代の農耕集落のあり方を復元する。
第8回 静岡平野における水田開発と集落の展開
 登呂遺跡の位置する静岡平野では、弥生時代の生産域(水田跡)の調査も比較的進んでおり、弥生時代を通してこの平野がどのように開発されていったかを知ることができる。こうした例を朝日遺跡の例にフィードバックしたり、他地域の例と比較したりしながら、初期農耕社会の地域開発のあり方を復元する。
第9回 農耕社会としての弥生時代の評価
 第6回で挙げた諸課題について、第7・8回の事例分析の結果をふまえ、私見を交えながら検討を行う。農耕集落と地域社会の実態に迫りたい。
第10回 弥生集落論の展開
 弥生時代の集落の研究は、戦争のような社会状態との関連や流通関係を見据えた拠点と周辺モデルなどアプリオリな理解を前提にその性格が論じられることが多かった。ここでは、これまでに分析した、農耕を中心とした開発と再生産という、より実質的な視点から見た集落論を模索したい。
第11回 古墳出現期の東海地方の動向
 弥生社会は古墳時代への移行において大きく変貌するが、その変化の質には政治的な意味合いが強い。近年行った静岡県内の二基の古墳時代前期前方後円墳の調査結果からこうした問題を論じる。
第12回 東海地方弥生文化展開史
 これまでの講義を振り返りながら整理し、東海地域における農耕社会の成立・展開史を描く。東西日本の特質が接するこの地域で、どのように文化が接し、融合・変容し、また伝統を保持していくのか。考古学がこのような地域的な歴史像形成にどのように寄与するのかという視点から論じたい。また、比較的な視座も提示しながらその可能性を展望したい。
評価方法 講義の内容理解とそれに対する受講者の意見・批評を問う筆記試験を実施し、評価する。
テキスト 資料はプリントとして配布し、画像資料はスライド等で補足する。テキストは指定しないが、参考文献を講義の中で指示する。
その他