南山大学

 
指定
期間
春学期
単位
年次
1・2
担当者
岩野 一郎
講義題目 アメリカ連邦制度の成立について
開講キャンパス
講義内容 アメリカ合衆国の政治を特徴づけているのは、いわゆる連邦制度である。
合衆国憲法制定に際して採用されたこの制度は、その後のアメリカ政治の枠組みを決定したが、連邦と州の権限の対抗関係は、一般に歴史の流れの中で連邦権限の拡大に向かったとされている。とはいえ、アメリカの政党を眺めた場合、連邦の政党組織が各州のそれを上から支配しているとは言い難い。また、州以下の地方レベルの政治は、連邦との密接な関係を保ちつつも、各州が独自の体制を保持している。本講義では、アメリカ政治の特質である連邦制度をキータームとして、アメリカの政治社会を考究する。
講義計画  アメリカが連邦制度を採っているのは周知の事実である。連邦制度を採っている国々は、アメリカばかりではないが、近代国家においてこの制度を採用したのは、アメリカ合衆国が最初であるといわれている。概して、国家が巨大であって、一つの政府での統治より権力の地理的分散を図る場合(アメリカやインドなど)と、一国家内に多数の異なった民族が居住している場合(カナダやスイスなど)に、連邦制度が採られる場合が多い。アメリカの場合には、歴史的事実として、中央政府が出来る以前に既に各植民地政府が出来上がっていた。イギリスからの独立に際して、独立した13の植民地はその後如何なる政体を取るのかは大きな議論を呼ぶところであった。この講義では、アメリカ合衆国が連邦制度を採用して行った過程に焦点をあて、連邦制度の成立について検証する。
 先ず、「独立宣言」を熟読し、1776年の7月4日には、どのような政体が考えられていたのかについて検討する。次いで、「危機の時代」をまとめていた「連合規約」によって形成された連合政体を検証し、この政体が持つ欠点は何故「連邦憲法」の制定によって改善されなければならなかったのかについて、「建国の父祖達」の書いたものを検討する。
 1787年のフィラデルフィアでの「憲法制定会議」によって起草された「合衆国憲法」によって、現在につながる「連邦制度」が確立されたが、この草案の批准をめぐって、連邦派と州権派(フェデラリストとアンタイフェデラリスト)との熾烈な戦いがあったが、この過程を眺めながら、『ザ・フェデラリスト』の果たした役割を検討する。
 ワシントン政権の誕生以降は、細部を捨象していえば、州権派に対して、連邦派が連邦憲法をよりどころとしてその権限を拡大して行った歴史であるといってよい。勿論、合衆国憲法第6条(「国家最高法規」)はおきなよりどころであり、連邦制度の要といわれているが、第1条の8節3項(「州際通商条項」)や、同じく8節18項(「必要適切条項」)が果たした役割が大きいことは当然である。しかも、この憲法の解釈に関しては、最高裁判所の果たした役割が最も重要であったことは言うまでも無い。この講義の最後の数回においては、連邦権限の拡大に重要な意味を持った「マーシャル・コート」の判決を検証することにしたい。
評価方法 出席および討論への参加・貢献度、それに期末レポートを以って評価を行なう。
テキスト 特に一冊のテキストを指定はしないが、上記のシラバスから見て分かるように、原典史料をプリントして配布する予定である。底本となるのは
 Philip Kurland and Ralph Lerner eds., The Founders' Constitution, 5vols. (Chicago:The University of Chicago Press, 1987)
Herbert J. Storing ed., The Complete Anti-Federalist, 7vols. (Chicago: The University of Chicago Press, 1981)
Max Farrand ed., The Records of the Federal Convention, rev. ed. 4vols., (New Haven: Yale University Press, 1937)
Jonathan Elliot ed., The Debates on the Adoption of the Federal Convention, 5 vols. rep. ed. (New York :Burt Franklin Prints, 1974)
などがある。日本語のものとしては
  アメリカ学会編訳『原典アメリカ史』全7巻(東京:岩波書店,1950〜1982)とりわけ第1巻および第2巻、簡潔な日本語による史料としては:
  大下他編『史料が語るアメリカ』(東京:有斐閣,1989)
がある。
その他