南山大学

 

Ⅰ.授業の概要

①講義科目名(単位数)

刑法Ⅱ(2単位)

②担当者名

丸山 雅夫

③科目の種類

法律基本科目・刑事系

④必須の有無

必修

⑤配当学年・学期

2年(既修者コース:1年)・春学期

⑥授業の概要

刑法および刑事訴訟法の既修者を対象にした講義として、刑法の特に重要な論点を取り上げて集中的に議論します。学説上の対立が激しい問題であっても、実務上ほとんど争いのない論点は扱わず、実務上での対立が顕著な論点や学説と実務の結論が大きく異なる論点を取り上げます。また、古典的な論点だけでなく、環境犯罪やサイバー犯罪など、現代社会の直面する諸問題も取り上げる予定です。それぞれの論点について、具体的事例と論文を素材としてソクラテス・メソッドによって展開する講義にしますから、受講生の積極的な関与が前提となります。

⑦到達目標

それぞれの論点について、1.どのような対立点があるか、2.対立点についてどのような具体的判断がなされているかを確認したうえで、3.対立をもたらす理論的背景を明らかにし、4.妥当な解決の方向性(解釈論または立法論)を提示することを目標とします。具体的には、1.および2.について各人が簡単なメモを作成する(実務動向の確認作業)とともに、論文を読んで3.についての予習を行い(学説の確認作業)、4.についての差し当たっての方向性をもったうえで授業に臨んで深化させ、社会的に妥当な自説の構成を目指します。

⑧成績評価の基準と方法

各人があらかじめ作成したメモ(20%)と授業中のパフォーマンス(40%)、およびタームペーパー(40%)を総合して評点を決定します。

⑨教科書

井田良、丸山雅夫『ケーススタディ刑法[改訂版]』(日本評論社、2004年)

⑩参考文献・参考資料

山口厚『問題探究刑法総論』(有斐閣、1998年)

同『問題探究刑法各論』(有斐閣、1999年)

山口厚、佐伯仁志、井田良『理論刑法学の最前線』(岩波書店、2001年)

町野朔『犯罪各論の現在』(有斐閣、1996年)

その他、必要に応じて指示します

⑪履修条件その他の事項

未習者コース在籍者については、未習者向けの刑法と刑事訴訟法の講義を履修していることが必要です。

 

Ⅱ.授業計画

担当

①テーマ

授業内の学修活動

④授業時間外の学修活動等

②ねらい・内容

③授業方法・工夫

罪刑法定主義と我が国の裁判所の対応

罪刑法定主義の重要性を一般論として承認する我が国の裁判所が、具体的な事案の解決に当たって、柔軟な解釈で妥当な結論を導こうとしている点を再確認したうえで、現代社会における罪刑法定主義の意義と限界を明らかにします。

解説型の講義ではなく、各人の予習作業を前提として、頻繁な質問とそれへの対応を中心に双方向型で行います。

講義で扱うテーマについて、論点とそれに対する実務の動向についてメモを作成するとともに、学説の状況を確認したうえで、一応の自説の方向性を持って参加することが前提です。

因果関係論と犯罪論

判例の依拠する条件説と学説の主張する相当性説との対立状況と両者の異同を中心として、因果関係をめぐる諸問題を抽出して検討することを通じて、犯罪論において因果関係論が果たす(べき)役割を確認します。

同上

同上

正当防衛の理論と現実

正当防衛の成立を比較的緩やかに認めようとする学説と、成立要件を厳格に解する傾向にある判例とを比較検討したうえで、正当防衛権の限界を明らかにするとともに、違法性の本質と正当化事由の本質についても考察します。

同上

同上

安楽死と尊厳死

安楽死と尊厳死を正当化する論理を考察することを通じて、35条(一般的正当化事由)の解釈と責任阻却論の本質を検討します。また、刑法分野における生命倫理のあり方、法益としての生命の意義とそれに対する刑法の対応を確認します。

同上

同上

主観的違法要素と主観的正当化要素

結果無価値論と行為無価値論の対立が鋭く表面化する主観的要素の扱いを検討することによって、違法の実質をめぐる対立の意義と具体的結論の相違を明らかにしたうえで、我が国の裁判所が行為無価値論的な立場と親近性のあることを確認します。

同上

同上

障害未遂と中止未遂の区別

中止未遂が有利(必要的減免)に取り扱われる理論的根拠を検討し、それが中止未遂の成立要件にどのような形で反映しているかを確認したうえで、障害未遂と中止未遂を区別する一般的基準を明らかにします。

同上

同上

間接正犯と教唆犯

従属的共犯について極端従属形式を採る判例がどのような場合に間接正犯を肯定しているかを確認したうえで、制限従属形式を採る学説が間接正犯理論を承認する理由を考察し、間接正犯と教唆犯を区別する一般的基準を明らかにします。

同上

同上

実行共同正犯と共謀共同正犯

判例理論から出発した共謀共同正犯論が学説に定着してきた過程を確認したうえで、「実行」共同正犯および狭義の共犯との構造的な異同を明らかにし、共謀共同正犯の一般的成立要件と具体的な成立範囲を検討します。

同上

同上

刑罰論と量刑論

刑罰論と量刑論は従来の大学の講義では必ずしも丁寧に触れられてこなかったが、前者は刑法の最終手段性との関係で重要であり、後者は刑事裁判に対する行為者・被害者の満足という点でも重要なものです。刑罰のあり方に対する我が国の裁判所の態度を確認するとともに、具体的な事件における量刑の是非についても検討します。

同上

同上

10

民法理論と財産犯

民法の財産理論と刑法の財産理論は、基本的な部分では共通するものの、重要な点で異なることがあります。民法と刑法の役割の相違が「財産」犯概念・個々の財産犯の成立要件にどのような形で反映しているかを確認したうえで、財産犯の成立要件の特殊性を明らかにします。

同上

同上

11

公務(員)に関わる犯罪

公務(員)に関わる犯罪は、刑法典における公務執行妨害罪や贈収賄罪に限らず、特別刑法のなかにも多くのものが存在し、それらが世間の耳目を集めることが多くなっています。これらの一連の公務関連犯罪について、判例の動向を確認するとともに、構成要件の構造や刑罰の程度の是非について考察します。

同上

同上

12

交通犯罪

交通犯罪は日常茶飯の現象でありながら、従来は、個々の論点が脈絡なく議論されてきた嫌いがあります。ここでは、交通犯罪という統一的な観点から、交通事犯を業務上過失致死傷罪として構成することの是非や信頼の原則など、個々の論点を関連づけて考察します。

同上

同上

13

薬物犯罪

薬物犯罪は、我が国の現在を象徴する犯罪現象のひとつであり、社会の関心が高いにもかかわらず、大麻などの自己使用などに対する犯罪意識は低いという状況があります。特別刑法としての各種取締法の構造と特徴を明らかにするとともに、麻薬特例法による捜査手段や規制の特殊性について検討します。

同上

同上

14

サイバー犯罪

コンピュータおよびネットを利用した悪質な行為が多発しているのに対して、コンピュータ関連の刑罰法規は網羅的にはなっていません。さまざまな悪質行為に対する現行刑罰法規による対処可能性を検討したうえで、刑法解釈論の一般的限界を明らかにするとともに、立法論による解決の是非を考察します。

同上

同上

15

公害犯罪と環境犯罪

我が国は「公害を克服した」と言われますが、そのための刑法理論と刑事裁判の実際を跡づけたうえで、環境の積極的保護、さらには地球環境保護について刑法がなしうることを考察し、刑法の一般的限界を明らかにします。また、環境刑法の立法可能性についても検討します。

同上

同上