南山大学

 
指定
期間
春学期
単位
年次
1・2
担当者
吉田 竹也
講義題目
開講キャンパス
講義内容  この講義では、フィールドワーク実施から民族誌記述という一連の作業に焦点を当て、フィールドワークから民族誌の記述に至るまでの作業がもつ方法論的意義を明確にし、そこに内在する問題点を整理することから、文化人類学の視点や方法にたいする鋭敏な感性を養うことを目的とする。具体的には、近年の民族誌批判について、解釈人類学以降の研究を参照しながら検討していき、この近年の民族誌批判の核心が、人類学的研究のもつ倫理的な問題にまずもって存するということを明らかにする。
講義計画  文化人類学における民族誌論は、民族誌という方法についての一般論的検討と、特定の地域や時代に関する具体的な民族誌の成果そのものの検討という、この2つを交差させながら進めていく必要がある。そこで便宜上、講義の前半後半をそれぞれこの課題に割り当てる。つまり前半では民族誌の一般的検討をおこない、これを踏まえた上で、後半で特定の民族誌をひとつ(あるいは複数)取り上げて読み込みながら、文化人類学における民族誌というものの現状やそれがもつ可能性と限界を考えようとする。授業は、基本的に発表・討論形式で進める。なお、講義の前半部分は、学部の科目「民族誌学」の講義内容を踏まえていると理解が容易であるので、可能であればこの学部の講義を平行して履修することを薦める。

1.序論
 20世紀の民族誌の問題について、そして21世紀の民族誌のあるべきあり方について
 テキスト:「民族誌論覚書」
2.民族誌の古典 マリノフスキー
 各自でマリノフスキーとこの著作について調べ、これをもとに議論する。
 テキスト:『西太平洋の遠洋航海者』その他
3.民族誌/エスノグラフィー
 人類学以外の領域におけるエスノグラフィーを概観する。
 テキスト:『ハマータウンの野郎ども』
      および各自で社会学や民俗学など文化人類学の周辺領域の民族誌/民俗誌/エスノグラフィーについて調べ、報告する。
4.民族誌の金字塔 E-P
 英国社会人類学の民族誌研究の結晶ともいえる古典『ヌアー族』について検討する。なおその際、ポストモダン人類学による批判的検討についても触れる。
 テキスト:『ヌアー族』、『文化を書く』
5.民族誌批判
 『文化を書く』グループによる民族誌批判について検討する。
 テキスト:『文化を書く』とくにその「序論」
6.民族誌のリアリズムと真理性
 『文化を書く』グループの批判の核心である民族誌的リアリズム批判について、杉島および中川の議論を検討しながら、整理する。
 テキスト:クリフォード『文化の隘路』
      杉島「民族誌的リアリズムの終焉」
      中川「民族誌的真理について」
7 中間総括
 これまでの検討を振り返りながら総括討論をおこなう。とくに(1)書き手と書かれる側の差異性ないし非対称性、そこにある権威性の問題、(2)(1)の背景にある社会的歴史的構造の問題、(3)民族誌における妥当性/真理性の確保、こういった問題を中心に議論する。
8〜11.個別民族誌の検討(1)〜(4)
 調査データをおもな拠り所にした厚い記述によって、特定の時代・地域の社会文化のあり方を把握しようとする民族誌の特徴を、実際にひとつ(あるいは複数)の民族誌を読み込むことによって把握する。
 テキスト:できるだけ新しい民族誌の中から選択する。バリ島関係の民族誌を予定している。いまのところ候補は以下のものであり、受講者と話し合って決定する。
      (1)Schlte Nordholt 1996 The Spell of Power.
      (2)Robinson 1995 The Dark Side of Paradise.
      (3)Wiener 1995 Visible and Invisible Realms.
12.総括討論
 各自が簡単なメモを用意し、それにもとづいて意見交換・討論、総括する。
評価方法 毎回の授業への参加、発言/発表の内容、試験代わりのリポートを総合的に判断する。
テキスト
その他 毎回予習がたいへんかもしれないが、覚悟して授業に望んでほしい。