南山大学

 

Ⅰ.授業の概要

①講義科目名(単位数)

医療と法(2単位)

②担当者名

加藤 良夫

③科目の種類

展開・先端科目

④必須の有無

選択

⑤配当学年・学期

2・3年(既修者コース:1・2年)・秋学期

⑥授業の概要

患者の人権、医療契約、医療過誤訴訟を授業の中心テーマとして適宜憲法や自由権規約・民法のほか、医師法・医療法・臓器移植法等の関係法規の概要についても解説します。

患者の人権の歴史と現状、医療契約の内容、医師患者関係をめぐる紛争の実情認識とその原因・背景の分析、紛争解決のための手段、現行の法的枠組みの理解と実践的活用方法等についてシラバスに沿ってテキスト等で予習をさせ、具体的テーマについて、可能な限り双方向性、多方向性、参加型の授業の中で各自の学習成果を発表しやすくします。更には新しく生起する困難なテーマについても問題解決のためにどのような法的枠組みを構築するべきかを考えることのできる能力を養います。

⑦到達目標

理論と実務を架橋する教育の場において、現代社会にとって重要性を増している「医事法」分野を展開・先端科目の一つとして位置付けます。すなわち「医事法」は人権論、契約論、衛生行政法規、生命倫理等にかかわる総合的かつ実践的テーマを対象としています。学生は、法律基本科目群で学んだ知識を用いて、社会で生起している医事紛争等の解決のあり方にも関心を持つようになります。更には医療の分野で新しく生起する困難なテーマについても、どのような法的枠組みを構築するべきかを考えることのできる能力を養います。

⑧成績評価の基準と方法

「医事法」分野にかかわる具体的な事例について、将来、実務能力の高い法曹の一員として、そこに含まれているいくつかの論点を的確に抽出し、「医事法」の視点から筋道をつけて検討していくことができるかどうかが評価の基準となります。評価の方法としては、授業における意見発表及び討議の状況、レポートの結果を総合して評価します。

⑨教科書

前田達明ほか著『医事法』(有斐閣、2000年)

⑩参考文献・参考資料

『資料集 生命倫理と法』(太陽出版、2003年)

医療契約に関する研究報告書(名古屋弁護士会)

加藤良夫ほか著『患者側弁護士のための実践医療過誤訴訟』(日本評論社、2004年)

⑪履修条件その他の事項

 

 

Ⅱ.授業計画

担当

①テーマ

授業内の学修活動

④授業時間外の学修活動等

②ねらい・内容

③授業方法・工夫

「患者の人権」総論

「患者の人権」の歴史、背景を学びます。憲法、自由権規約、世界人権宣言等に表されている人権論を踏まえて、患者の人権の意義、位置付けを学習します。

ヘルシンキ宣言等の背景、歴史的意義をなるべく印象深く学ぶことができるようにビジュアルな資料も示します。

予め教科書、参考資料の該当部分を学習してくることが求められます。(以下同様です)

憲法の人権論を復習しておくことが必要です。

「患者の人権」各論①インフォームド・コンセント総説

「知る権利」(カルテの開示を含む)、「自己決定権」について理解させます。医療の中の患者の位置付けを確認したうえで、「主体」として必須の「知る権利」と「自己決定権」の重要性を学習します。

癌の病名告知、カルテ開示等具体的な問題を提起しディスカッション方式も取り入れ、興味がもてるようにします。

カルテ開示についての論争点を整理してくることが求められます。

「患者の人権」各論②インフォームド・コンセント①

何をどこまで知らせるか、危険性をどこまで伝えなければならないかを考えます。遺伝性疾患に罹患している可能性のある場合等様々な場面を想定して、インフォームド・コンセントの重要性を学習します。

ごく稀に、例えば一万分の一の確率で発現する副作用であっても知らせるとした場合、知った後の不安のフォローの大切さにも配慮できるように工夫します。

説明義務違反が主たる争点となった裁判例を調べてくることが求められます。

「患者の人権」各論③インフォームド・コンセント②

信仰による輸血拒否、治療拒絶を考えます。自己決定権と生命の価値が衝突する場面についてどのように考えたらよいかを学習します。

ディスカッション形式により、双方向、多方向の授業を作り上げます。

エホバの証人の輸血拒否に関する裁判例を予め学習してくることが必要です。

「医療契約」総論

医療契約の基本構造ならびに契約上の債権・債務の内容を学びます。

学問上、準委任契約と理解されている医療契約の特殊性を踏まえ、契約法理の観点から医療契約について考えます。

医療契約書のモデル案を示し要点を実践的に学び取ることができるように工夫します。

予め医療契約書のモデル案と解説を読んでくることが求められます。

「医療契約」各論①

「医療水準」を考えます。医療過誤となるかどうかは「医療水準」を下回ったかどうかで決まります。医療水準の決まり方、その内容について学習します。

「医療水準」「過失」の各概念についてディスカッションもしながら理解を深めます。

指定された「医療水準」に関する最高裁判決を予め読んでくることが必要です。

「医療契約」各論②

「問診義務」を考えます。医療過誤訴訟でしばしば重要な論点となる問診義務について学習します。

診断プロセスで問診が持つ重要性を踏まえて授業を展開します。

指定された問診義務違反に関する判例を読んでくることが必要です。

「医療契約」各論③

「転送義務」を考えます。各医療機関の機能の違いを踏まえて、どのような時に転送義務が必要となるのかについて学習します。

転送義務があるのに速やかに転送させないのはなぜかを考えることができるようにします。

指定された転送義務違反の判例を予め読んでくる必要があります。

「医療契約」各論④

契約の終了事由について検討します。患者の立場を保護する視点を踏まえて、契約の終了事由を具体的に検討します。

医師と患者の信頼関係が破綻した場合等を例示しながらイメージを持って学べるように工夫します。

予め提示された具体的な事例について、それが契約の終了事由となるかどうかを検討してくることが求められます。

10

医療過誤

何が医療過誤に当たるのか、医療過誤の諸類型を知ります。作為型、不作為型の区別、診療行為ごとの区別等、類型化することにより「医療過誤」の概念を学習します。

それぞれ典型的な具体例を示しつつ、イメージがつかめるように工夫します。

予め提示された具体的な事例について、それが医療過誤に該当するかどうかを検討してくることが求められます。

11

医療過誤訴訟①

医療過誤訴訟の論点を学びます。「過失の推定」「挙証責任の転換」「割合的因果関係」「延命利益」「期待権侵害」等の各論点について学習します。

具体的な事例を示して各概念が登場してきた背景にも触れ、興味がもてるようにします。

予め各概念について法律学辞典等で調べてくることが求められます。

12

医療過誤訴訟②

医療過誤訴訟の現状と問題点ならびにADR等について考えます。

司法改革の中で、裁判の迅速化、専門家の関与等が検討され、実務の世界も大きく変貌しています。その実情と問題点ならびに裁判以外の紛争解決のあり方としてのADR等について学習します。

医療過誤訴訟の現状を伝え、ADR等のパンフレットも示しつつ、問題状況と解決策を考えることができるように工夫します。

予めADR等についてインターネット等で調査してくることが求められます。

13

生命倫理と人権①

生殖補助医療の現状と問題点を考えます。

医療現場で行われている様々な医療行為のうち、特に人権上及び倫理上の問題点のありそうな分野を取り上げて考えます。(以下同じ)

不妊治療、受精卵や胚の保護、ES細胞、クローン技術、代理母等の現状と問題点を学習します。

ビジュアルな資料も用意して、理解がしやすいように工夫します。

予め提起された問題についてレポートを提出することが求められます。

14

生命倫理と人権②

移植医療の現状と問題点を考えます。

生体肝移植、脳死と臓器移植、小児からの臓器摘出等について検討します。

ビジュアルな資料も用意します。ディスカッションも取り入れることにより、理解が深まるように工夫します。

予め提起されたテーマについて、レポートを作成し提出することが求められます。

15

生命倫理と人権③

精神医療の現状と問題点を考えます。

精神疾患とその治療の概要ならびに精神保健法を解説し、精神医療とりわけ自由の拘束を伴う医療上の問題点を学習します。

精神医療の中で生じたいくつかの事件(新聞記事)をもとに問題点が鮮明に理解できるように工夫します。

精神保健法の概要を予め学習してくる必要があります。