南山大学

 

Ⅰ.授業の概要

①講義科目名(単位数)

保険法(2単位)

②担当者名

甘利 公人

③科目の種類

展開・先端科目

④必須の有無

選択

⑤配当学年・学期

2・3年(既修者コース:1・2年)・集中

⑥授業の概要

保険とは、将来の不測の損害をその可能性のある多数の者の出損によりてん補する制度です。広く保険法とは、社会保険や産業保険などの公保険に関する法や営利保険や相互保険などの私保険を含むが、本講義は、私保険の中でも営利保険に関する保険契約法を対象とします。保険契約法は、裁判例をとおしてはじめてよく理解できるので、特に重要な裁判例を選択して、その理論構成と理由付けを検討します。ケースメソッド方式により講義を行います。①受講者は、あらかじめ指示されたテーマに関する裁判例を読んで、判決の結論と理由付けについてその問題を整理する必要があります。②講義では、主に当該判決における争点につき、受講者が原告側と被告側とに分かれて、それぞれの立場から自己の見解の正当性を主張したり相手の見解を批判します。③このような議論を通して、商法の規定の立法趣旨や約款の制定趣旨を理解し、また実際の裁判ではどのような理論構成で結論が導かれているのかを検討します。④本講義では、保険契約法の諸問題について論理的な考察ができる能力の習得を目的とします。なお、下記の⑨と⑩は書店に在庫がない。資料はすべてシラバスシステムで配布する。

⑦到達目標

本講義は、民事法の基本的な科目である民法や商法の発展的科目として位置づけられる。保険契約も契約であるから、民法の契約法に関する一般原則に従うが、保険という特殊性(善意契約性、射倖契約性)からくる独特の制度や商法および約款の規定があります。これらの制度や契約条項の解釈問題の検討により、紛争解決のための妥当な理論構成ができる能力の習得を目標とします。

⑧成績評価の基準と方法

講義中の発言内容(4割)+レポート(6割)の点数で評価を行います。

⑨教科書

石田満『商法Ⅳ(保険法)〔改訂版〕』(青林書院、1997年)

⑩参考文献・

参考資料

鴻常夫他編『損害保険判例百選〔第二版〕』(有斐閣、1996年)

鴻常夫他編『生命保険判例百選〔増補版〕』(有斐閣、1988年)

⑪履修条件その他の事項

特になし

 

Ⅱ.授業計画

担当

①テーマ

授業内の学修活動

④授業時間外の学修活動等

②ねらい・内容

③授業方法・工夫

保険法総論

保険契約の法源としての普通保険約款について、それに対する立法的、行政的および司法的規制に関する裁判例を検討する。また、保険約款の法的拘束力の根拠について学説・判例を検討する。保険契約の性質および当事者と関係者について、その特殊性を検討する。

保険法の特殊性を理解してもらうために、民法の契約法における原則との違いを説明する。

指示された判例を講義までに読んでくること。また、その問題点を整理してくること。以下、同様とする。

損害保険総論

損害保険契約の意義について、損害てん補の例外との関係を検討する。告知・通知義務についての裁判例を検討し、生命保険のそれとの比較のための基礎とする。

損害保険の特殊性を、生命保険と比較して説明する。

 

被保険利益

「利益なければ保険無し」といわれているように、損害保険では被保険利益が重要な要素であるので、損害保険における被保険利益の意義とその機能について検討する。超過保険と重複保険について、商法の規定と約款との異同を検討する。

少なくとも日本の保険法では、被保険利益は損害保険特有のものとして考えられているが、それは妥当であるかについて説明する。

 

損害保険関係

保険契約者の主たる義務である保険料の支払いにおける諸問題を検討する。小切手や手形による支払、責任開始条項、責任持ちの特約、不履行の効果が問題となる。

手形法・小切手法と関係する問題を保険法の観点から説明する。

 

損害保険関係の変更

契約締結の当初予定していた保険関係に変更が生じた場合、保険関係にどのような影響を及ぼすのかについて、保険価額の変更、危険の減少・消滅、危険の著しい増加の項目につき検討する。とくに危険の著増については、主観的危険の著増が問題となっている。また、保険の目的物の譲渡については、保険債権の譲渡と対抗要件の問題を検討する。

指名債権譲渡の対抗要件の問題について、保険法の観点から説明する。

 

損害保険と担保権者の保護

保険の目的物に抵当権が設定されている場合、保険事故が発生したときに被保険者が有する保険金請求権にどのような影響を及ぼすのかについて、保険金請求権の物上代位性、質権設定、抵当権者特約、債権保全火災保険の項目に分けて検討する。

民法の担保法と関係する問題を保険法の観点から説明する。

 

保険者の損害てん補

保険者は保険期間内に保険事故が発生した場合に損害をてん補する(保険金を支払う)。保険事故発生の通知、因果関係、保険者の免責について検討する。とくに保険事故招致の免責については、主観的要件である故意免責と第三者による保険事故招致について検討する。

保険法における故意(悪意)とは何か、という永遠のテーマについて説明する。

 

保険代位

保険者が損害をてん補したときには、被保険者の有する権利を保険者に移転するものとしている。この保険者の代位について、残存物代位と請求権代位を検討する。また、保険利益享受約款や所得補償保険と代位の問題についても検討する。

保険法に特有の制度について、なぜそのような制度ができたのかについて説明する。

 

損害保険各則

損害保険のなかでもとくに重要な火災保険、運送保険、責任保険についての重要な論点を検討する。火災保険では地震免責条項、責任保険では被害者の地位がとくに問題となる。

責任保険における被害者の救済は、今後重要な問題となるので、これを中心として説明する。

 

10

自動車保険①

自動車保険では、自賠責保険と任意自動車保険に分けて検討する。自賠責については、自賠法3条の他人性(妻は他人か、運転代行業の依頼者の他人性)、運行概念、直接請求権、任意保険との関係の項目を検討する。

民法の不法行為法における理解を前提として、自賠法の特殊性を説明する。

 

11

自動車保険②

任意自動車保険では、許諾被保険者、搭乗者傷害保険と損益相殺、他車運転特約、家族限定特約および免責条項にいう配偶者の項目について検討する。

もっとも身近な自動車保険について、現在とくに問題となっているテーマについて説明する。

 

12

生命保険の意義

生命保険契約の定義、損害保険との異同、傷害保険との異同について検討する。また、他人の生命の保険契約と他人のためにする生命保険契約の問題点を検討する。

生命保険の特殊性を説明する。

 

13

保険金受取人の諸問題

生命保険契約では、とくに保険金受取人の権利が問題となる。保険金受取人の指定・変更(指定の意味と効力発生要件)、保険金受取人の保険事故発生前の死亡、解約返戻金の差押えについて検討する。

保険金受取人の権利はどのような権利なのか、第三者のためにする契約との違いを説明する。

 

14

生命保険の免責事由

自殺免責とモラルリスク対策が問題となる。法人による被保険者故殺、犯罪行為による死亡、特別解約権、災害関係特約・傷害特約における重過失の意義について検討する。

生命保険に特有の免責について説明する。

 

15

傷害保険

傷害保険はこれから重要となる保険種目である。傷害保険と保険代位、保険金受取人の権利の割合、外来の事故の意義、偶然性の立証責任、闘争行為免責の意義について検討する。

第三分野の保険として注目されているが、その特殊性を説明する。