南山大学

 
指定
選必
期間
春学期
単位
年次
1〜
担当者
川島 正樹
他の科目との関連
他学科履修
副題 アメリカニズムと「人種」
講義内容  平等な参政権などに基づく「民主主義」や市場原理に代表される「自由競争」などの普遍的理念を掲げて「近代」初頭に建国され、今日唯一の覇権国家として計り知れない影響力を行使するアメリカ合衆国の歴史を、そのような普遍的理念と明らかに矛盾する、今なお解消され難く残存する「人種」をめぐる諸問題を通して概観し、そのグローバル化が進展する現代世界に共通する本質的問題のひとつとして、その脱構築の道を模索します。
学修目標  常に同時代史としての現代史を意識しつつ、近現代という時代区分の意義を押さえ、近代世界システム論やヨーロッパ中心主義批判論を手がかりに、近現代の出発点の本質的問題性を把握します。とくに、奴隷貿易と奴隷制に注目しながら大西洋貿易システムを通じた英国の覇権の確立と英領北米植民地の発展,独立を経て南北戦争と二つの大戦を契機とした米国の覇権の確立から「第三世界」を巻き込んだ冷戦、そして冷戦後までの世界を、「上から」と「下から」の双方の視点を交錯させつつ概観します。
講義計画  現在、アメリカ合衆国(以下便宜的に「アメリカ」と略します)は日本と最も関係が深い国の筆頭に挙げられる国です。ところで、アメリカは「多民族社会」とか「多人種社会」とか言われることが多いと思いますが、これまでに皆さんはどうしてアメリカにそのような「多様性」が生じたか、どこまでご存知でしょうか。社会学者のStephen Steinbergは有名な『民族性の神話』の中で、アメリカの多様性を「先住民の征服と、アフリカ人の奴隷化と、移民の搾取」の結果の産物であると述べています。「民主主義の揺りかご」としてのアメリカで、実は植民地時代から「自由」と「不自由」は同時に展開し、それを規定してきたのが「人種」であり、それは奴隷制の解体後にも姿と言葉を変えて再生し、現在においてさえ統計数字上の明白な格差となって表れています。普遍的理念としての「アメリカニズム」と明確に相反する「人種」という排除の仕組みはどうしてアメリカ社会に歴史的に並存してきたのでしょうか。本講義では「人種」を切り口に、普遍主義的理念の国であるべきアメリカに歴史的に潜んできた本質的問題を抉り出すことを目標に掲げます。
 より具体的には次のような内容で毎回の授業を進めます(原則的に各項目を1時限の授業で終える予定です)。
1. はじめに——アメリカニズム/社会的構築物としての「人種」/「人種」の再定義の歴史
2. 第1章: アメリカ史の初期設定と「人種」——「自由」と「不自由」の同時展開
3. 第2章: 奴隷制廃止運動と「人種」——奴隷制廃止運動が拡大した理由を探る
4. 第3章: 「インディアン」と「人種」イデオロギー——先住民の「文明化」が含んだ奴隷制
5. 第4章: 「アメリカ人」に境界はあるのか?——南北戦争後のアメリカ社会と「人種」の再定義
6. 第5章: 「白人化」を許された「新移民」——「人種」で二又に裂かれた「同化=アメリカ化」
7. 第6章: 市民権運動(=公民権運動)の高揚——アメリカも「外圧」で変わった
8. 第7章: 住宅の「人種」隔離——アメリカ人はなぜ「人種」で住み分けるのか?
9. 第8章: 教育と「人種」の歴史と現在——「人種共学」と「教育の質」の両立目指して
10. 第9章: 「人種」と結婚をめぐって——「血の一滴の掟」の持続性
11. 第10章:スポーツにアファーマティヴ・アクションは不要か?——「身体能力」と「管理能力」
12. 第11章:「アイデンティティ」と「権利」をめぐる政治——「市民」としての団結を阻むもの
13. 第12章:比較の視点——南アフリカやブラジルと比べたアメリカの「人種」の現在
14. おわりに——「人種」の脱構築の方途を求めて
15. 期末試験
(毎回の授業の冒頭に「先週の新聞から」「今週のお勧め本」という10分間のコーナーを設けます)
評価方法  期末試験(定期試験期間中に行う論述式筆記テストで、テキスト配布資料手書きノートの持込を許可)80%に平常点(毎回の授業の最後の10分間に記入してもらう感想や質問など)20%を加点する。
テキスト 川島正樹編『アメリカニズムと「人種」』(名古屋大学出版会,2005年)。
その他