南山大学

 
指定
選必
期間
春学期
単位
年次
1〜4
担当者
川島 正樹
他の科目との関連
履修対象学科
副題 現代アメリカと日本の「二極化」(=「総中流社会」の破綻)をめぐる比較(史)的考察
授業概要  本講義では、近代の体制や人権の基礎が作られた18世紀当時の状況から、社会的、政治的状況の変遷を通して人権や人権思想がどのように変化してきたかを学びます。さらに人種問題や差別問題といった従来から注目されている人権問題を始め、さらにはプライバシー権、子どもや女性の権利、環境や企業における人権など、これまで見られなかった新たな人権問題をもクローズアップして、その問題の起源や原因を問い、解決の道を展望することを目指します。
学修目標  担当者が専門とするアメリカ合衆国の大都市中心部のゲットー地区の「アンダークラス」と呼ばれる「人種」差別と集中した貧困にさいなまれる人びとの問題を切り口に、それが「小さな政府」へと大きく方向転換する現在日本にも起こりつつある「格差」の拡大や「二極化」といった問題と不可分であることを理解し、産業構造の変化とグローバル化が進行する人類史的転換点である日本の「今」の問題の本質的理解と、解決の道の模索を努力目標として掲げます。
授業計画  現在世界の超大国として他国の「非民主的行為」を糺すために軍事力の行使もいとわず、自由と平等の国の代表とされるアメリカ合衆国は、19世紀半ばまでアフリカ系の人々を奴隷とし、奴隷解放後も時間をおかずにかつての南アフリカにおけるアパルトヘイトのような「人種」差別体制を再確立し、それは実に1965年まで持続しました。その後、市民権(公民権)運動の高揚という事態を迎え、アメリカ合衆国は独立から2世紀を経て「法の下での平等」という近代国家として当然果たすべき基本的な原則の確立という責務をようやく果たしました。こうしてキング牧師の「夢」は実現への大きな一歩を踏み出したかに見えました。1960年代後半に入ってリンドン・B・ジョンソン大統領の指導の下で「貧困との戦争」をメインに掲げた「偉大な社会」構想の推進によって、アメリカ合衆国は平等の実質化へ向けて大きく前進しました。しかし、現在アメリカ合衆国の大都市中心部には、多くは黒人から構成される、職に就く意欲さえ失ったとされる「アンダークラス」と呼ばれる人々の苦境が深まっています。
 他方「人種」の問題を免れているとはいえ、日本でも所得と職種の二極化が深刻化しつつあります。この授業では、アメリカ合衆国における「人種」問題の起源から出発して、現代の「アンダークラス」を取り巻く問題の原因を歴史的にたどりながら解決の道を展望することを目指し、実はこの問題が産業の「リストラ」や「構造改革」が叫ばれ、経済のグローバル化の波をもろにかぶりつつある現代の日本に住む私たちにも切実な問題になりつつあることも明らかにしていきます。財政赤字が膨らむ中で、これ以上の福祉国家を目指す「大きな政府」の維持は困難としても、果たして「小さな政府」の実現で問題は解決するのでしょうか。次の「はじめに」を除く各章をほぼ3〜4回ずつの授業でこなす予定です。

はじめに
第1章 近代世界システムとアメリカ合衆国の「人種」秩序
第2章 アメリカの「人種」をめぐる諸問題——産業構造の変化とグローバル化
第3章 日本における「二極化」の問題——何が変わってきたのか? どうすればよいのか?
評価方法 次の二つの合計によります。(1)「はじめに」を除く各章終了時の小テストと、(2)期末に提出するレポート。なお、レポート評価のポイントは、次の3点です:(1)レポート作成上の形式と作法(授業中に指示する)の遵守度、(2)授業内容を踏まえた上でのテキスト/参考文献の消化の程度、そして(3)問題点の絞り込みとえぐり出し方のうまさです。さらに、授業中に質問したり意見を述べたりした方には加点します(内容が悪くてもプラスに評価し、もちろん内容がよければ、なお加点)。
テキスト とくにテキストは定めませんが、参考書として川島正樹編『アメリカニズムと「人種」』(名古屋大学出版会、2005年)を強く推薦します。またその他の参考書類は授業中に紹介します。
その他