南山大学

 

Ⅰ.授業の概要

①講義科目名(単位数)

民事執行・保全法(2単位)

②担当者名

久世 表士

③科目の種類

展開・先端科目

④必須の有無

⑤配当学年・学期

2・3年(既修者コース:1・2年)・秋学期

⑥授業の概要

本講義では,民事執行手続と民事保全手続を学びます。民事執行手続は,権利実現の手続です。金銭に支払いや建物の明渡しについて判決を取得しても,訴訟で敗訴した被告が,任意に金銭の支払いや建物の明渡しをしない場合に,権利の強制的実現手段がなければ,その権利は絵に描いた餅にすぎません。また,不動産に抵当権などの担保権が設定されていても,それだけでは抵当権が把握した不動産の交換価値の実現はできません。そこで,国家権力を背景とした権利実現の手続としての民事執行手続が必要となる訳です。しかし,民事執行手続が完備していても,判決手続によって権利が確定するまでの間に,相手方の財産状態あるいは権利関係に変化が生じてしまうおそれがあります。そうなると,権利者がせっかく判決を取得したとしても権利実現が出来なくなってしまいます。そこで,このような事態を防止するために,暫定的に権利を確定したり,一定の法律的に地位を認める手続が必要となります。この手続が民事保全手続です。

⑦到達目標

民事執行手続と民事保全手続の基本構造と,実務で重要となる典型的事例を学ぶことによって,将来実務についたときに,戸惑うことがないようにするための基礎知識を習得します。教科書等には「権利実現手段としての執行・保全」と簡単に書いてありますが,いずれも現場のある手続であり,かつ,実力行使により相手方から動産を取上げたり,建物を取壊したりするという容赦のない世界です。建物の明渡執行の際,執行官が牛刀で切りつけられた例もあります。その意味で民事執行手続,民事保全手続は,机上の法律学とは異なることを学んで欲しいと思います。

⑧成績評価の基準と方法

日常点(20%),筆記試験(中間テスト,期末テスト)(80%)による。

⑨教科書

上原敏夫・長谷川由起子・山本和彦『民事執行・保全法[第2版] 』(有斐閣,2006年)

⑩参考文献・参考資料

司法研修所編『改定民事執行(補正版) 』『改定民事保全(補正版) 』(日本弁護士連合会,2005年),『民事執行・保全判例百選』(有斐閣,2005年)

⑪履修条件その他の事項

民法(特に担保物権法,債権総論),民事訴訟法についての理解が必要である。

 

Ⅱ.授業計画

担当

①テーマ

授業内の学修活動

④授業時間外の学修活動等

②ねらい・内容

③授業方法・工夫

1

民事執行手続の基本構造(1)

民事執行法の全体構造について,民事保全手続にも触れつつ概観します。

講義形式を基本にしますが,教材をもとに質問形式も取り入れます。

教科書の指定箇所,参考資料を読んで参加すること。

2

民事執行手続の基本構造(2)

民事執行の申立から終了までの一連の手続の流れを,民事執行を申立てる債権者の立場から説明します。民事執行手続が順調に進んだ場合です。

講義形式を基本にしますが,教材をもとに質問形式も取り入れます。

教科書の指定箇所,参考資料を読んで参加すること

3

民事執行手続の基本構造(3)

民事執行を受けた債務者や利害関係人の救済方法について説明します。具体的には執行機関の処分に対する不服申立である執行異議,執行抗告と執行関係訴訟(請求異議,第三者異議等)について学びます。

講義形式を基本にしますが,教材をもとに質問形式も取り入れます。

教科書の指定箇所,参考資料を読んで参加すること

4

金銭執行(1)

不動産強制競売・強制管理

債権者の金銭債権の権利実現をするために,執行裁判所が債務者の不動産を差押え,換価し,その代金を債権者に配当する強制競売手続と不動産の賃料等の収益をもって債権者の満足を与える強制管理について学びます。

講義形式で概要を説明したうえで,具体的な資料をもとに,申立実務等を実践的に学びます。

教科書の指定箇所,参考資料を読んで参加すること

5

金銭執行(2)

担保権の実行としての競売等,不動産収益執行

担保権実行として不動産競売,不動産収益執行について学びます。

講義形式で概要を説明したうえで,具体的な資料をもとに,申立実務等を実践的に学びます。

教科書の指定箇所,参考資料を読んで参加すること

6

金銭執行(3)

4,5の不動産執行のまとめ

これまで学んだ不動産執行についてまとめを行います。

 

講義形式でまとめを行います。

不動産執行について復習して参加すること

7

金銭執行(4)

動産・債権に対する強制執行と動産・債権等に対する担保権実行

債権者の金銭債権の権利実現をするために,執行官が債務者の占有する動産を差押え,強制換価し,その代金を債権者に配当する動産執行と債務者の第三債務者に対する債権(預金債権,給与債権等)を差押え,これを換価して債権者に満足を与える債権執行について学びます。また,これらの権利に対する担保権実行について学びます。

講義形式で概要を説明したうえで,具体的な資料をもとに,申立実務等を実践的に学びます。

教科書の指定箇所,参考資料を読んで参加すること

8

非金銭執行(1)

代替執行・間接強制・意思表示義務の執行

代替執行,間接強制,意思表示義務の強制執行について学びます。3講ないし5講で学んだ執行に比し,実務で執行される例は少ないと思われますが,基本的事項を学んでおく必要があります。

講義形式で概要を説明したうえで,具体的な資料をもとに,実践的に学びます。

教科書の指定箇所,参考資料を読んで参加すること

9

非金銭執行(2)

不動産・動産の引渡執行

建物収去土地明渡,建物明渡,動産引渡など,執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる強制執行について学びます。

講義形式で概要を説明したうえで,具体的な資料をもとに,申立実務等を実践的に学びます。

教科書の指定箇所,参考資料を読んで参加すること

10

民事保全手続の基本構造

民事保全の申立から終了までの一連の手続の流れを,債権者の立場(申立手続)と債務者の立場(不服申立手続)の両面から学びます。

講義形式を基本にしますが,教材をもとに質問形式も取り入れます。

教科書の指定箇所,参考資料を読んで参加すること

11

仮差押

不動産仮差押を中心に,動産の仮差押,債権の仮差押について学びます。将来の金銭執行に備える保全手続です。

講義形式で概要を説明したうえで,具体的な設例をもとに,申立実務等を実践的に学びます。

教科書の指定箇所,参考資料を読んで参加すること

12

係争物に関する仮処分(1) 

処分禁止の仮処分

処分禁止の仮処分について学びます。特定物の給付請求権を保全するための仮処分です。

講義形式で概要を説明したうえで,具体的な設例をもとに,申立実務等を実践的に学びます。

教科書の指定箇所,参考資料を読んで参加すること

13

係争物に関する仮処分(2)

占有移転禁止の仮処分

占有移転禁止の仮処分について学びます。将来の建物明渡執行等に備える保全処分です。

講義形式で概要を説明したうえで,具体的な設例をもとに,申立実務等を実践的に学びます。

教科書の指定箇所,参考資料を読んで参加すること

14

仮の地位を定める仮処分(3)

引渡断行の仮処分,意思表示を命ずる仮処分,競売手続停止の仮処分,通行妨害禁止の仮処分等について学びます。

講義形式で概要を説明したうえで,具体的な設例をもとに,申立実務等を実践的に学びます。

教科書の指定箇所,参考資料を読んで参加すること

15

仮の地位を定める仮処分(4)

日照妨害禁止の仮処分,街宣活動禁止の仮処分,金員支払いの仮処分,出版禁止の仮処分等について学びます。

講義形式で概要を説明したうえで,具体的な設例をもとに,申立実務等を実践的に学びます。

教科書の指定箇所,参考資料を読んで参加すること