南山大学

 

Ⅰ.授業の概要

①講義科目名(単位数)

消費者法(2単位)

②担当者名

宮下 修一

③科目の種類

展開・先端科目

④必須の有無

選択

⑤配当学年・学期

2・3年(既習者コース:1・2年)・集中

⑥授業の概要

21世紀を迎えてから、消費者法をとりまく状況は、文字通り激動の渦中におかれてきた。従来、わが国の消費者法は、社会的弱者である消費者に対して国が「保護」を与えるという観点から立法されてきた。しかし、1990年代半ばから強まってきた「規制緩和」の動きを受け、消費者保護のために国がさまざまな規制を行うのではなく、むしろ消費者の権利を強化して「自立」を図ることを目的とした立法が目指されるようになってきている。2000年以降だけをみても、消費者契約法・金融商品販売法・金融商品取引法(旧・証券取引法)・特定商取引法・割賦販売法等、数多くの法律について、新規の立法あるいは改正が次々と行われている。

 本講義では、上述した立法をめぐる動きとともに、現実に発生している消費者被害の実態もふまえて、消費者問題を法的観点から理論的・実証的に考察したうえで、21世紀の消費者法の課題と、今後の進むべき方向性を明らかにすることを目的とする。

⑦到達目標

 本講義においては、次の3点を到達目標とする。

1.消費者法が社会の中で生成されてきた歴史と背景をふまえて、消費者問題の現状と理論的・実践的基礎を理解する。

2.消費者法の体系と関連法規の関係、さらに法体系全体の中での消費者法の位置づけを理解する。

3.具体的な消費者問題について、適切な法的解決方法を考える能力を養う。

⑧成績評価の基準と方法

試験(70%)および毎回の出席・小レポートの提出(30%)

⑨教科書

テキストは特に指定せず、配布資料をもとに授業を進める。なお、消費者関連の法律の全文が掲載されているやや大きめの「六法」を、必ず毎回持参すること。

⑩参考文献・参考資料

 毎回の授業に際しては、下記の参考文献のいずれかの該当箇所に目を通しておくことが望ましい。

(1)大村敦志『消費者法(第3版)』(有斐閣、2006年)

(2)日本弁護士連合会編『消費者法講義(第2版)』(日本評論社、2007年)

(3)後藤巻則=村千鶴子=齋藤雅弘『アクセス消費者法(第2版)』(日本評論社、2007年)

⑪履修条件その他の事項

履修条件は特に設けないが、当然のことながら、未習者コース1年次で学習する科目の内容を十分に理解していることを前提とする。

本講義は、社会の中のさまざまな消費者問題をふまえつつ、「消費者法」さらに「法」のもつ意味について、教員と受講生が一緒に“考える”ことを最大の目的とする。本講義を受講するみなさんには、ぜひとも積極的に授業に参加してほしい。

 

Ⅱ.授業計画

担当

①テーマ

授業内の学修活動

授業時間外の学修活動等

②ねらい・内容

③授業方法・工夫

1

総論①

「消費者法」とは何か

 「消費者法」とは、そこに包含される法律が多岐にわたっているため、よく聞く言葉であるにもかかわらず、その内容は茫漠としてつかみにくい。そこで、まず、「消費者法」という分野で取り扱われる内容を概観する。

 「消費者法」の全体像を大まかにつかむため、新聞記事等の資料を用いて、消費者問題の具体例などを解説する。

集中講義初日であるため、参考文献に目を通して事前に十分な準備をしたうえで臨むことが望ましい。

2

総論②

消費者問題の現状と歴史的背景

 わが国において、消費者問題が明確に意識されるようになったのは1960年代のことであるが、現在の消費者立法は、いわば消費者被害のうえに作られたものであるといっても過言ではない。そこで、本講義では、消費者法の理解を深めるために、消費者問題の現状と歴史を振り返ることにする。

消費者被害の現状やこれまでの消費者被害の歴史を体感できるよう、具体的なデータや資料を用いて解説する。

集中講義初日であるため、参考文献に目を通して事前に十分な準備をしたうえで臨むことが望ましい。

3

総論③

消費者法の体系

 第1回の授業でもとりあげるように、「消費者法」は民事・刑事双方の幅広い分野にわたる法律を包含するものである。そこで、それらの法律が相互にどのような関係をもっているかを検討し、「消費者法の体系」を明らかにする。

 法体系の全体像を図示したうえで、「消費者法」相互関係を立体的・視覚的に捉える工夫をする。

集中講義初日であるため、参考文献に目を通して事前に十分な準備をしたうえで臨むことが望ましい。

4

総論④

消費者行政・教育のあり方

 現在、消費者行政は、各省庁がいわゆる「縦割り」で行っているため、それぞれが所管する法律の狭間で発生する消費者被害が少なからず存在する。また、消費者被害の多発を受けて、行政が担い手の中心となる消費者に対する教育の必要性も高まっている。「消費者庁」構想など、横断的な行政機構の整備の可能性もふまえて、あるべき消費者行政・教育のあり方を模索する。

 「縦割り」の消費者行政による弊害や、現在の消費者教育の問題点などを、具体例をあげながら示したうえで、その問題点を克服する方策を受講者とともに議論をする場を設定する。

 

集中講義初日であるため、参考文献に目を通して事前に十分な準備をしたうえで臨むことが望ましい。

5

総論⑤

消費者・消費者契約とは何か

 「消費者」・「事業者」とは、可変的・相対的概念である。したがって、「消費者」あるいは「消費者契約」といっても、その外延を画することは、きわめて難しい。そこで、本講義では、「消費者」・「消費者契約」の内容とその特性について考えてみることにしたい。

 同一人がそのおかれた状況に応じて、「消費者」あるいは「事業者」と立場を変える事例を設定することにより、具体的な形で問題を考える。

集中講義2日目の講義となるが、前日とりあげた内容を前提に話を進めるので、事前に復習して臨むこと。

6

各論①

契約締結過程・内容の適正化(その1)

 消費者法の中心を占めるのは、消費者契約をめぐる法制度である。とりわけ、契約締結過程あるいは締結された契約内容をめぐるトラブルに対応する法整備の動きが加速度的に進んでいる。そこで、最初に、消費者法の一般法といえる「消費者契約法」を中心に、上述した法制度を横断的に概観する。

 第3回目の講義でとりあげた「消費者法の体系」もふまえながら、契約締結過程・内容の適正化を図る法制度を、具体的な場面ごとに横断的に検討できるよう工夫する。

集中講義2日目の講義となるが、前日とりあげた内容を前提に話を進めるので、事前に復習して臨むこと。

7

各論②

契約締結過程・内容の適正化(その2)

 前回の授業をふまえて、最初に消費者契約の締結過程に関する法制度を詳しく検討する。本講義では、消費者契約法・特定商取引法上の契約取消権に関する規定を中心にとりあげる。

 消費者契約法・特定商取引法の適用の可否が問題となった裁判例の紹介・分析をふまえて、法規定のあり方と裁判所における法適用の実際とを具体的に把握する。

集中講義2日目の講義となるが、前日とりあげた内容を前提に話を進めるので、事前に復習して臨むこと。

8

各論③

契約締結過程・内容の適正化(その3)

 前回に引き続き、消費者契約の締結過程に関する法制度について、金融サービスに関する横断的立法である金融商品取引法・金融商品販売法、さらにいわゆる「業法」(業種別行政的規制立法)上の規制を中心に検討する。

 横断的立法であるはずの金融商品取引法・金融商品販売法、さらに業法による規制の利点と問題点、さらに複雑な相互関係を、わかりやすく整理して示すようにする。

集中講義2日目の講義となるが、前日とりあげた内容を前提に話を進めるので、事前に復習して臨むこと。

9

各論④

契約締結過程・内容の適正化(その4)

 締結された契約やそれに付随する約款の内容が消費者にとって不利なものであるために、後日トラブルが発生することもしばしばである。そこで、本講義では、第6回〜第8回でとりあげた各法律における契約内容規制にかかわる法制度のあり方を検討したい。

 各法律が対象とする場面について、具体的な事例・裁判例をできるだけ詳しく紹介したうえで、横断的な検討を通して法規制の狭間におかれた問題を浮き彫りにするよう工夫する。

集中講義3日目の講義となるが、前日までにとりあげた内容を前提に話を進めるので、事前に復習して臨むこと。

10

各論⑤

消費者信用のあり方(その1)

 消費者金融や割賦販売(クレジットを含む)など、いわゆる消費者信用については、法的な面にとどまらず、社会的・経済的に深刻な問題が生じている。特に、消費者金融については、貸金業法・出資法・利息制限法などが改正されたものの、まだまだその問題の解決にはほど遠い。そこで、まず、消費者金融について、法制度の変遷とその歴史的背景を押さえて、問題の本質の理解を試みる。

 これまでの消費者信用をめぐる法制度の変遷を単にたどるだけではなく、その背後にある社会的背景をふまえながら、法と社会の関係について複合的に捉えられるよう工夫する。

集中講義3日目の講義となるが、前日までにとりあげた内容を前提に話を進めるので、事前に復習して臨むこと。

11

各論⑥

消費者信用のあり方(その2)

 消費者金融と並んで、消費者信用に関する法制度のもう一方の核をなす割賦販売法についても、社会的問題の発生をふまえて、頻繁な改正がなされている。そこで、本講義では割賦販売法の内容を把握したうえで、とりわけ、いわゆるクレジット契約の場合に生じる、当事者以外を含む三者ないし四者間の取引関係を中心に、法的問題点を考察する。

 クレジット契約においてみられる三者ないし四者関係については、具体的に相互関係を図示することによって、立体的な理解ができるよう工夫する。

集中講義3日目の講義となるが、前日までにとりあげた内容を前提に話を進めるので、事前に復習して臨むこと。

12

各論⑦

公正な競争と消費者保護

企業によるカルテルや価格操作などについてはさまざまな法規制がなされているが、いまだそのような企業の行動に関する摘発が後を絶たない。また、食品などの商品表示の偽装をめぐる問題も頻発している。これは、単に消費者に不利益をもたらすのみならず、社会の中での公正な競争を阻害するものでもある。そこで、本講義では、上述した状況に対する法規制のあり方を概観する。

 経済法の分野とも重なる話となるが、できるだけ重複を避けるよう、消費者の立場に軸足を置く形で解説を試みる。

集中講義最終日の講義となるが、前日までにとりあげた内容を前提に話を進めるので、事前に復習して臨むこと。

13

各論⑧

商品の欠陥と消費者の安全

近時は、ガス湯沸器など、商品の欠陥による消費者被害も頻発している。このような被害に対応するための法律としては、「製造物責任法」または「消費生活用製品安全法」などがある。そこで、これらの法制度の内容と問題点を概観したうえで、被害を防止するための法制度のあり方を模索する。

 具体的な裁判例を示す、あるいは、具体的な対応関係を図示するなどして、制度の全体像を把握できるようにする。

集中講義最終日の講義となるが、前日までにとりあげた内容を前提に話を進めるので、事前に復習して臨むこと。

14

各論⑨

消費者被害の具体的救済方法

 被害者にとって最も重要なのは被害の具体的な回復であろうが、実際には、加害者側の財産状況が原因となって、十分な対応がなされないことも少なくない。また、このような被害の拡大をくい止めるために導入された「消費者団体訴訟」制度は、実際の運用にはまだまだ困難も多い。そこで、本講義では、消費者被害の具体的な救済方法のあり方について検討することにしたい。

 消費者被害を回復するための法制度や具体的な取組みを紹介したうえで、その問題点を克服する方策を受講者とともに議論をする場を設定する。

集中講義最終日の講義となるが、前日までにとりあげた内容を前提に話を進めるので、事前に復習して臨むこと。

15

まとめ

21世紀の消費者法——課題と方向

 現状の消費者法は、その統一へ向けた動きはみられるものの、まだまだモザイク模様で透視性が悪いものであることは否めない。一方で、現在、民法改正へ向けた動きも進んでいるが、その中では消費者法のうち私法に関わる部分を民法の中に取り込むことも模索されている。このような動きをふまえながら、新しい時代の消費者法制のあり方について検討することにしたい。

 現在進められている民法改正の動きを紹介したうえで、これまでの授業をふまえつつ、統一的な消費者法制のあり方について受講者とともに議論をする場を設定する。

集中講義最終日の講義となるが、前日までにとりあげた内容を前提に話を進めるので、事前に復習して臨むこと。