南山大学

 

Ⅰ.授業の概要

①講義科目名(単位数)

国際私法(2単位)

②担当者名

青木 清

③科目の種類

展開・先端科目

④必須の有無

選択

⑤配当学年・学期

2・3年(既修者コース:1・2年)・春学期

⑥授業の概要

 本講義は、国境をまたぐ形で発生する、取引や家族関係の形成等のいわゆる国際的な民商事法上の問題を、準拠法の決定・適用という、いわば実体法的な側面から分析、検討するものです。

 具体的には,日米、日韓、日中等の事例を中心に判例を取り上げ,それに基づいて授業を進めていきます。従って、受講者は、当然、事前に指定された判例を読んで出席しなければなりません。本講義の対象としては、原則として、国際財産法の分野を除く(この分野は国際取引法で扱う)、国際私法総論と国際家族法上の問題を扱う予定です。

⑦到達目標

 法律基本科目としてのいわゆる六法科目を学んだ学生たちに、国境を越えた形で発生する私法上の法律問題の解決方法ないし解決枠組みを学んでもらいます。

 具体的には,以下のような到達目標が設定されています。

a) 国際私法についての基本構造を理解することができる。

b) 準拠法の決定・適用構造を第3者にわかりやすく説明することができる。

c) 具体的事例について準拠法を決定し、その法の適用関係を批判的に分析することができる。

d) 同種事件に関する外国の紛争解決方法と比較しつつ,あるいは日本の戸籍制度や裁判制度に関連させながら、わが国際私法の解決枠組みとその問題点を分析・検討することができる。

 法は、基本的には、各国の主権の下に存在しており、従って、その主権を飛び越える形で生ずる法律問題には、国内問題とは異なる別個の解決方法ないし解決枠組みが準備されなければなりません。国際私法は、そうしたユニークな構造を持つ法律学の一つですが、これを学ぶとともに、外国法による解決についても理解を深め、複眼的な視点を有する幅の広い法律家としての素養を身につけさせることを本講義の最終的な目標としています。

⑧成績評価の基準と方法

成績は、授業への参加態度15%、アサイメントの準備度・適宜課すレポート15%、中間試験30%、さらには、学期末の試験40%によって行います。

⑨教科書

山田鐐一『国際私法[第3版]』(有斐閣、2004年)。

⑩参考文献・

参考資料

櫻田嘉章・道垣内正人編『国際私法判例百選〔新法対応補正版〕』(有斐閣、2007年)

澤木敬郎=編『国際私法の争点(新版)』(有斐閣、1996年)

⑪履修条件その他の事項

特になし

 

Ⅱ.授業計画

担当

①テ−マ

授業内の学修活動

④授業時間外の学修活動

②ねらい・内容

③授業方法・工夫

1

国際私法の基本構造

1.渉外事案の基本構造を理解する。

2.統一法などの形式による解決方法を理解する。

3.準拠法による解決方法を理解する。

 

 

1.横浜地判平成10年5月29日判タ1002号294頁を読み、国内事件との違いを考える。

単位法律関係、法律関係性質決定

1.準拠法を決定する単位となる単位法律関係を理解する。

2.個々の事案がいかなる単位法律関係に該当するかを決定する法律関係性質決定論の問題について、その理論構造と

解決のための諸説を理解する。

3.法律関係性質決定論を具体的事案に適

用する能力を身につける。

  時間があれば、第3回で扱う国籍の問

  題について一部言及する。

 

1.東京地判平成2年

  11月28日判時1384号71頁を読み、事実、争点、

  その解決方法を理解しておく。

国籍

1.国籍立法の3大原則を理解する。

2.わが国籍法の特質を理解する。

3.連結点たる国籍の役割について検討する。

 

 

1.国籍法14条〜16

条に定める国籍選択制度を理解しておく。

2.最判平成7年1月27日民集49巻1号56頁および最判平成9年10月17日民集51巻9号3925頁、両事件の論点を事前に整理し、理解しておく。

本国法の決定常居所

1.以下のケースの本国法決定の問題を理解する。

      重国籍者

      地域的不統一法国の国民

      人的不統一法国の国民

      分裂国家の国民

2.「常居所」を理解する

 

1.本国法決定の左

記ケースの解決法を、教科書の

該当箇所を読み、それぞれ理解しておく。

2.属人法に関する

本国法主義と住所地法主義の対立について理解する。

分裂国家の国民に関する法律問題

1.在日韓国・朝鮮人や在日中国人の国籍問題と 平和条約の関係を理解する。

2.在日韓国・朝鮮人や在日中国人の在留資格や外国人登録上の問題を解決する。

3.共通法秩序と日本国籍取得の問題について理解する。

 

1.最判昭和36年4月5日民集15巻4号657頁

2.最判平成10年3月12日民集52巻2号342頁

3.最判平成16年7月8日民集58巻5号1328頁

それぞれの論点を整理し、理解しておく。

反致

1.極めてユニークな構造を持つ「反致」を理解する。

2.反致の理論的および実際的根拠を検討する。

3.反致に対する批判意見を理解する。

 

1.最判平成6年3月8日家月46巻8号

59頁を読み、事実、争点、およびその解決方法について理解しておく。

外国法の適用と公序

1.国際私法上の公序の果たす役割を理解する。

2.公序が発動される基準を理解する。

3.外国法不明の場合の処理について考える。

 

1.最判昭和50年6月27日家月28巻4号83頁

2.最判昭和52年3月31日民集31巻2号365頁

3.最判昭和59年7月20日民集38巻8号1051頁

これら3事件を比べ、公序の適用基準を考えてくる。

先決問題、送致範囲の確定、適応問題

1.先決問題という概念のねらい、目的を理解する。

2.先決問題否定論の内容を理解する。

3.適応問題を理解する。

4.法律の回避という問題を理解する。

5.送致範囲という考え方を理解する。

 

1.最判平成12年1月27日民集54巻1号1頁

2.東京地判昭和48年4月26日判時721号66頁

それぞれの事実、争点そしてその解決方法を理解しておく。


婚姻の成立、渉外的身分関係と戸籍

1.重婚事例を使い、婚姻の成立の問題を理解する。

2.渉外的な婚姻が、わが国の戸籍上どのように扱われているかを理解する。

 

1.新潟地判昭和48年4月26日判タ658号205頁を例に、重婚事例の基本構造とその問題点を理解してくる。

10

婚姻の効力、離婚

1.3段階連結の構造を含め、離婚の準拠法を検討する。

2.「同一本国法」の意義を理解する。

 

1.東京地判平成2年4月27日(判タ766号25頁において紹介されている事例)

2.水戸家審平成3年3月4日家月45巻12号57頁

それぞれにつき、問題点を検討しておく。

11

嫡出・非嫡出親子関係の成立

1.嫡出親子関係の成立の問題を理解する。

2.非嫡出親子関係の成立の問題を理解する。

3.国境を越える生殖医療と国際私法の問題を考える。

 

1.前出の最判平成12年1月27日民集54巻1号1頁を利用して、法例17条と18条の適用関係について考えてくる。

12

養子縁組

1.諸国の養子縁組制度の違いを理解する。

2.特に米国の養子縁組制度を検討する。

3.米国人が養親、日本人が養子となる養子縁組のケースを考える。

4.隠れた反致につき考える。

 

1.徳島家審昭和60年8月5日家月38巻1号146頁の問題点を検討する。

2.わが民法の定める普通養子と特別養子の違いを考えてくる。

13

相続・遺言

1.相続準拠法の基本的考え方を理解する。

2.近時主張されている当事者自治の妥当性を検討する。

3.相続の場面で問題となる「個別準拠法は総括準拠法を破る」というルールを検討する。

 

1.最判平成6年3月8日民集48巻3号835頁及び大阪地判昭和62年2月27日判時1263号32頁を検討する。

2.英米法上の相続制度について調査をさせ、レポートを提出させる。

14

契約

1.契約準拠法に関する「当事者自治の原則」とその制限論について理解する。

2.客観的連結の議論を検討する。

 

1.東京地判昭和52年4月22日下民28巻1-4号399頁

2.東京地判昭和40年4月26日労民16巻2号308頁

それぞれにつき、論点を整理し、検討しておく。

15

不法行為

1.法行為の準拠法につき理解する。

2.日本に住む外国人の事故に関する損害賠償請求につき検討する。

 

1.最判平成14年9月26日民集56巻7号155頁

2.最判平成9年1月28日民集51巻1号78頁

それぞれにつき、論点を整理し、検討しておく。