南山大学

 

【科目コード】97607

【科目名称】外部監査

【担当者】柴田 和範

【単位数】2                    【配当年次】12    【開講期】秋学期

 

【授業概要】

2005913日公認会計士業界を揺るがす大事件が発生した。カネボウの粉飾決算は日本の四大監査法人のひとつである中央青山監査法人に所属する四人の公認会計士の逮捕に発展し、翌年においてその監査法人は破綻した。米国においても2002年エンロン社の監査に失敗した世界五大会計法人のひとつアーサー・アンダーセン会計法人が破綻した。監査法人の破綻という事態に証券市場は混乱し、政府は証券市場の健全性を確保するため、数々の規制を企業と公認会計士業界に課した。

しかしながら、相も変わらず、企業の粉飾問題は後を絶たず新聞紙上をにぎわせている。会計監査とは、公認会計士による保証業務である。

この講義では公認会計士の中心的な職務である財務諸表監査が社会に果たす役割を理解し、公認会計士に求められる資質、倫理観を理解する。又、金融商品取引法監査や会社法監査を中心に法制度の仕組みを理解する。

外部監査全体のフレームワークについて、理解できる流れの授業を考えている。また、監査の現場において生じる様々な事情もトピックな粉飾事件なども織り交ぜながら検討していく。

【到達目標】

財務諸表監査における基本的な概念の理解と実務における監査の実施プログラムを理解することを目標とする。さらに今日の監査がかかえている問題を蓋然的に理解する。

【授業計画】  

1.        監査に対する期待ギャップとは?

 会計監査は歴史的に失敗を積み重ねてきました。米国は監査の先輩ですが、米国においても日本においても失敗の連続です。そして今日においてもそうかもしれません。

では、社会が公認会計士に期待する監査とは何か?従前公認会計士業界は社会が期待する監査に対して、公認会計士が提供できる現状の監査との開きを期待ギャップと呼んでいました。公認会計士は期待ギャップを埋めるべく努力をしているのでしょうか?

2.        独立性の問題とは?

公認会計士は監査対象の会社から直接お金をもらって監査できるのか?という素朴な疑問があります。人間観の問題ともいえ、なるほどなぁと共感できます。皆さんからの提言があればディスカッションしたいと考えています。また、公認会計士の倫理観とはどうあるべきなのか?監査法人の交代制度をどのように考えますか?

3.        内部統制とは?

   会計監査は米国において発展して今日においては世界的な四大監査法人を創出したが、実は公認会計士による会計監査は失敗の連続でありました。企業に対する会計監査は所詮、精査はできないのでサンプリングによる試査によるほかありませんが、試査の範囲を決めたり、会計監査の範囲を決めるにあたっては、企業の内部統制に依拠せざるを得ないのが現実であります。したがって、公認会計士は企業における内部統制の理解が必要で内部統制の概念を小さく定義すれば、公認会計士の責任範囲は小さくなる。内部統制の概念を大きくすればする程公認会計士の責任は広くなります。したがって、内部統制と財務諸表監査の関わりを歴史的に考察し、公認会計士監査の歴史的な葛藤をベースに理解します。また、現在の内部統制概念の主流であるCOSOの内部統制概念の本質を理解します。

4.        監査手続きとしてのリスクアプローチとは?

   リスクアプローチ監査の概要について 固有リスク・統制リスク・重要な虚偽表示のリスク概念の理解を行ないます。

   リスクアプローチは、今日の監査手続の中で中心的な手法で、すべての項目に対して総括的に監査を行なうのではなく、経済環境や会社の特性などを勘案して財務諸表の重要な虚偽記載に繋がるリスクについて重点的に監査を行なうものであります。

5.        監査調書の作成

   監査調書は、万が一監査人の過失が問題とされた時に備えて、監査人が整備しておかなければならないいわばカルテであります。監査法人はどのように監査調書を作成しているか?監査計画書の作成事例を学習します。

6.        公認会計士及び監査法人に求める品質管理基準とは?

   公認会計士、監査法人にとっての内部統制の整備、運用とは、ある意味での会計監査品質管理体制の構築であります。監査の品質保持のためにどのような管理体制が組まれているか?金融庁の公表事例を通じて監査人のあるべき体制と問題を考えます。

7.        内部統制報告制度と内部統制監査について

エンロン事件以降、米国はその反省から企業自身に内部統制の整備運用状況を報告させ、これに監査を行う制度をSOX法にて実現させた。わが国も米国の流れをうけ、内部統制報告制度と内部統制監査制度を実施しています。この授業では概要と理解をめざし、同時に企業の負担面という点からも考察します。

8.        会社法が役員に求める内部統制構築責任とは?

わが国では、企業自身が不祥事を犯し、経営者が株主や第三者から管理責任を問われた時、「末端の組織の人間がやったことで知らなかった」という一言で無罪放免となっていました。しかしながらその内部統制の構築をするのが経営者でしょうという当たり前の結論をだした判決があります。それが大和銀行NY支店事件である。この判例はその後会社法に全面取り入れられわが国のコーポレートガバナンス整備の重要な役割をになった。今では当たり前であるが、当時相当スキャンダラスであった大和銀行NY支店事件を考察してみます。

9.        会社法の監査を考える。

   会社法のコーポレートガバナンスを理解します。企業内で会計監査を担う監査役監査制度を考えてみましょう?これに対して監査委員会制度を考えてみましょう。では我が国独自の会計参与制度とは何か?設置の経緯から、考えてみましょう。

10.     会計制度の発展は企業の決算発表にどのような影響をあたえたのか?

V字型回復とは何か?大きな決算数値のブレを伴う新会計制度と将来予測情報の監査との関係性

11.     ゴーイングコンサーンに関する問題?

   監査期待ギャップをうめるべく一つの解決がゴーイングコンサーン情報の開示でありました。情報開示後企業の突然死はなくなったのか?また新たな期待ギャップの可能性はないのか?という点について考えましょう。

12.     粉飾決算の動機と粉飾の手口を考える

 今日においても、粉飾による不正は消えることがありません。粉飾とは最も人間的な行動かもしれません。私は、人間=性弱説と名付けています。苦しい時に行う粉飾にはパターンもあります。パターン・手口を研究すれば、粉飾の発見につながります。

   あなたならどのような手口を考え粉飾するのかを聞いてみたいと思います。

13.     粉飾事例研究

   ある粉飾事例に的をしぼり考察する。

14.     粉飾事例研究

   第13回につづき異なる粉飾事例の研究

15.  将来の公認会計士監査を考える

   会計の世界は国際会計基準(IFRS)の話題でもちきりです。原則主義の会計となれば会計監査も少なからず影響を受けてきます。また、監査の世界でも国際監査基準とのクラリティプロジェクトが進行しています。グローバルスタンダードの元、世界の会計・監査の基準が統合化されつつあり、あたかも単一資本市場へ向かうかの如くです。このような中で資本市場はどのようにあるべきなのか?その中で公認会計士監査はどのように変化すべきか?では、グローバル社会とは異なってドメスティックな中小会社の会計監はどのようにあるべきか?監査コストの問題も踏まえて考えましょう?

【授業時間外の学習(準備学習など)】

  参考文献として記載しました(読み物)(マンガ)の中から2冊程度お読み下さい。

【評価方法】

   授業参加度   20

発表   40

クラスへの貢献度(クラスディスカッション)  40

【テキスト】

なし

【参考文献】

 (学習)

  千代田邦雄 『現代会計監査論』         税務経理協会  2009

  川口 勉  『最新監査事情』          税務経理協会  2009

吉見 宏  『ケースブック監査論第2版』    新世社     2005

  八田 進二 『会計・監査・ガバナンスの基本課題』同文館出版   2009

  森  実  『内部統制の基本問題』       白桃書房    2000

  鳥羽 至英 『不正な財務報告トレッドウェイ委員会報告』

八田 進二(共訳)               白桃書房    2000

  千代田邦雄 『アメリカ監査論第2版』      中央経済社   2005

  (読み物)

  白石 伸一 『会計監査12か月part2』     税務研究会出版局2010

  安部 喬  『監査法人入門』          講談社     2010

  小林 雄次 『監査法人』            TAC出版   2010

  高橋 篤史 『粉飾の論理』           東洋経済    2006

  種村 大基 『監査難民』            講談社     2007

  田中 慎一 『ライブドア監査人の告白』     ダイアモンド社 2006

  (マンガ)

  古谷 三敏 『レモンハートpart1』       日経BP社   2004

  古谷 三敏 『レモンハートpart2』       日経BP社   2010

日本公認会計士協会監修

【備考】