Ⅰ.授業の概要
①講義科目名(単位数) |
法と人間の尊厳(比較法制の視点)(2単位) |
②担当者名 |
大久保 泰甫 |
③科目の種類 |
人間の尊厳科目 |
④必須の有無 |
選択 |
⑤配当学年・学期 |
1・2・3年(既修者コース:1・2年)・春学期 |
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⑥授業の概要 |
「国際社会の中の日本法」をテーマとします。西洋法は、人間の有するかけがえのない価値及び権利の擁護を基本原理としており、全体として、文字通り「人間の尊厳」の実現を目指して来ましたが、日本近代法は、その圧倒的影響を受けつつも、同時に、独自の発展を遂げてきた面をも持っています。その過去から現在までの歩みを国際的視点から大局的に把握し、更に、最近開始されたアジアを中心とする諸国への法整備支援等、今後におけるその国際的役割の重要性について理解を深めます。 具体的な授業方法は、大要次の通りです。①あらかじめ、シラバス及び資料集を与えておく。②資料集は、一部分は授業中に受講者に実際に朗読してもらうために用い、他の一部分は、ミニ課題としてその読解を予め指定し、次回講義の中で時間を割いて内容の紹介を求める。③毎回、質疑応答の時間を設ける。 |
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⑦到達目標 |
将来の日本におけるプロフェッションとしての法曹にとって必要不可欠な、国際的な広い視野と法に対する深い洞察力、更には豊かな人間性を身につけることを最終目標としますが、このため、具体的には以下の諸点が受講生の獲得目標です。 (1) 近代日本に西洋法が移植されていく漸次的プロセスを、具体的事実に即しつつ理解すること。 (2) 国際社会の中における近代日本法の個性、及びその問題点(光の面と影の面)を客観的に把握すること。 (3) 現在までの歴史的体験を通じて独自の法を形成した日本が世界の中で占めている位置を自覚し、また、今後、わが国がどのような国際的貢献をなし得るか、アジア諸国への法整備支援事業を一事例としつつ考察を深めること。 |
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⑧成績評価の基準と方法 |
基準は、合格を、A,B,Cの3段階とします。 具体的方法は、以下によります。 ・ 出席及び発言の積極性[20%] ・ 課題に答える形式の小レポート[20%] ・ 期末のペーパーテスト[60%] |
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⑨教科書 |
教科書は使いませんが、資料集を用意します。 |
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⑩参考文献・ 参考資料 |
DAVID, R. et JAUFFRET-SPINOSI, C.., Les
grands systèmes de
droit contemporains, 11e éd., Paris, Dalloz, 2002. 伊藤正己編『岩波講座「現代法」第14巻・外国法と日本法』(岩波書店、1966) 大久保泰甫『日本近代法の父 ボワソナアド』(岩波新書、1977、補訂版1998) 大久保泰甫・高橋良彰『ボワソナード民法典の編纂』(雄松堂出版、1999) 日本評論社編『日本の法学』(日本評論社、1950) オプラ−(内藤頼博監修/納谷広美・高地茂世訳)『日本占領と法制改革』(日本評論社、1990) 北川善太郎「国際摩擦のなかの日本法」(上)(中)(下)、「NBL」、No.500—502、1992 竹下守夫他「座談会・法整備支援の現状と課題」(「Jurist」No.1243、2003) 以上は、網羅的なものではありません。 |
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⑪履修条件その他の事項 |
特になし。 |
Ⅱ.授業計画
回 担当 |
①テーマ |
授業内の学修活動 |
④授業時間外の学修活動等 |
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②ねらい・内容 |
③授業方法・工夫 |
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1 |
オリエンテ−ション |
シラバスに沿って授業計画の説明を行い、また受講者全員に、自己紹介及び「未来の履歴書」の作成を求めます。 |
「未来の履歴書」執筆は、受講者各人の将来の展望と個人的問題意識を把握する基礎資料とする。 |
第2回で使用するオタワ大学のサイトの事前の検索。 |
2 |
世界の主要法体系と日本法の位置付け |
フランスの比較法学者ルネ・ダヴィッドの法系論、及びカナだのオタワ大学のサイト(World Legal Systems)を紹介し、またその批判的検討を通して、世界的規模における法体系の分布の現状を、特に西洋法移植の視座から認識し、更に、日本法の位置付けについて考察します。 |
一方通行のレクチャーは避けて、受講者を指名して資料集の該当部分(法系論)を読み上げて貰い、且つ質問を行う。 |
幕末の不平等条約のうち、日米修好通商条約(1858)の不平等性を示す条文の予習。 |
3 |
近代日本における西洋法継受・原因と全体的概観 |
明治前半期の最大の対外的課題であった不平等条約(幕末の「安政条約」)改正の前提条件として、西洋列強諸国から法制度(裁判制度、法曹養成を含む)整備を強く迫られた事実などの西洋法移植の原因を述べ、次いで、チャートを用いて西洋法継受のプロセスを全体的に概観します。 |
チャート使用により、時代の流れと変遷の把握・理解を容易にする。 |
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4 |
フランス法優位時代⑴ 法典翻訳 |
ナポレオンの諸法典がなぜ翻訳の対象となったのか、翻訳を可能とした条件は何だったのか、翻訳を担当した人物 (箕作麟祥) はどういう人であったのか、どのような困難に直面したのか、などの問題を、今日、途上国において進行中の、大規模な法整備事業の場合と比較しつつ取り上げます。 |
OHPを多数使用して、幕末・明治初期という日本社会の140—150年前の状態の追体験を促す。 |
ボワソナードの「拷問廃止建白書」に述べられた拷問廃止を必要とする理由を事前にまとめておく。 |
5 |
フランス法優位時代⑵ 法律家招聘 |
G. ボワソナード(パリ大学教授)を中心として、その他に、G.ブスケ、G. アペールなどのお雇いフランス人法律家の人物と業績を紹介します。また、ボワソナードの初期の業績として極めて重要な、拷問廃止の建白活動と、これに対する日本側の対応を取り上げ、刑事法における人権思想の本格的導入について考察します。 |
OHPを使用。 |
次回テーマの司法省法学校の代表的卒業生1〜2名の経歴の事前調査 |
6 |
フランス法優位時代⑶ 法学教育 |
法曹(主に裁判官検察官)養成を目的として、司法省に附置された法学校(主としてフランス法を教えた)の教師、教育課程と内容、卒業生などその歴史を辿ります。付随して、最初は英米法の教育機関であった東京大学法学部、及び多数の私立法律学校の創設と動向にも言及します。 |
当時の東京地図を用いて、学校の所在地を明らかにする等具体的なイメージを提供。 |
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7 |
フランス法優位時代⑷ 法典編纂 |
日本最初の近代法典である旧刑法及び治罪法(明治14年施行)に簡単に触れた後、旧民法(明治23年公布、財産法部分はボワソナード、家族法部分は日本人が草案起草)の編纂過程と法典の特色を明確にします。関連して、裁判所構成法、民事訴訟法、商法等の編纂も取り扱います。 |
編纂過程については、表にまとめて分かりやすく説明 |
「明治14年政変」の事前学習 |
8 |
フランス法からドイツ法へ |
憲法モデル問題と「法典論争」事件、の2つがトピックとなります。前者では、ドイツ法が明治憲法のモデルとされた経緯(明治14年政変及びそれ以後)を説明します (この憲法によって、確かに、民選議院設置・基本的人権の一定の保障は実現したが、同時に、Rule
of lawよりもRule by law重点の路線が選択された)。後者の「法典論争」では、外来法に対して伝統を重んじる法的道徳的観念の強力な反撃と並んで、最新のドイツ民法草案を重視すべしという立場が勝利した事を詳論します。 |
論争における論点が何であったのかを、原史料を参照して学ぶ。 |
次回の質疑応答及び討論の準備のため、今回までの授業内容のレヴユ−を求める。 |
9 |
明治民法典の成立とその内容 |
明治民法典(財産法部分は現行法)の編纂、及びその内容を、主として旧民法との連続と断絶という角度から説明します。 また、この回の後半では、これまで8回の授業を踏まえて、質疑・討論を行います。 |
質疑応答・デイスカッションによる授業への積極的参加 |
次回テーマに関する資料の一読 |
10 |
ドイツ法(学)全盛時代 |
近代法体系の整備(と条約改正の達成)の後、1900年頃より約20年間、「学説継受」ともよばれるドイツ法学輸入の全盛時代が到来します。この時期の代表的法学者の経歴、業績等を資料によって学びます。 |
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11 |
転換期—「生きた法」への関心・調停制度・陪審法 |
第1次世界大戦後、国際的にも国内的にも、激しい変化(政治的・社会的・経済的な)が生じ、それと共に、法と法学も大きく転換していきます。まず、転換を主導した法学者(末弘厳太郎)の思想と業績を紹介し、次に、調停制度の導入、及び陪審法成立の過程と意義について理解を深めます。 時間的余裕があれば、戦争期の法と法学に触れます。 |
法及び法学の変化・革新が、時代の大きな転換と関連していたことを学ぶ。 |
次回テーマに関する資料の予習 |
12 |
敗戦とアメリカ法の移植 |
戦後の法的大変革を対象とします。具体的には、新憲法、刑事訴訟法、労働法等を素材として、敗戦と占領という未曾有の「外圧」によって、民主主義、人権、Rule of lawなど、「人間の尊厳」の理念と不可分一体をなす西洋法の基本的原理が、改めて本格的に導入されていったプロセスを確認していきます。 |
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次回テーマに関する資料の予習 |
13 |
戦後50年間の日本法に対する西洋の眼差し ——その変遷—— |
テーマについて論述した資料(戦後50年間を4つの時期に区分して分析)を素材として、日本社会及び日本法に対する西洋諸国の見方と評価がどのように変遷してきたかを把握します。更に、最近よく引用される「法化社会に日本は変わる」という言葉について考えます。 |
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『法整備支援—顔の見える国際協力—』(法務省法務総合研究所)等の配付資料の一読。 |
14 |
アジア法整備支援の国際的背景と日本の役割 |
現在進行中の「法のグローバル化」の諸局面と問題点について十分に理解を深めた後、その一環として、多数のドナー(国際機関、諸国)によって、世界的規模で競合的に展開されている法整備支援事業に焦点をあて、特に、最近10年間における日本の対アジア諸国を中心とする支援事業の現状と課題を考察します。 また、ヴェトナム・カンボジア・ラオス等日本が法整備支援を行っている国からの法律家または留学生を可能な限りゲストとして招く予定です。 |
条件が整えば、ゲスト・スピーカーによる生きた証言・体験に接する。 |
次回の討論準備のため、この回までの授業内容のレヴュ− |
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まとめ |
明治初期から現在に至る「国際社会の中の日本法」の歩みを大局的に把握し、その上に立って、日本の法及び法曹に与えられた今後の課題と、そのあるべき姿について展望を試みることを目的として、質疑応答と討論を行います。可能な限り受講者全員に発言を求めます。 |
質疑応答・デイスカッションによる授業への積極的参加 |
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