Ⅰ.授業の概要
①講義科目名(単位数) |
法と人間の尊厳(歴史の視点)(2単位) |
②担当者名 |
田中 実 |
③科目の種類 |
人間の尊厳科目 |
④必須の有無 |
選択 |
⑤配当学年・学期 |
1・2・3年(既修者コース:1・2年)・秋学期 |
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⑥授業の概要 |
法は、宗教や哲学など他の領域に委ねることのできない自立した領域で「人間の尊厳」を実現する役割を担うものです。古代ローマは、人間にとって有用なものとしての財貨の帰属をめぐる紛争を解決するにあたって、例えば多数決原理などを採用する議会とは距離をおき、論拠を限定しつつも開かれた議論を許容する法制度の構築に成功しました。そこで作られた概念、議論の枠組、法制度は今日でも、諸国の、そして西欧法を継受した我国の法律学の基盤をなしています。 法の専門家の多くが、財産をめぐる真摯な紛争解決をめぐり発達させたこの知的な遺産の素養を持たず、超越的な価値を直接に援用し感情的な議論を常とするようになることは、人間の尊厳にとっては、好ましいこととは言えません。わが国では、大陸法系の国でありながら法学部でもローマ法を学ぶ機会が必修科目として設定されていませんから、この講義では初学者を念頭に、総論としてローマ法の意義やその基本構造、歴史的展開を説明し、各論として相続法を含む広い意味での民法財産法のいくつかの制度を解説する予定です。 |
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⑦到達目標 |
各国の法制度の共通文法ともいえるローマ法の基本的な知識を得て、現行法制度がいかに豊かな歴史的伝統のもとで作られているかの認識を深める、と同時に、今日の日本の法や法律学において、ひいては社会において用いられる概念、発想、立論を批判的に検討する能力を養うことを目標とします。 |
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⑧成績評価の基準と方法 |
詳細は、履修状況を鑑み、初回講義で確定します。基本的な基準はレポートまたは筆記試験を予定しています。講義への出席も勘案されます。 |
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⑨教科書 |
なし。 資料を配布します。 |
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⑩参考文献・参考資料 |
参考文献として、ゲオルク・クリンゲンベルク著(瀧澤栄治訳)『ローマ債権法講義』(大学教育出版)、原田慶吉著『ローマ法—改訂—』有斐閣、原田慶吉著『日本民法典の史的素描』創文社を挙げておきます。ドイツ、フランス、イタリアで出版されたローマ法の教科書の抜粋(担当者の邦訳)を配布する場合もあります。 |
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⑪履修条件その他の事項 |
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Ⅱ.授業計画
回 担当 |
①テーマ |
授業内の学修活動 |
④授業時間外の学修活動等 |
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②ねらい・内容 |
③授業方法・工夫 |
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1 |
イントロダクション |
古代ローマ法および『ローマ法大全』の基本事項を解説し、中世イタリアのローマ法註釈などを紹介し、中世・近代におけるローマ法の意義を説明します。 |
講義 重要文献の紹介 |
ヨーロッパ史の整理 |
2 |
ローマの社会構造 |
ローマの歴史的発展と社会および家構造を解説します。 |
講義 |
善管注意義務の整理 |
3 |
ローマの裁判制度 |
ローマの訴訟制度の変遷と代表的な裁判制度を解説し、法と裁判制度の意味を考えます。 |
講義 訴訟制度の復元過程の紹介 |
近代 |
4 |
特有財産制度 |
家父権に服する奴隷や家息と契約を締結した相手方がいかに保護されてきたかを解説し、ローマの奴隷制社会の制度的枠組みを習得し、今日の代理制度や有限責任の考え方を理解する視座を与えます。 |
講義 |
近代代理制度の整理 |
5 |
ローマの所有権 |
ローマの絶対的所有権の基本的な構造を学びます。 |
講義 公法と私法の意義の再検討 |
所有権のイデオロギー批判の検討 |
6 |
中世・近代の所有権論 |
大陸とイングランドを視野に、封建制度と所有権の法学的把握を解説します。 |
講義 |
封建社会と近代社会の基盤 |
7 |
ローマの占有 |
難解な占有制度の鍵概念をローマの特示命令の構造から解説します。 |
講義 近代の占有概念の再検討 |
占有をめぐる判例の検討 |
8 |
合意と契約 法律行為としての契約 |
ローマの契約訴権と近世の議論を解説し、日本の法律行為論との違いを浮き彫りにします。 |
講義 合意論の整理 |
法律行為概念の整理 |
9 |
典型契約の洗練 |
誠意契約としての売買を解説します。 |
講義 |
売買法の様々な議論の整理 |
10 |
典型契約の洗練 |
売買以外の典型契約を解説します。 |
講義 |
売買以外の契約法の整理 |
11 |
非典型契約の救済 |
前書訴権による救済を解説します。 |
講義 範例援用や類推の整理 |
契約の性質決定論の整理 |
12 |
ローマの不法行為法と罰訴権の展開 |
ローマの不法行為法と、近世ドイツの法学者による批判を解説します。 |
講義 |
不法行為法の整理 |
13 |
法定相続の歴史的意味 |
ローマ法と中世フランス慣習法の法定相続の諸問題を解説します。 |
講義 |
相続法の基礎理論の整理 |
14 |
ローマの遺言制度 |
相続人指定と遺贈を峻別する、ローマの遺言制度を解説します。 |
講義 用益権の意義の説明 |
相続法の各論の整理 |
15 |
まとめ |
講義のまとめを行い、ローマ法から自由と解釈手法の問題に言及します。 |
講義 解釈手法の整理 |
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