南山大学

 

Ⅰ.授業の概要

①講義科目名(単位数)

税法(2単位)

②担当者名

占部 裕典

③科目の種類

展開・先端科目

④必須の有無

選択

⑤配当学年・学期

2・3年(既修者コース:1・2年)・集中

⑥授業の概要

講義の内容は、租税法の基礎理論、租税実体法、租税手続法、租税争訟法に及びます。講義のはじめ30分程度は租税法法規に照らしながら、毎回テ−マの重点項目を概説しますが、この時点で毎回のみなさんの予習の程度をチェックします。そのうえで重要判例にもとづいて設定した事例(ケ−ス)を取りあげ、全員で討議を行います。争点に係る判例・学説の検討についてはケ−スを通じて、以下のように点に配慮しながら行います。上記の領域のいくつかにまたがる事例をできる限り取りあげ、横断的な議論を行います。なお、租税法は新司法試験の選択科目であるので、今後、試験の範囲がさらに明確になれば、講義内容に若干の変更が生ずることがあります。

(1)租税法の解釈の特殊性(税法と憲法・私法等の交錯を含む)

(2)税務争訟の中心となる主要税目の課税要件の争点(重要判例を中心にしたケ−ス・メソッドを用いる)

(3)税務紛争に応じた税務争訟方法の選択

(4)具体的な税務争訟での主張・立証のあり方

 本科目(講義)は、紛争処理能力やタックス・プランニングの能力の養成を第1にしていますので、個別領域ごとの限られた議論はしません。また、課税要件事実は私法上の法律関係を前提にしていますので、私法の広範囲な知識も要求されます。

 なお、重点項目に相当する部分のテキスト等の講読、事例の検討が事前に受講生に要求されることは当然です。

⑦到達目標

本科目の受講生については、下記のような内容についての能力や知識を習得させることを目的としています。

(1)租税法の解釈の特殊性(税法と憲法・私法等の交錯を含む)に対応した法解釈能力

(2)税務争訟の中心となる主要税目の課税要件の修得

(3)税務紛争に応じた税務争訟方法の選択と審理の進め方

⑧成績評価の基準と方法

定期試験問題は、3題の事例(横断的な事例)によります。原則として、定期試験の成績(7割)と平常点(3割)で評価を行います。

⑨教科書

占部裕典『租税法講義サブノ−ト(副教材)』(清文社、2002年)

金子宏『租税法(10版)』(弘文堂・2005年)

適宜、事例集をコピ−して配布します。

⑩参考文献・参考資料

占部裕典『租税法の解釈と立法政策(I・II)』(2分冊)(信山社・2002年)

占部裕典『租税債務確定手続』(信山社・1998年)

三木義一・関根稔・占部裕典『実務家のための税務相談(民法編)』(有斐閣、2006年近刊)

 

⑪履修条件その他の事項

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Ⅱ.授業計画

担当

①テーマ

授業内の学修活動

④授業時間外の学修活動等

②ねらい・内容

③授業方法・工夫

租税法(国税)の体系と私法との関係

租税法は無数の法律と命令(施行令・施行規則)からなりたっていますので、租税法の体系をまず理解することを目的とします。そのうえで租税法の解釈原理(文理解釈)を私法(民法・商法等)と租税法の関連性に着目しながら検討し、私法との関係についての重要性を認識します。特に後者については、「譲渡担保と課税」「不動産の取得と課税」「時効と課税」に係る判例(最高裁昭和48年1月16日判決・民集27−10−1333頁、東京地裁昭和49年7月15日判決・月報20巻10号139頁、大阪高裁平成14年7月25日判決・訟月49巻5号1617頁、最高裁平成元年9月14日判決・判時1336号93頁)等を素材にした事例で討議することになります。

関係判例を集約した1つの事例を作成し、討議

事前に指示をする事例の争点についてのとりまとめ、関係判例の熟読

地方税法の体系と地方税条例との関係

地方税法の解釈原理及び地方税条例の関係を理解することを目的とします。また、地方公共団体の自主課税権の限界(条例制定上の原則等)を論ずる予定です。事業税(外形標準課税)、法定外税、固定資産税(駅ナカ問題等)の法的な問題を主として取りあげることになリます。大牟田電気ガス税訴訟や東京都銀行税判決はここで取りあげます(福岡地裁昭和55年6月5日判決・月報26巻9号1572頁、東京地裁平成14年3月26日判決・判タ1099号103頁等)。

関係判例を集約した1つの事例を作成し、討議

事前に指示をする事例の争点についてのとりまとめ、関係判例の熟読

 

(1)租税法律主義と具体的な適用場面

(4)租税平等主義と具体的な適用場面

憲法上の課税原則である租税法律主義が租税法規の立法及び解釈にあたり、具体的にどのように適用されるかをみていきます。課税要件法定主義・課税要件明確主義・合法性の原則、手続保障の原則にかかわる個別事例を取りあげます。租税法規不遡及の原則と例外、租税法律主義の一場面である合法性の原則の例外(租税法における信義誠実の原則)、通達課税による弊害などもここで事例を通じてあわせて理解することになります。仙台高裁昭和57年7月23日判決・行裁例集33巻7号1616頁、札幌高裁平成11年12月21日判決・判時1723号37頁、名古屋高裁昭和55年9月16日判決・行裁例集31巻9号1825頁、最高裁昭和62年10月30日判決・月報34巻4号853頁、札幌高裁平成11年12月21日判決・訟月47巻6号1479頁等を取りあげます。

憲法上の課税原則である租税平等主義が租税法規の立法及び解釈にあたり、具体的にどのように適用されるかをみていきます。「担税力に即した課税」を課税立法、税務執行及び法解釈の場面で検討していきます。累進税率、時価の評価、給与所得控除、租税特別措置について主としてみていきますが、租税法規に係る違憲判断基準についても検討します。最高裁昭和60年3月27日判決・民集39巻2号247頁、最高裁昭和58年11月1日判決・裁判集民140号281頁、最高裁平成5年2月18日判決・判時1451号106頁、大阪高裁平成12年4月14日判決・月報45巻6号112頁等を取りあげます。

関係判例を集約した1つの事例を作成し、討議

 

事前に指示をする事例の争点についてのとりまとめ、関係判例の熟読

 

租税回避行為と課税

租税回避行為がいかなる場合に否認されるかを論じます。判例が分かれている領域ですので、学説・判例の動向を詳細に検討します。特に最近の課税庁の否認のための手法である「私法上の法律構成による否認」についても詳細に検討を加えることにします。「同族会社の行為計算の否認」規定の適用上の問題もここで取りあげます。東京高裁平成11年6月21日判決・判時1685号33頁、大阪高裁平成12年1月16日判決・月報47巻12号3768頁、大阪高裁平成15年10月10日判決・判タ1120号134頁、東京地裁平成元年4月17日判決・月報35巻10号2004頁等を取りあげます。次回にも一部時間を割きます。

関係判例を集約した1つの事例を作成し、討議

事前に指示をする事例の争点についてのとりまとめ、関係判例の熟読

租税回避行為と課税(前回の続き)、企業形態の選択と所得の帰属

課税要件のうち、特に納税義務者と所得の帰属を取りあげます。さまざまな私法上の企業形態(団体)と納税義務者との関係も論じます。人格なき社団や信託(特定信託等を含む)の課税、さらに課税単位の問題もここで取りあげます。そのうえで、納税義務者と課税物件たる所得の関係について(所得がだれに帰属するかという帰属のル−ル)を論じます。最高裁平成15年6月12日判決・判タ1127号95頁、東京高裁平成3年6月6日判決・訟月38巻5号878頁、福岡高裁平成2年7月18日判決・判時1395号34頁、東京高裁平成2年4月20日判決・判時1352号3頁等を取りあげます。

関係判例を集約した1つの事例を作成し、討議

事前に指示をする事例の争点についてのとりまとめ、関係判例の熟読

所得税制度の基本的仕組みと課税理論

所得税法の租税実体規定の内容及びその背景にある租税理論を理解したうえで、具体的な事例に基づいて所得税額を算出させます。ある程度の計算(あるいはその理解)ができなければ弁護士として税務訴訟を十分に担当することはできません。租税特別措置法に基づく分離課税、特に不動産・株式の申告分離課税及び利子・配当(一部)の一律源泉分離課税の制度的な問題点をもあわせて検討します。ここで取りあげる重要判例は損益通算、所得控除関係に係るものです。最高裁平成2年3月23日判決・判時1354号59頁、東京地裁平成10年2月24判決・判タ1004号142頁、最高裁平成9年9月9日判決・月報44巻6号1009頁、最高裁平成3年10月17日判決・月報38巻5号911頁等を取りあげます。

関係判例を集約した1つの事例を作成し、討議

事前に指示をする事例の争点についてのとりまとめ、関係判例の熟読

勤労性所得に対する課税と資産性所得に対する課税

ここでは利子・配当等の金融商品課税、フリンジ・ベネフィット課税(ストック・オプション課税を含む)、退職所得課税の問題(10年退職金事件等)をまず検討します。次に、譲渡所得課税の趣旨、キャピタル・ゲイン課税(財産分与に係る課税関係)、譲渡所得の金額の計算に際しての取得費等の範囲などを論じます。10種類の所得分類のうち、重要な法的問題を抱える所得を中心に検討していきます。なお、源泉徴収手続の抱える法的な問題は給与所得との関係でのみ論ずることにします。大阪高裁昭和63年3月31日判決・月報34巻10号2096頁、最高裁昭和55年9月9判決・民集37巻7号962頁、最高裁昭和43年10月31日判決・月報14巻12号1442頁等を取りあげます。

関係判例を集約した1つの事例を作成し、討議

事前に指示をする事例の争点についてのとりまとめ、関係判例の熟読

収益の計上時期と必要経費の範囲

所得税法における収入の計上時期(所得の年度帰属の問題)について検討を加えます。主として、権利確定主義及び管理支配基準、その他の特別の規定による収益の計上基準(現金主義等)を論ずることになります。 そのうえで、必要経費の範囲について家事費、家事関連費、損害賠償金、親族に対する給与等の支払(所得税法56条を含む)等を順次検討していきます。資産損失も必要経費との関連のなかで論じます。重要判例として、最高裁平成5年11月25日判決・民集47巻9号5278頁、最高裁昭和56年10月8判決・月報28巻1号163頁、最高裁昭和60年4月18日判決・月報31巻12号3147頁、最高裁平成10年11月10判決・判時1661号29頁、最高裁平成6年9月16日判決・刑集48巻6号357頁等を取りあげます。

関係判例を集約した1つの事例を作成し、討議

事前に指示をする事例の争点についてのとりまとめ、関係判例の熟読

法人税制度の基本的枠組みと課税理論

法人税法の所得と商法上の当期利益との関係(確定決算主義、法人税法と企業会計原則等の関係)を理解したうえで、法人税法・租税特別措置法における所得の金額の算定規定(いわゆる別段の定め)を検討します。重要な損金不算入規定を中心に、議論します。法人税法上の権利確定主義の例外(時価主義)や法人税と所得税の二重課税等(あるいは統合)の理論的な問題もここで取りあげる予定です。大阪高裁平成3年12月19日判決・行裁例集42巻11=12号1894頁、東京高裁昭和48年8月31日判決・行裁決例集24巻8=9号846頁、東京地裁昭和46年6月29日判決・行裁例集22巻6号85頁、最高裁平成11年6月12日判決・判時1648号53頁、東京高裁昭和56年11月18日判決・行裁例集32巻11号1998頁、福岡高裁平成11年2月17日判決・月報6巻10号3878頁等を取りあげます。

関係判例を集約した1つの事例を作成し、討議

事前に指示をする事例の争点についてのとりまとめ、関係判例の熟読

10

企業再編税制と連結納税制度

法人の設立・合併・分割及び解散をめぐる所得課税の制度(法人組織再編税制を含む)及び連結納税制度の基本的枠組み及びその背景にある租税理論を会計原則、商法の規定と関連づけながら検討していきます。特にこれらの制度を用いたタックス・プランニングの重要性及び租税回避行為に対する課税庁の対応についても検討を加えます。どちらの制度も平成13・14年度にわたり導入されたものであり判例等は存しませんが、今後の企業活動にとってもっとも重要な領域の1つです。

関係判例を集約した1つの事例を作成し、討議

事前に指示をする事例の争点についてのとりまとめ、関係判例の熟読

11

所得税法・法人税法にかかる総合事例の検討

4〜9までの知識を前提とした総合問題を検討します。

全員で討論

事例についてのレポート

12

相続税制度(贈与税を含む)の基本的枠組みと法的問題

相続税及び贈与税の税額の算定構造とその制度の理論的な背景を検討します。みなし相続・みなし贈与、及び財産評価(不動産と株式の評価)については特に詳細に検討を加える予定にしています。そのうえで、代償分割、遺留分減殺請求、負担付き贈与等の相続税法における課税関係と民法との接点に係る問題について議論をしていきます。東京高裁昭和56年1月28日判決・行裁例集32巻1号106頁、最高裁昭和61年12月5日判決・月報32巻8号2154頁等を取りあげます。

関係判例を集約した1つの事例を作成し、討議

事前に指示をする事例の争点についてのとりまとめ、関係判例の熟読

13

消費税制度の基本的枠組みと法的問題

わが国の消費税の構造と特徴を明らかにしたうえで、消費税の税額(税額の計算構造と税額控除)の算定に至る過程を検討します。そのうえで、特に法解釈上問題の生ずる、「資産の譲渡等」(課税対象)の該当性と仕入税額控除の許容性に係る問題を議論します。東京地裁平成9年8月8日判決・行裁例集48巻7=8号539頁、大阪地裁平成10年8月10日判決・判時1661号31頁、東京地裁平成11年3月30日判決・月報46巻2号899頁等を取りあげます。

関係判例を集約した1つの事例を作成し、討議

事前に指示をする事例の争点についてのとりまとめ、関係判例の熟読

14

租税債務確定手続と滞納手続

納税義務の確定手続・修正手続(決定・更正・更正の請求、修正申告)、附帯税(加算税を中心)の法的問題を検討します。そのうえで租税債務の消滅時効等を取りあげることとなります。なお、税務調査(推計課税を含む)の法的問題もここで取りあげます。

なお、滞納については、一連の滞納処分の手続、要件等の流れを説明したうえで、特に国税・地方税間の調整、私債権との調整、破産手続との関係を重点的に解説します。

最高裁昭和43年6月27日判決・民集22巻6号1379頁、最高裁平成7年4月28日判決・民集49巻4号1193頁、最高裁昭和62年4月21日判決・民集41巻3号329頁、最高裁平成18年4月25日判決、最高裁平成18年10月24日判決等を取りあげます。

関係判例を集約した1つの事例を作成し、討議

事前に指示をする事例の争点についてのとりまとめ、関係判例の熟読

15

租税救済制度の概要と税務訴訟の審理手続

租税争訟手続(行政不服審査法・行政事件訴訟法の特例である国税通則法)の特殊性を理解したうえで、訴えの利益、附記理由の差替え(主張制限を含む)、立証責任、争点主義と総額主義における審理手続の相違を中心に検討を加えていきます。なお、国家賠償請求訴訟による実質的な税金の返還に係る問題もここで取りあげる予定にしています。最高裁昭和56年7月14判決・民集35巻5号901頁、最高裁昭和42年9月19日判決・民集21巻7号1828頁等を取りあげます。

関係判例を集約した1つの事例を作成し、討議

事前に指示をする事例の争点についてのとりまとめ、関係判例の熟読