Ⅰ.授業の概要
①科目名(単位数) |
刑法Ⅰ(4単位) |
②担当者名 |
末道 康之 |
③科目の種類 |
法律基本科目・刑事系 |
④必須の有無 |
必修 |
⑤配当学年・学期 |
1年(既修者コース・免除)・春学期 |
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⑥授業の概要 |
本講義は刑法総論・各論の内容を融合した形で、法学未修者を対象として、刑法の重要論点について講義形式で授業を進めます。受講者には予め講義内容・範囲を詳細に示したレジュメを配付し、受講者はそれに基づき十分に予習をしてくることを前提に授業を進めます。 一方的な講義をできるだけ避けるために、受講者に事前に講義に関連する事例問題等の設問を提示し、授業において設問に対する解答を求めながら、双方向の授業を行うようにしたいと考えています。先ず、重要判例・学説の分析を通して、刑事司法実務にも対応した刑法解釈論を理解することができるようになることを目標とします。 |
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⑦到達目標 |
本講義は基本的には法学未修者を対象とした刑法の講義であるので、既に刑法を履修している学生と同程度のレベルにまで刑法の基本的論点について理解を深めることができるようにすることが本講義の目標です。 まず、刑法の体系的理解を前提として、実務との関連を重視しつつ、刑法解釈学の方法論を理解することが重要です。 刑法総論・各論を4単位でカバーするためには効率的に授業を進める必要があるので、学生にも事前に十分な予習をして授業に望むことが求められます。重要判例・学説を理解し、具体的事例の解決について、柔軟に対応する能力を習得することが重要です。 |
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⑧成績評価の基準と方法 |
定期試験と中間試験の結果で判断します。定期試験6割、中間試験4割として評価します。なお、中間試験を最低1回実施します。 |
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⑨教科書 |
井田良『講義刑法学・総論』(有斐閣、2008年) 大谷実『刑法講義各論(新版第3版)』(成文堂、2009年) 西田典之『刑法各論(第5版)』(弘文堂、2010年) 事前に刑法Ⅰ教材を配付します。 |
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⑩参考文献・参考資料 |
井田良『刑法各論(第2版)』(弘文堂、2007年) 西田典之『刑法総論(第2版)』(弘文堂、2010年) 大谷実『刑法講義総論(新版第3版)』(成文堂、2009年) 裁判所職員総合研修所監修『刑法総論講義案(三訂補訂版)』(司法協会、2009年) 幕田英雄『捜査実例中心刑法総論解説』(東京法令出版、2009年) 刑法判例百選Ⅰ(総論第6版)・Ⅱ(各論第6版)(有斐閣、2008年) |
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⑪履修条件その他の事項 |
特にありません |
Ⅱ.授業計画
回 担当 |
①テーマ |
授業内の学修活動 |
④授業時間外の学修活動等 |
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②ねらい・内容 |
③授業方法・工夫 |
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1 |
刑法の基礎理論と刑事法の全体構造 |
犯罪論の基礎理論について説明し、刑法の存在意義、犯罪論の体系、犯罪の本質を巡る結果無価値論と行為無価値論の対立について検討します。 |
刑法の本質を巡る基本的な問題を扱い、内容も抽象的な問題を含むので、できる限り具体的な事例を提示しながら説明したいと考えています。 |
指定された文献を予習しておいて下さい。 |
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2 |
不作為犯論 |
不真正不作為犯を中心として、不作為犯の構造、作為義務、不作為の因果関係について検討する。また、ひき逃げの事例についても検討します。 |
具体的な事例の検討を行ないながら、理解を深めます。 |
指定された参考文献、授業で取り上げる判例及び判例評釈を熟読しておいて下さい。 |
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3 |
因果関係論 |
因果関係の基礎となる条件関係について説明したうえで、条件説と相当因果関係説さらに客観的帰属論について検討し、判例における相当性の判断基準について検討します。 |
因果関係については重要な判例が多く、判例理論の分析に重点をおいて検討します。 |
指定された参考文献、関連する最高裁判例及び調査官の判例解説を熟読しておいて下さい。 |
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4 |
故意論 |
故意の内容・種類(特に未必の故意と認識ある過失の区別)、故意の成立に必要な事実の認識について検討します。 |
理論的には故意の体系的地位についての議論を前提として、具体的事例(特に薬物事犯)の分析を通して故意の成立に必要な事実の認識について検討します。 |
指定された参考文献及び関連する重要判例を予習しておいて下さい。 |
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5 |
事実の錯誤論 |
具体的事実の錯誤と故意の個数について学説・判例を分析し、抽象的事実の錯誤については故意の成立と構成要件の重なり合いについて検討します。 |
事実の錯誤に関する判例・学説の検討を行い、実務の現状把握に努めます。 |
指定された参考文献、関連する最高裁判例等及び判例解説を熟読しておいて下さい。 |
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6 |
違法性の意識と違法性の錯誤 |
故意と違法性の意識の関係について学説・判例を分析し、違法性の錯誤について論じます。(第11回 責任論 参照) |
違法性の意識を巡る学説・判例の状況分析を踏まえて、具体的事例の分析を通して問題の理解に努めます。 |
指定された参考文献、重要判例を予習しておいて下さい。 |
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7 |
過失犯論 |
過失の意義を説明し、旧過失論と新過失論の関係、過失犯の成立要件、危険の引き受け、監督過失について検討します。 |
過失犯の理論的構造を理解し、最近問題とされた重要判例を中心として過失の概念について検討します。 |
指定された参考文献、重要判例・判例解説を予習しておいて下さい。 |
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8 |
正当防衛論 |
正当化の根拠と正当防衛の成立要件について説明し、侵害の不正性(対物防衛論)、判例を素材として急迫性の概念と積極的加害意思との関係、防衛の意思について論じる。違法性阻却事由の錯誤(誤想防衛)についても検討します。 |
実務において、正当防衛の成立要件がどのように理解されているのか、特に急迫性の概念と防衛の意思を中心として議論します。 |
指定された参考文献と重要判例・判例解説を熟読しておいて下さい。 |
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9 |
緊急避難論 |
緊急避難の法的性格と成立要件について説明し、正当防衛と緊急避難の限界について検討します。 |
緊急避難の法的性格に関する最近の議論を検討し、強要緊急避難について論じます。 |
指定された参考文献と判例を予習しておいて下さい。 |
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10 |
正当行為と被害者の承諾 |
正当行為一般について説明し、被害者の承諾について、同意の効果や同意傷害・自殺関与罪との関連について論じます。 |
同意傷害の違法性、錯誤に基づく同意の効果、同意の認識の要否について重点的に検討します。 |
指定された参考文献と判例を一読しておいて下さい。 |
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11 |
責任論 |
責任主義と規範的責任論について説明し、責任能力と原因において自由な行為について検討します。(第6回 違法性の意識と違法性の錯誤 参照) |
責任概念の実質を巡る理論的な議論を前提として、責任要素に関する検討を行ないます。 |
指定された参考文献と判例を予習しておいて下さい。 |
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12 |
未遂犯論 |
実行の着手の意義と判断基準について判例を素材に検討し、不能犯と危険概念、中止犯の法的性格と成立要件について検討します。 |
未遂犯論では、結果無価値論と行為無価値論の対立が明確となるので、実務の現状を踏まえつつ、実行の着手論、不能犯論、中止犯論を議論します。 |
指定された参考文献と判例を予習しておいて下さい。 |
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13 |
正犯と共犯 教唆犯と幇助犯 |
間接正犯と教唆犯の限界、共犯の処罰根拠、教唆犯・幇助犯の成立要件、未遂の教唆、幇助の因果性、幇助犯と共同正犯の区別について検討します。 |
正犯の概念の基準としての危険性と支配性、共犯の従属性の概念を中心に、間接正犯、教唆犯、幇助犯についての問題点を検討します。 |
指定された参考文献と判例・判例解説を一読しておいて下さい。 |
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14 |
共同正犯 |
共同正犯の意義と成立要件について説明し、共謀共同正犯、承継的共同正犯(事後強盗罪及び同時傷害の特例との関係)、過失の共同正犯について検討します。 |
実務における共犯事例の大部分は共同正犯であるので、共同正犯論について実務の現状を前提に検討を進めます。 |
指定された参考文献と判例・判例解説を熟読しておいて下さい。 |
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15 |
共犯と身分 |
身分の意義と65条1項と2項の解釈について検討します。また、事後強盗罪との関連についても検討します。 |
理論的に65条1項と2項との関係について判例・学説の現状を理解し、具体的な事例を素材として解釈論を展開します。 |
指定された参考文献と判例・判例解説を予習しておいて下さい。 |
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16 |
共犯の諸問題 |
不作為と共犯、共犯と錯誤、共犯からの離脱、共同正犯と正当防衛について検討します。 |
具体的事例の検討を通して、それぞれの論点についての理解を深めます。 |
指定された参考文献と判例・判例解説を予習しておいて下さい。 |
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17 |
罪数論 刑罰論 |
単純一罪、法条競合、包括一罪、科刑上一罪、併合罪について解説します。 刑罰の基礎理論、刑罰の執行等について解説します。 |
罪数論は実務上重要であり、具体的な事例を取り上げ、実務の現状の理解に努めます。 総論に関する理解を確認します。 |
指定された参考文献と判例を予習しておいて下さい。 |
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18 |
生命身体に対する罪 |
生命・身体に対する侵害犯と生命・身体に対する危険犯について検討します。 |
人の始期と終期を巡る議論を念頭に、胎児傷害、暴行概念、遺棄の概念、危険運転致死傷罪等について検討します。 |
指定された参考文献と判例を予習しておいて下さい。 |
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19 |
自由に対する罪 |
「自由」を保護法益とする犯罪と「私的領域」を保護法益とする犯罪を中心に検討します。 |
逮捕監禁罪の保護法益論、住居侵入罪の保護法益論を中心に議論を進めます。 |
指定された参考文献と判例を予習しておいて下さい。 |
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20 |
性的自由に対する罪及びわいせつの罪 |
強制わいせつ罪及び強姦罪について検討する。なお、わいせつ犯罪特にインターネットを利用した犯罪形態についても検討します。 |
刑法典以外の処罰規定(児童買春処罰法等)にも言及します。また、わいせつ概念の現代的様相についても検討します。 |
指定された参考文献と判例を予習しておいて下さい。 |
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21 |
名誉毀損罪 |
名誉毀損を中心に、名誉の意義、真実性の証明を検討する。信用毀損罪及び業務に対する罪についても検討します。 |
名誉の保護と表現の自由の調和を念頭に置き、真実性の証明規定と真実性の錯誤を巡る判例・学説の検討を重点的に行ないます。 |
指定された参考文献と最高裁判例を予習しておいて下さい。 |
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22 |
財産犯総論と窃盗罪(器物損壊罪及び盗品関与罪を含む) |
財産犯の保護法益、不法領得の意思と財物の概念、窃盗罪と毀棄罪の関係、盗品関与罪の本質、親族相盗例等について順次検討します。 |
判例を素材として、各論点について議論を進めます。 |
指定された参考文献と判例を予習しておいて下さい。 |
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23 |
強盗罪 |
強盗罪の本質、1項強盗と2項強盗、事後強盗、昏睡強盗、強盗致死傷罪について順次検討します。 |
具体的事例を素材として、強盗罪の暴行・脅迫概念、暴行・脅迫後の領得意志、強盗利得罪における処分行為の要否等を中心として議論を進めます。 |
指定された参考文献と判例を予習しておいて下さい。 |
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24 |
詐欺罪・恐喝罪 |
詐欺罪と恐喝罪の成立要件を検討し、関連するクレジットカード詐欺、権利行使と恐喝罪の成否について検討します。 |
キセル乗車、クレジットカードの不正使用、無意識的処分行為、権利行使と恐喝等の論点を重点的に取り上げます。 |
指定された参考文献と判例を一読しておいて下さい。 |
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25 |
横領罪・背任罪 |
横領罪と背任罪の成立要件を検討し、横領罪と背任罪の関係について検討します。 |
不法原因給付物と横領、背任罪における他人の事務、横領と背任の区別等の論点を特に取り上げて議論します。 |
指定された参考文献と判例を予習しておいて下さい。 |
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26 |
公共の安全に対する罪 |
放火罪を中心に公共危険犯について検討します。 |
建造物の一体性、放火罪の既遂時期、公共の危険の認識の要否等の論点について検討します。 |
指定された参考文献と判例を一読しておいて下さい。 |
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27 |
偽造罪1 |
文書偽造罪を中心に検討する。文書・電磁的記録の意義、保護法益(形式主義と実質主義)、作成名義人、偽造の概念について論じ、各犯罪類型について検討します。 |
写真コピーの文書性、代理名義の冒用、補助公務員の文書作成権限、名義人の同意と私文書偽造罪の成否等の論点について検討します。 |
指定された参考文献と判例を一読しておいて下さい。 |
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28 |
偽造罪2 |
その他の偽造罪(通貨偽造罪、有価証券偽罪、支払用カード電磁的記録不正作出等の罪)について検討します。 |
改正された支払用カードの偽造行為を中心に議論を進めます。 |
指定された参考文献と判例を一読しておいて下さい。 |
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29 |
国家的法益に対する罪1 |
公務執行妨害罪及び司法手続きの保護に関して検討します。 |
具体的事例を素材として、公務の意義、職務行為の適法性等を検討します。 |
指定された参考文献と判例を予習しておいて下さい。 |
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30 |
国家的法益に対する罪2 |
賄賂罪及び職権濫用罪を中心に公務員等の犯罪について検討します。 |
具体的事例を素材として、賄賂の意義、公務員の職務権限等について検討します。 各論に関する理解を確認します。 |
指定された参考文献と判例を予習しておいて下さい。 |
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