1. |
研究経過 |
2005年4月〜7月にかけて資料収集と平行して、インタビュー面接者の選択、アポイント取りを行った。8月に渡米、モンタナ州ノーザン・シャイアン特別居留地を訪問。共同体祭事を司る集団、キット・フォックス・ソサエティの男性メンバー2名と、部族の伝統、歴史に詳しい女性2名にインタビューを行うとともに、地域祭典の一つであるパウアウを視察した。9月以降、逐語作成、及びデータ分析、追加資料収集を行い、12月〜2006年2月にかけて論文作成。2006年3月に『アカデミア(人文・社会科学編)83号』へ、「ノーザン・シャイアンのセルフ・ナラティブに見る"歴史"と"共同体"」のタイトルで原稿を入稿した。 |
2. |
研究結果 |
共同体に伝えられる「物語」とその構成員のセルフ・ナラティブとの相互関係の検討を主眼とした本研究では、主に以下の点が確認された。 |
・ |
共同体の物語と個人のセルフ・ナラティブの間には直接的な類似は見られないものの、共同体の物語が提供する文化的コンテクストは、共同体構成員が自身の体験を再構築する際に建設的な文脈を提供している。 |
・ |
共同体の物語に内包される「シャイアンの教え」というコンテクストによって、語り手の時間体験は組織化されており、「過去」は現在の自分を支える基盤として、「時間」はサイクルとして、「人生」は過程として捉えられている。またこうした共同体のもつ文脈の独自性は、個人主義、効率主義を前面に置く「アメリカ主流社会」という文脈と比較されながら、語りのなかで表現されている。 |
・ |
共同体の「過去」が「現在」に息づくためには、個人による共同体の物語の想起だけでは不十分であり、共同体の歴史を内包した"場"の存在と、そうした"場"における祭事、儀式の実施が、共同体の先駆者と後継者とを繋ぐ上で重要な役割を果たしていると考えられる。 |
・ |
構成員の語りからは「伝統」は「形骸化した過去の遺産」としてではなく、「今を生きるよすが」として体験されていることが伺える。 |
・ |
構成員の語りを、共同体のイデオロギーを具現化したモデル・ナラティブとしてみることはできない。個人的、社会的、政治的、歴史的といったレベルを縦断的にカバーするものであり、それ故に既存のカテゴリーに簡単に当てはめることができない「語り」である。 |
・ |
構成員の「語り」からは、共時的平面に広がるネットワークとしての「共同体」と、円環的な時間に宿る「歴史」が、「シャイアンの伝統」を媒介として融合されており、あたかも「共同体」と「歴史」が一体化されているような様子が伺える。 |