本研究は「グローバル都市」において、様々な地平からの移住者がもたらした新しい文化的要素によって、都市空間に文化的混交がうまれ、新しい「都市文化」が形成されていることに注目し、特に政治、経済機構が集中し、人口の2割以上が「移民」であるフランスの「グローバル都市」パリ都市圏において、移民流入が都市空間にどのような新しい文化表現を生み出しているのかの考察を目指した。2005年度はアメリカ発のストリート文化の一領域であるスプレー・アートが、どのようにフランスの移民の若者に受容され、独自の形で発展し、社会的に影響を与えるにいたったかを、現地調査に基づいて分析することを目指した。 |
現在の研究経過は以下のとおりである。 |
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フランスの公共空間においてスプレーによる「落書き」がどのような被害をもたらしているのか、そして行政はどんな「対策」を取ってきたのかについて、九月上旬にフランスのパリ市とセーヌ・サン・ドニ県の関連部署にて資料収集を行なった。 |
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移民支援団体や移民運動のアクターたちに対し、移民の若者文化における「落書き」という行為の占める位置、行政の「落書き取締」に対する反応などについて計23の聞き取り調査を実施した。 |
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23の聞き取り調査の各インタビューは短いもので30分、長いものでは3時間にも及んだ。そのため膨大な量の録音テープのテープおこし作業を行なった。 |
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調査内容について「移民」「流動性」「社会運動」の観点から分析を試み、単なる「いたずら」「非行行為」として見なされることの多い「落書き」に、「フランス文化」と「出身国文化」の間で揺れ動く移民二世の若者の「アイデンティティ」表出の問題、そして、落書きの担い手が込める「政治性」「社会性」の問題について考察した。 |
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現段階の研究成果のくわしい内容については、アカデミア人文・社会科学編82号の拙稿を参照されたい。 |