1.研究経過: |
・独占的利益をめぐる競合の過程、いわゆるレントシーキング、に関する理論的分析の統一的・体系的な整理を目指し、報告者が従来行ってきた文献の整理を進めた。申請書でも述べたように、最初の目標としたのは、Tullockが提起したレントシーキングによる資源浪費の程度に関する問題に関し、新たな参加者の参入まで考慮した長期均衡の帰結をめぐって行われた古典的議論の整理と再検討である。これに関してはその全体像をほぼ把握し、市場の長期均衡からの類推による問題提起と、こうした類推の不十分さの指摘、さらにレントシーキングにおける長期の再定義により、限界費用逓増のケースに関して一応の決着がつくまでの経緯をまとめることができた。 |
・上述のような整理に加え、報告者が別の論文で工夫した分析技法を応用することによって、Szidarovszkyと奥口による1997年のGames and Economic Behavior 誌掲載の論文と同様の一般的想定のもとで、当時の議論の妥当性並びに一般性の確認を行うことが可能となった。これにより、努力量に関する限界費用の弾力性の努力ゼロ水準における極限の値如何によって、長期のレントシーキング消失の程度が左右されることが明らかになった。この結果は過去の論争の結論をより一般的な分析の枠組みの中に位置づけ直すものであると共に、近年他の研究でも指摘されていた、努力量に関する限界費用の弾力性の値が持つ重要性を再確認するものでもある。こうした議論についてまとめたのが、研究成果として提出した論文である。 |
・論文にまとめた議論以外にも、レントシーキングにおけるfirst-mover advantageの問題の整理や、all-pay auction 型のレントシーキングモデルによる分析の整理なども行ったが、これらについては論文として成果を出す段階には至らなかった。今後の検討課題としたい。 |
2.研究成果: |
『対称的レントシーキングの長期に関する一考察:初期の論争の整理と一般化について』南山経済研究 第20巻第3号 |