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研究経過 |
差止請求訴訟と「公権力の行使」概念の関係についての基礎的な研究として、日本における国の不法行為責任の形成過程に関する歴史研究を進めた。具体的には、1880年代から1900年代にかけての明治憲法体制確立期における帝国憲法61条、行政裁判法、裁判所構成法、旧民法373条、および現行民法715条・717条などの制定過程を検討した。 |
これ以降、明治憲法下における学説と判例の展開過程、戦後改革過程での憲法17条および国家賠償法の制定過程、そして現在の理論状況などについては、今後の課題である。また、このような国の不法行為責任との対応関係から日本における「公権力の行使」概念の歴史と現状を確定した後、これをふまえて行政訴訟および民事訴訟における差止請求の可能性と限界を検証するという作業も、今後の課題とせざるを得なかった。 |
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研究結果 |
研究の結果は、南山法学第28巻第4号から第29巻第4号にかけて連載した「明治憲法体制確立期における国の不法行為責任(1-3・完)」で示した。そこでの結論を命題として要約すれば、次のとおりである。 |
第一に、「司法裁判所は、高権的活動に対しては、民法上の責任は生じないという立場を一貫して崩さなかった」という見解は誤りである。 |
第二に、国家無答責の法理は判例法理であるので、「従前の例」には該当しない。またその実体的内容は今日の時点での法体系の下では妥当しないので、現代の裁判所において適用可能な法理ではない。 |
第三に、仮に国家無答責の法理が現代の裁判所において適用できるとしても、大審院判例が同法理の適用対象とみなした「統治権ニ基ク権力行動」は、国賠法1条にいう「公権力の行使」についての狭義説に符合するものであるので、今日の通説である広義説の理解に基づいて国家無答責の法理の適用対象を判断してはならない。 |