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近世には、実に多くの「虫」による病症が考えられていたが、今回の研究では、さまざまの点で検討すべき問題を多く含んでいる「疳の虫」に絞って考察を行なうことにした。 |
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「疳の虫」は民間レヴェルの病称であり、日本近世の医学では「疳(症)」と呼ばれ、これは中国医学から導入されたものである。「疳の虫」研究のためには、これら三者における「疳」概念の異同を綿密に検討することが必須となる。 |
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従って本研究に不可欠となるのは、1)近世の文芸作品(読本、草双紙、浄瑠璃、歌舞伎、洒落本、随筆など)において「疳の虫」がどのように描かれ扱われているのか、2)専門家である医師たちは「疳」をどうとらえていたのか、3)近世の「疳」概念と中国の医書における「疳」とを詳細に比較検討することである。 |
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このため、必要な資料として江戸期の古医書を購入したほか、京都大学、杏雨書屋、国立公文書館、京都府立総合資料館、内藤記念くすり博物館などに出向いて、中国医書ならびに日本近世の医書を閲覧し文献収集を行った。 |
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共同研究者とともにこれらの資料を学際的に検討し、議論を重ねた結果、わが国の「疳の虫」は、中国医学に端を発しながらも、江戸時代の中後期において特有の変容を遂げたものであり、また近世社会の人間観や社会観の反映されたものであることが明らかとなった。このことは従来指摘されてこなかったばかりでなく、「虫」研究にとっても新たな視点をきり開くことになると思われる。 |
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この研究成果の一部をアカデミアに「“疳の虫”考(上)」として発表した。 |