2006年度 パッヘ研究奨励金T-A-2(特定研究助成・一般)研究成果報告書

氏名 川浦 佐知子 所属 人文学部心理人間学科
研究課題 セルフ・ナラティブにみる時間体験の表現
研究実績の概要
1) 研究経過
   2006年4月にインタビュー面接者の選択、アポイント取りを行い、4月末に渡米、モンタナ州ノーザン・シャイアン特別居留地を訪問。共同体祭事を司る集団、キット・フォックス・ソサエティのメンバーであり、部族の伝統的役割であるセイクレット・ハット・キーパーを務めた経験をもつ男性とその妻にインタビューを行った。また部族の聖地であるベアビュート山、ベアロッジ(デビルスタワー)、バッドランドを視察した。9月以降、逐語作成、及びデータ分析、追加資料収集を行い、12月〜2007年2月にかけて論文作成。2007年3月に『アカデミア(人文・社会科学)85 号』掲載のため、「ナラティブと集合的記憶―ノーザン・シャイアンの語りにみる“物語”、“場所”、“予見”」のタイトルで原稿を入稿した。
2) 研究結果
   セルフ・ナラティブと共同体の集合的記憶の相互関係をみることで、個人、共同体、社会の関連を検討することを主眼とした本研究では、主に以下の点が確認された。
  ノーザン・シャイアン部族共同体のように、その集合的記憶が主流社会のそれと相容れない要素を多くもつ場合には、集合的記憶に関する語りはナラティブのプロットに直接貢献しない、特異性をもつ余剰として認識されやすい。
  集合的記憶が即興性をもって「個人」、「共同体」、「社会」といった異なるレベルを繋ぎながら語られるためには、語りの場に共同体の集合的過去を理解する者の存在が欠かせない。
  「集合的記憶」と「歴史」の違いには「想起」というプロセスの関与が挙げられるが、伝統儀式、伝統的役割、文化的英雄の物語、地名、人名は、集合的記憶の想起を促すシステムとして捉えることができる。
  集合的記憶は単に共同体の過去を反映するだけでなく、何を覚えているべきかを決定付ける。ノーザン・シャイアンの場合、集合的記憶の核となるアメリカ主流社会との対立、人種差別、聖性といった、部族構成員にとって重要な事柄に関連した類似した経験が、共同体の記憶の想起と共に語られ、集合的記憶へと蓄積されている。
  主流社会の文脈が提供することが出来ない部族独自の体験の意味を、共同体構成員は集合的記憶にもとづいた文脈から得ている。
  宗教儀式や文化的英雄にまつわる集合的記憶は「伝統」の歴史的文脈を示し、かつそれが現在に息づいたものとなることを助ける。
  集合的記憶は生き方のストックを提示することで、共同体の過去、現在、未来を繋ぐ。構成員によって集合的記憶に蓄積された、共同体における生き方が選び取られることで、更に次の世代へと選択肢が継承される。
「雑誌」の部 「図書」の部
@ 論文題目 「ナラティブと集合的記憶 ―ノーザン・シャイアンの語りに見る「物語」、「場所」、「予見」― 」 @ 書名
雑誌名 『アカデミア』人文・社会科学編 出版社
巻号 第85号 論文名
発表年月 2007年6月 発表年月
ページ ページ
著者名 川浦 佐知子 著者名
備考   備考  
A 論文題目 A 書名
雑誌名 出版社
巻号 論文名
発表年月 発表年月
ページ ページ
著者名 著者名
備考   備考  
B 論文題目 B 書名
雑誌名 出版社
巻号 論文名
発表年月 発表年月
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著者名 著者名
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