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当初予定していた研究の二本柱のうち、『源氏物語』の研究についてはあまり進捗しなかったが、古典医書の享受の問題については、『医家千字文注』を中心に一定の成果を得た。本補助金により、参考書籍などの集積を行い、また別途費用も利用して古典享受に関わる資料の集積のため、各地の図書館に赴き、写本・版本の調査、写真による資料の収集を行った。 |
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『源氏物語』の注釈書である『河海抄』に関しては、人々の教養形成のために、『源氏物語』そのものではなく『河海抄』が読まれていたのではないかと推察するに至った。 |
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『医家千字文注』については、多くの伝本を調査することができた。江戸時代に刊記だけを換えて、同じ版木による出版が何度かされているようである。調査を引き続き行い、網羅的に調べた上で、論文にまとめる予定である。 |
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が多くの古典医学書の引用のモザイクという性格を持つことが確かめられた。出典については大部分を調査し終えたが、まだ網羅的に調べるには至っていない。網羅的に調べた上で論文あるいは著書にまとめたい。 |
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中世の日本における『千字文』享受のありようと擦り合わせると、『医家千字文注』が、『千字文』そのものだけの影響ではなく、李暹の『千字文注』の模倣ではないかと思われることがわかった。日本における『千字文』の享受、幼学のあり方の変遷の中にこの書物をどのように位置づけるかは面白い問題であり、今後の課題である。 |
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『医家千字文注』が、跋文にいうように、八字を一句とし、六句ごとに脚韻を踏むという漢詩文に倣った構成を取っていることがわかった。 |
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以上の成果について、現時点ではデータの不完全な集積、大筋の見通しの確認の段階であるが、2007年度の夏を目途に網羅的な調査を終え、論考にまとめる予定である。 |