2006年度 パッヘ研究奨励金T-A-2(特定研究助成・一般)研究成果報告書

氏名 村杉 恵子 所属 外国語学部英米学科
研究課題 言語獲得からみる言語理論:現代言語学理論の枠組みで、言語獲得の過程を対照言語学的に研究
研究実績の概要
I. ことばのはじまりとは:前言語期から言語期(喃語を話す0歳代からいわゆる言語を「獲得する」まで)の分析
中谷(2005)およびMurasugi and Nakatani (2005)の研究に基づき、さらに分析を進め、2005年度にインドはデリーで発表した研究内容を論文としてまとめている。これは来年度の研究に継続する。
II.文法獲得にみられる初期の文法獲得と中間段階の『誤り』
(A)動詞と複合述語の誤り
言語獲得の中間段階として広く多くの言語において観察されている(1)のような自動詞他動詞の区別、あるいは、自動詞と使役動詞の区別に関する研究を進めた。
(1) a. あっくんに、みるく、飲む(のませて)
  b. ママがパンツぬいだとき…(ママが(ぼくの)パンツをぬがせたとき…)
この種の誤りは、言語を超えて、いずれも1才後半から2才ごろに観察され、その経験的な事実について、Murasugi and Hashimoto (2002)は VP shell仮説により理論的説明を与え、日本語のような膠着言語における言語獲得の遅延についての重要な要因であることを示している。本年度は、この理論的説明が、他の幼児においてもみられるのか否かについて、コーパス研究を新たに追加し、11月に論文にまとめた。この論文は、国際ジャーナル(専門誌)Linguistics に掲載される予定で現在も修正中であり、来年度の研究に継続する。
(B)補文を含む複合名詞句
英語にはみられない誤用が他の言語でみられることがある。日本語(および韓国語)を母語とする幼児は、(4)のような誤用をする。
(2) a. おいしい「の」ケーキ
  b. うさちゃんたべてる「の」にんじん
このような誤用についての実証的理論的分析に基づき、Murasugi(1991)は、誤った「の」が英語の関係節(the carrot “that” the rabbit is eating)にみられる関係代名詞(補文標識)である仮説を提案している。この分析は、世界の言語の関係節には二種類あり、一つは、補文標識をもつ英語タイプ、いまひとつは補文標識をもたない日本語タイプのようなもので、日本語(および韓国語)タイプの言語を獲得する幼児は、(親からも聴かない)英語タイプの関係節を仮定する段階があるとする仮説につながっている。本研究プロジェクトではこの仮説について理論的実証的により詳細をさらに検証している。
この研究の結果、Murasugi (1991)で提案された関係節に関する文法の仮説は、言語理論ならびに言語獲得の両面から証明されており、この仮説は、幼児が作る間違え(パラメターの値)が、実は偶発的でランダムな間違えではなく、母語のパラメターの値とは異なるものの、他の言語では文法的なもの(パラメターの値)であるとする仮説の提唱を意味している。これは、言語が生後、学習されて獲得されるという説に対し、親からも直接的に与えられない文法を、こどもが自分の脳にある文法知識に基づいて試してみる時期があることを示しており、人間に備わる普遍的な文法の存在について示唆を与えるものである。本研究は、関西言語学会学会誌(2005年関西言語学会30周年記念招聘研究発表に基づく)、ならびに「英語青年」の8月号と9月号に連載の形で掲載され、発行することができた。
「雑誌」の部 「図書」の部
@ 論文題目 「方言から言語理論へ (上)」 @ 書名
雑誌名 『英語青年』 出版社
巻号 CLII.No.5. 論文名
発表年月 2006年8月 発表年月
ページ pp.295〜297 ページ
著者名 村杉 恵子 著者名
備考   備考  
A 論文題目 「方言から言語理論へ (下)」 A 書名
雑誌名 『英語青年』 出版社
巻号 CLII.No.6 論文名
発表年月 2006年9月 発表年月
ページ pp.345〜348 ページ
著者名 村杉 恵子 著者名
備考   備考  
B 論文題目 「言語獲得における名詞句内での過剰生成」 B 書名
雑誌名 The Proceedings of the thirtieth Anniversary Meeting, Kansai Linguistic Society 2006 出版社
巻号 26 論文名
発表年月 2006年6月10日 発表年月
ページ pp.12〜22 ページ
著者名 村杉 恵子、橋本 知子 著者名
備考   備考