アンデス世界には様々な超自然的存在が跋扈しており、それらは今なお人々の生活に息づいている。ハルハリア(qarqaria)もその一つである。
この研究では、その信仰に注目し、それがどのような社会・文化的意味を持つかを、
20余年にわたって採集してきた民族誌的データと国内の文献資料をもとに分析した。
この研究によって明らかになったのは、以下の通り。 |
1 |
)ハルハリアの原因は、本質的にはパリエンテ内に結婚しうる成員を留めておこうとすること。 |
2 |
)逆に言えば、土地や家畜などの財あるいは、潜在的な財としての若い労働力を未婚のまま手元に置くことによって外部集団へ流出させず、そのまま集団の管理下に置くことと関係がある。 |
3 |
)婚姻が成立しないので、結婚式はなく、通常それに伴って行われる富の大量消費が発生することもない。 |
4 |
)要するに、集団内での財の固定化がいっそう強化されることとハルハリアは緊密に結びつく。 |
5 |
)そうであれば、ハルハリアの信仰は、ある成員に社会的に否定的イメージをもつハルハリアという嫌疑をかけること(かける可能性)によって、財(富、労働力)の過剰な保有によって地域社会の財の平準化に不均衡をもたらした成員を道徳的に貶めるように作用する。 |
6 |
)社会的サンクションを恐れる人々に、この信仰は、財の集中・独占を抑制し、それを地域社会全体によどみなく流通させるように仕向ける。 |
7 |
)こうした信仰は、アンデスのみならず、アジア諸国にも見られることがある。しかしながら、アンデスの場合は、それがインセスト・タブーと結びつく点に特徴がある。 |
8 |
)今後、比較研究を通して、地域社会における財の集中と流通の問題を考えていく必要がある。 |