2006年度 パッヘ研究奨励金T-A-2(特定研究助成・一般)研究成果報告書

氏名 鈴木 宗徳 所属 外国語学部ドイツ学科
研究課題 社会学における「格差」と「個人化」
研究実績の概要
・本研究は、格差社会化、とくに非正規雇用の増大にともなう問題として、「個人化」という現象を理論的に把握することを目指した。今年度、とくに検討を行なったのは、次の点についてである。
・「ニート」という語を生んだイギリスでは、サッチャー改革の負の遺産として若年層の雇用の悪化がすでに長い間問題となっている。なかでも、福祉削減によって家族への依存が強まったことにより、「自立できない」若者が社会問題となっている。イギリスならびにフランスでは、若年雇用の問題は「社会的排除」というキーワードで語られる。失業のみならず、健康・犯罪・非行などの問題が、貧困層が集住する都市郊外に集中し、それらが相俟って悪循環に陥り、貧困層が固定化するという問題である。イギリスにおけるニート問題は、しばしば若者の「自立」の問題として扱われる。これと同様に、近年では日本でも「若者自立・挑戦プラン」「若者自立支援塾」などの政府の施策に、しばしば「自立」の二文字が用いられるようになっている。
・こうした問題を考えるうえで注目すべきなのが、ドイツの社会学者ウルリッヒ・ベックが提唱し、イギリス在住の社会学者ジークムント・バウマンがたびたび用いている「個人化」という概念である。彼らの議論を援用すれば、「自立」支援策は、あくまで問題を「個人化して」処理するものとして、批判されなければならない。一見すると若年失業者の支援は理想的なもののように見えるが、それは「自立できない若者」に恥辱的な意識を植え付け、自立する責任を個人に押しつけ、不安定雇用を増大させる真の原因を隠蔽し、それに付随する政治的な責任を免罪する効果をもってしまう。
・しかし、通常失業者は、失業を「個人的な」「リスク」として認識し、このリスクをいかに「個人的に」「処理」するかに意識を集中させる。すなわち、集団的な抗議行動によって失業問題を解決するよりも、むしろ、例えばカウンセリングやセラピーを用いて、これを個人の内面における意欲や性向の問題として解決しようとするのである。言い換えれば、こうした「リスクの個人的処理」の機制は、大衆による抗議衝動を緩和する作用をもっている。
・失業者が問題を「個人化」して把握し、それに呼応するかのように政府が「自立支援策」を推し進め、それが「個人化」を一層進展させる。このメカニズムを「個人化のポリティクス」と呼び、理論的な考察を行なった。
「雑誌」の部 「図書」の部
@ 論文題目 「<個人化>のポリティクス――格差社会における<自立>の強制」 @ 書名
雑誌名 『九州国際大学経営経済論集』 出版社
巻号 第13巻第1・2合併号 論文名
発表年月 2006年12月 発表年月
ページ pp.123〜145 ページ
著者名 鈴木 宗徳 著者名
備考   備考  
A 論文題目 A 書名
雑誌名 出版社
巻号 論文名
発表年月 発表年月
ページ ページ
著者名 著者名
備考   備考  
B 論文題目 B 書名
雑誌名 出版社
巻号 論文名
発表年月 発表年月
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著者名 著者名
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