研究経過: |
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昨年度から引き続き、独占的利益をめぐる競合の過程、いわゆるレントシーキング、に関する理論的分析の統一的な手法による検討と整理を行った。特に、昨年度は手をつけるに至らなかった、集団レントシーキングにおけるOlson Paradoxの問題や、レントシーキングにおける戦略的行動の問題などの再検討を中心的課題とした。夏にレントシーキングの分野の有力な研究者であるBar-Ilan 大学のShmuel Nitzan 氏と共同研究する機会を得られたのは、本研究の進捗に益するところ大であった。特にNitzan氏が示唆した、集団レントシーキングにおけるグループ内分配ルールの観察可能性に関する仮定の変更は、上記二つの研究課題における新しい展望をもたらし、報告者単独の研究においてもいくつかの成果を得ることを可能にした。 |
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上述のような新展望と報告者が昨年度から精緻化を図っている分析技法の活用によって、集団レントシーキングにおけるOlson Paradox、すなわち集団規模と勝利確率の問題に関して、これまで以上に一般的な分析を行えるようになった。すなわち、利権の性格は私的財でも純粋公共財でもない準公共財まで一般化され、さらに私的利権の部分に関する分配ルールを内生化することも可能になった。報告者単独の成果としては、こうした一般的な分析の枠組みの中で利権の便益関数をCobb-Douglas型に、費用関数を線形関数に特定化し、生じ得る均衡のタイプをモデルのパラメータの値に明示的に関連付けながら分類できることを示すという成果を得た。こうした結果は、様々なパラメータがモデルの内部でどのように作用し合っているかを理解するうえで有益であると共に、実証研究のための仮説形成の第一段階としても重要だと考えられる。こうした議論についてまとめたのが、研究成果として提出した論文である。 |
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論文にまとめた議論以外にも、Paradox of Powerの問題の再検討や、レントシーキングモデルにおける戦略的行動の問題の整理なども行ったが、これらについては論文として成果を出す段階には至らなかった。今後の検討課題としたい。 |