2006年度 パッヘ研究奨励金T-A-2(特定研究助成・一般)研究成果報告書

氏名 青柳 宏 所属 人文学部人類文化学科
研究課題 『日韓語の存在文・所有文とアスペクト表現の比較研究』
研究実績の概要
 本研究は2004年度に開始した「日韓語における膠着と機能範疇の働きに関する研究」の一部をなすものとなる予定であった。 しかし、本年度に大学院GPの採択による国際共同研究が始まるなどの諸般の事情から、 研究課題修正を余儀なくされた。その結果、つぎの2つを主な研究課題とした。
1.日韓語における動詞と機能範疇の形態的併合の姿を明らかにすること。
2.SOV語順の言語における「スクランブリング」の働きを明らかにすること。
 ‹課題1›:Marantz (1984, 1988, 1989), Halle and Marantz (1993)で提案された形態的併合には原理的にPFにおける主要部上昇によるものと主要部下降によるものの2通りがあるはずである。 Aoyagi(2006)では日韓語の述部主題文のデータから、韓国語と日本語の動詞と機能範疇の膠着がそれぞれ主要部上昇と下降という別々の操作によってもたらされるものであると論じた。 しかし、元来主要部下降という操作には概念的問題があった。 これをFukui and Takano (1998)のいう線形化の結果であると考えればこの問題を克服しうることを指摘し、 またこの枠組みが日韓語のみならず、英語やフランス語の語順をも正しく説明することを示し、 “On Morphological Merger: Toward an Explanation of Verbal Agglutination in Japanese and Korean” ‹次頁 「雑誌の部」 論文1›に発表した。
 ‹課題2›:Saito(1989)以来「スクランブリング」は意味的に空(semantically vacuous)な操作であるとされてきた。 しかし、その後の研究で様々な言語における語順変換操作がすべて同じ性質を示すものではないことが明らかにされつつある。 すなわち、普遍的な語順変換操作としての「スクランブリング」は存在しない。 また、文の真理条件には影響せず、LFにおいて演算子−変項のペアを作らないという意味では、 「スクランブリング」は空かもしれないが、文の情報構造には影響を与えることがしばしば指摘されている。 そこで、日本語と同じSOVの語順を持っていて、左右両方向への「スクランブリング」があるといわれるペルシャ語、 トルコ語、ヒンディー語などのデータを詳細に検討した結果、これらの言語における左方向への移動は情報構造的には主題化に、 右方向への移動は焦点化に当たることが判明した。 一方、これらの言語と異なり主題を表わすハが存在する代わりに右方移動が一般に許されない日本語では、 ハ句を文頭に置く主題化がこれらの言語の左方移動に、ハを伴わない左方移動(すなわち、スクランブリング)が右方移動にそれぞれ該当することが分かった。 すなわち、日本語のスクランブリングは情報構造的には焦点化をもたらす操作であるということである。 この研究成果は、“Discourse Effects, Case Marking and Scrambling in OV Languages” ‹次頁 「雑誌の部」 論文2›として公刊されている。
「雑誌」の部 「図書」の部
@ 論文題目 “On Morphological Merger: Toward an Explanation of Verbal Agglutination in Japanese and Korean” @ 書名
雑誌名 Nanzan Linguistics 出版社
巻号 第3号 論文名
発表年月 2006年6月 発表年月
ページ pp.1〜32 ページ
著者名 Hiroshi Aoyagi 著者名
備考   備考  
A 論文題目 “Discourse Effects, Case Marking and Scrambling in OV Languages” A 書名
雑誌名 English Linguistics 出版社
巻号 第23巻第2号 論文名
発表年月 2006年11月 発表年月
ページ pp.465〜492 ページ
著者名 Hiroshi Aoyagi 著者名
備考   備考  
B 論文題目 B 書名
雑誌名 出版社
巻号 論文名
発表年月 発表年月
ページ ページ
著者名 著者名
備考   備考