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本研究では、1990年代以降、わが国の福祉法制が市場化していることを踏まえ、このことがもたらす法的意味を明らかにすることを課題とした。 |
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まず、本研究の課題にこたえるため、今年度の前半の時期においては、1990年代半ば以降のわが国の福祉法制の特徴について、より具体的に明らかにすることを目指した。 |
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その結果、現在の福祉法制の特徴としては、市場化・営利化・契約化の3つを挙げるのが適切であるとの考えに至った。そして、この点について考察する過程において、市場化・営利化・契約化が、福祉サービスを必要とする国民・住民の権利保障にとって多大な影響を及ぼすとともに、権利保障のために行政が果たすべき役割を大きく変化させているという問題を発見するに至った。 |
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そこで、今年度の後半の時期においては、行政が果たすべき役割が、1990年代以降の福祉法制の変容によっていかに変化したのかを明らかにすべく、研究を進めることとした。 |
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この研究の成果は、今年度末の3月中旬に執筆を終えて提出した論文「社会福祉行政の役割に関する一考察−高齢者福祉分野を対象に−」として、とりまとめた。 |
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この論文の概略は、次のとおりである。
;1990年代以降の日本の福祉法制の変容の特徴は、市場化・営利化・契約化である。これらは、サービスを必要とする者の権利保障過程を大きく変えた。そしてこの結果、行政の役割は、一般に、多様化する供給主体によって形成される市場の調整役へと変化したと言われている。しかし、「市場の調整役」とは具体的にいかなる役割を指すのかについては、現在の法学界においては、未だ明らかにされていない。こうした状況を踏まえて、本論文では、サービス利用者の権利保障のための、行政の役割の具体的解明を試みた。まず、福祉法制の変容は、権利保障過程の細分化と精緻化という帰結をもたらし、この結果、サービス利用者が権利保障過程の谷間に陥る危険性があり、そのための行政の役割が強く求められる事態が生じていることが明らかになった。そこで、この点を踏まえて、行政の果たすべき役割について、現行の福祉法制の解釈を通じて具体的に明らかにして行く必要があるとの考えに至った。そして、最終的な考察の結果、行政は、サービス利用者の権利保障の全過程に関する情報を把握し、万が一、利用者が谷間に陥るような場合には、自らがサービス供給主体とならねばならないこと、そして、行政による直営事業の民営化の際には、民営化の移行期における十分な説明や情報提供等の手続的配慮を行うことが求められることについて、老人福祉法と介護保険法の具体的条項に即して、結論づけた。 |