本研究は、インドネシアのバリ島、および国内の沖縄周辺地域の島嶼社会を事例とし、とくに「楽園」という形容を与えられる観光地に関する資料収集をおこなうことによって、島嶼学と人類学とを架橋した観光研究の可能性を探求しようとするものである。
研究奨励金は、おもに資料収集・調査のための研究出張費に用いた。まず、インドネシアでは、バリのエコツーリズムと日本人店舗ビジネス、および観光地ウブドにおける絵画に関する資料収集をおこなった。これらの資料収集は、いずれもこれまでの継続的な資料収集を補完する作業である。なお、あらたな調査候補地として、ロンボック島や、首都ジャカルタに近い島嶼観光地を巡検する予定もあったが、これは日程の確保が困難であったことなどから断念し、バリのウブド周辺における資料収集と、バリ島北部のロヴィナにおける巡検のみとなった。
沖縄では、石垣島の川平地区をフィールドとした、観光と文化の関係を主題とする議論の構築可能性を探求する予定であったが、今年度はうまく糸口が見つけられず、また十分な日程の確保も困難であったことから、もっぱら那覇での文献資料の収集が中心となった。川平における調査や、粟国島や久高島における新たな調査、そしてウェーバー・テーゼの再検討といった、当初掲げていた研究課題の遂行は、次年度以降の課題としたい。ただ、一方で、オスプレイ配備に反対する県民集を参与観察することができ、これは現代の沖縄社会の一端を知る上で貴重な機会となった。
秋以降は、これらの収集した資料を整理し、これを「反楽園観光論」という研究テーマにもとにまとめる作業をおこなった。2013年度中に、その成果をまとめたいと考えている。また、これとはべつに、ウブドの絵画に関する研究論文を、人類学研究所の共同研究プロジェクトの一環としてまとめる予定である。 |
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