2012年度 パッヘ研究奨励金T-A-2(特定研究助成・一般)研究成果報告書

氏名 川浦 佐知子 所属 人文学部心理人間学科
研究課題 北米先住民の「記憶の場」:ノーザン・シャイアンの史跡化営為を通しての検討
研究実績の概要
<研究経過>
 本研究の目的は、現代アメリカにおける国家による歴史顕彰と、先住民の記憶継承の交差を検討することにある。本年度はアメリカ合衆国ワシントンDCナショナルモールに出向き、記念碑、博物館を通して成される国家事業としての歴史顕彰の様を調査するとともに、国立アメリカ・インディアン博物館におけるアメリカ先住民側からの歴史解釈の様を検討した。
<研究結果>
 本年度調査からは記念碑建立、博物館展示を通しての歴史顕彰の有効性と限界が明らかとなった。第二次世界大戦、ベトナム戦争等に関わる国家プロジェクトとして建立された戦争記念碑からは、時代とともに「国家のコミットメント」から「個人のコミットメント」へと顕彰の焦点が変更されてきた様が窺えた。国家の歴史を一同に顕彰するナショナルモールの一角に、国立アメリカ・インディアン博物館が設立されたことは意義深いが、その展示をホロコースト博物館展示の様と比較するならば、主流社会へのメッセージ性は強くない。国立インディアン博物館は、合衆国における先住民の存在とその歴史が忘れ去られることを阻止する装置としては機能すると思われるが、現在、合衆国に存在する先住民部族それぞれの来歴や、それに基づく各部族の「立ち位置」の違いは伝わりにくくなっている。
 国立アメリカ・インディアン博物館は合衆国のみならず、南北アメリカの先住民の歴史を網羅することを目的としており、地域ごとに「代表的」と見なされる部族の文化・歴史が扱われている。北アメリカ平原部族としてはラコタが代表として取り上げられており、本研究が扱うノーザン・シャイアンに関わる歴史は扱われていない。こうした状況がノーザン・シャイアン居留地において、「部族による部族の博物館」設立を促している一因と思われる。「博物館」という装置を用いて部族共同体の来歴を検証、顕彰することに意義はあるものの、居留地及び、部族の集合的記憶が関わる土地の保持、保全という点においては、博物館は限定的な役割しか果たせない。ノーザン・シャイアンはここ数年、部族関連土地の国立史跡化に力を入れ、居留地周辺土地の保全に尽力している。論考においては、部族が国立史跡化営為に励むきっかけとなった、1970年代の居留地における石炭開発契約と契約解除の訴えの詳細を検討した。事例考察からは、部族政府が開発契約解消の過程において部族関連地所の「史跡」が、開発阻止、土地保全のインセンティブとして有効に働くことを会得した様が明らかとなった。
「雑誌」の部 「図書」の部
@ 論文題目 部族自治と資源開発:1970年代アメリカ・エネルギー開発とノーザン・シャイアン居留地 @ 書名 Tapestry of Memory
雑誌名 アカデミア 人文・自然科学編 論文名 History, Memory, Narrative: Expression of Collective Memory in the Northern Cheyenne Testimony
巻号 第5号 出版社 Transaction Publishers
発行年月 2013年1月 出版年月  
ページ pp.57-83 ページ  
著者名 川浦佐知子 著者名 Sachiko Kawaura
備考   備考 2013 年7月頃予定
A 論文題目 A 書名  
雑誌名 論文名  
巻号 出版社  
発行年月 出版年月  
ページ ページ  
著者名 著者名  
備考 備考  
B 論文題目   B 書名  
雑誌名   論文名  
巻号   出版社  
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著者名   著者名  
備考   備考