豊後系浄瑠璃である常磐津節・富本節・清元節及び新内節は歌舞伎音楽として重要な位置を占めている。これらの音曲研究は基礎となるテキストの検討も未だ十分に行われていない状況で、基礎テキストたるべき正本・稽古本が喪失の危機に晒されている現状を踏まえて、私は科学研究費補助金や本学のパッヘ奨励金の援助を受けて、常に資料を後世に伝えるための収集と整理を中心とする基礎研究を心がけて進めてきた。しかし、これまでの豊後浄瑠璃研究の途上で、常磐津節・富本節・清元節及び長唄・歌謡・評判記・番付・絵尽等についての未見の資料が多量にあることが判明。この機を逃さず収集しておかないと喪失してしまうので、今年度も、それらの資料の調査・収集・整理・研究を行ったすなわち、豊後節系浄瑠璃の正本・稽古本及び関連資料となる義太夫節・長唄・歌謡・評判記・番付・絵尽の調査・研究、それらのデジタル写真等による複写収集、及び、古書などで販売された資料を購入した。研究対象としている江戸豊後系浄瑠璃は、江戸歌舞伎と深く結びついて発達したものであるが、その作品の多くが、上方で生まれ発達した義太夫作品を元にしているので、義太夫から豊後系浄瑠璃への変遷からは、浄瑠璃や歌舞伎の上方的なものから江戸的なものへの変遷を読み出すことができる。そこで、収集資料を利用して、上方と江戸の音曲の特性を明らかにする研究を進めている。本年度は、近松門左衛門の『嫗山姥』を元にした、常磐津、富本、清元作品の調査・研究を進め、特に常磐津の山姥物『四天王大江山入』『薪荷雪間の市川』を精査し、論文として発表した。浄瑠璃作品が歌舞伎化されて、その中に組み込まれる浄瑠璃所作事も、義太夫から常磐津、富本、清元の江戸豊後系浄瑠璃に変化することによって、上方の浄瑠璃作品が江戸歌舞伎化していく足跡が見えてきた。来年度も引き続き、江戸文吾浄瑠璃作品の諸本研究とそれを踏まえての詞章の決定を行い、加えて、初演時の太夫・三味線方、作詞・作曲者、振付師、演者(役者等)についても調査・研究も行い、上方風から江戸風への音曲の変化を見ていきたい。
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