Lucas (1972) はマクロモデルに情報の不完全性を導入することで、古典的な貨幣の中立性とフィリップス曲線における失業とインフレ率の関係を矛盾なく説明した。そこでは貨幣供給量自体はその水準に比例する形で物価が変化するため、実体経済に影響を及ぼさないという帰結が得られる。これは貨幣数量説の成り立つことを意味する。ところがLucas (1972) モデルにおいて貨幣が非中立的となる均衡の存在が複数の研究で確認されている。さらに、均衡では一般に貨幣は非中立的になることまで証明された。実は貨幣中立性な均衡の存在には特殊な仮定が必要であり、その特殊な仮定でのみ貨幣数量説な結論が導かれるのである。
本研究ではLucas (1972)モデルを取り扱った文献をまとめそれらの関係を明らかにした.特に貨幣がモデルにもたらす影響を中心にして,各文献の類似点や差異を明らかにした.詳しく取り扱った論文はOtani (1985) と松井(2011a,b) である.新しく得られたことは,前者(Otani (1985))の具体例において後者(松井(2011a,b))のアイデアを再現することで、貨幣非中立的な均衡がより簡単に導出できた点である。証明もより簡単になった。関連する先行研究Chiappori and Guesnerie (1990, 1992) とOtaki (2011) も解説した。
研究の主要な結論は、貨幣が非中立的となるためには、(1)Lucas型の貨幣供給量ルールを変更する方法,(2)経済主体が貨幣数量説的な期待以外の期待を持つ場合、の2つに分けて考えられると分かった点である。更に現実をより的確に捉えるためには、追加的な項目をモデルに加えることも必要であると分かった。
今後、以上の結論を踏まえて研究を進めていきたいと考えている。 |
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参考文献
1.Lucas (1972) のモデルにおける貨幣の非中立性 (Multiple Equilibria in Lucas (1972) model (in Japanese)) The Journal of Social Science, Institute of Social Science, University of Tokyo, Vol.63/no.1, pp.91-109, November 2011 (単著,査読付き論文)
2.Lucas (1972)のモデルにおける貨幣の非中立性――労働供給量に上限が存在するケース――.南山経営研究,南山大学経営学会,第26巻・第3号,pp.255-285,2012年3月 (単著,査読なし論文) |
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