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研究目的は、日本のグローバル本社における人的資源管理システムと労使関係の考え方が、どのような形で現地に適用あるいは適合されているのか。その実態を明らかにする中から、経営の健全性と現地従業員の生活の安定的向上を図るために、企業行政と工会が取り組むべき課題を明らかにすることであった。
今回調査から明らかにされた、中国現地事業の前に立ちふさがる中国特有の文化、風俗的障碍とその克服に向けて取り組むべき個別の課題は、次の七点に集約される。
一つは、華北華南ともに、現地化を担う経営人材の育成を妨げる障碍として、権力の所在に敏感な中国の風土が総経理への権限の集中を強め、裏腹に中間管理職として権限と職務能力を発揮する場を制約するといった問題を抱えていることが明らかにされた。
二つ目は、とくに華北の現業系において、中国に古来より引き継がれてきた「客家」などとも某か共通する排他的仲間集団を形成する風土が、「仲間」あるいは「人脈」という形で企業内にも持ち込まれていること。そしてこのことが、要員管理をはじめ人事・労務管理さらには人材開発の全般に大きな制約をもたらしている点である。さらに問題は、そうした中に日本人がなかなか入り込めないという点である。
一方、華南にはこうした「仲間」集団による影響がほとんど見あたらない。それは、合弁先企業から人を引き継ぐことなく、従って新規学卒採用により自動車づくりについても社会人としても全く白紙の従業員の手で操業をスタートすることができたためである。
三つ目は、人事考課、育成処遇システムについて、「部下から恨まれたくない、敵をつくりたくない。」という中国特有の個人主義的発想に基づく考課者の潜在的恐怖感と自己防衛本能から、制度の趣旨に添った公正かつ適正な運用が難しいとされる点である。考課基準の透明性を高め潜在的な恐怖心と自己防衛本能を軽減するとともに、考課者訓練の充実によって運用の公正性を高める必要がある。
四つ目は、労使関係に関連して、確かに日本における「協調的労使関係」は、国家建設に向けて目的と立場を共通にする中国の労働関係とは、その本質が異なる。
しかし、中華人民共和国工会法、労働法および2004年国務院回状を基に敢えて「中国的」協調的労使関係に関する解釈を試みるとすれば、労使協力の接点を中日それぞれに「国家建設(経済成長)」とそれを支える「企業の成長」に求め、労使の利害の相違を「国家または企業の発展と労働生活の向上」に見いだし、従って協働によって生じた成長成果の適正な配分をめぐって話し合いを行うべきもの。そのように解釈すれば、中華人民共和国の法制度的枠組みとも大きくは矛盾しないように思われる。また、こうした取り組みを進める中で、企業内工会の主体性を高めて行く必要もあろう。
五つ目は、工会上部組織が企業別労使関係の主体性を阻害している点である。
今、中国生産拠点に求められていることは、党、政府の政策的支援に過度に依存することなく、かつ少なくとも当面は、前掲の中国労働政策に沿った中国的「協調的労使関係」の枠組みの当否を敢えて議論することは避けながら、職場に根ざした健全な企業内労使関係を確立し、不測の事態への備えを固めておくべきことであるように思われる。
六つ目は、華北華南ともに事務技術系、現業系との間に埋めがたいほどの溝が横たわっていることである。
七つ目は、上記課題を解決するために必要とされるコミュニケーション、とりわけボトムアップ的なコミュニケーションの流れを、華北華南ともに確認することができなかった点である。それは、相手が信頼できる人なのかどうかを見極めるという、華北における「仲間」集団の壁によるものである。また華南でも、日本人は会社側だとみなして心を開かないからである。
そのほか、経営活動全般に関わる課題として、党委員会、労働行政当局さらには各層工会と密接に連携する中で、常に適切な対応がとれる態勢を整えておく必要がある。
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