<研究経過> |
日英の比較法研究の内、わが国の行政裁量の司法審査に関する研究を先行し、研究成果公刊をみればわかるように、3点の成果を出した。イギリスに関しては、パブリック・ロー・プロジェクト(The Public Law Project)主催の行政訴訟に関する会議に出席するなど、資料収集を含め、準備は順調に進んでいるものの、研究成果公表にまでは至っていない。なお、上記会議の出席の費用については、一部を本研究奨金より支出する予定であったが、事務的な問題があり、全額科研費から支出したため、当初予定とは異なり、研究費をパソコン購入に充てた。 |
<研究成果> |
上記に述べたように、わが国の行政裁量の司法審査に関して、類似の内容の3点の成果を公表することができた。まず、「行政裁量の『社会観念審査』の審査密度と透明性の向上」においては、わが国の裁判所の行政裁量に対する司法審査が、従来審査密度が低く「最小限審査」と評価され、同時に透明性も欠如していた「社会観念審査」と呼ばれる審査方法にとどまっていたが、近年、「判断過程審査」や「比例原則審査」を用いることによって審査密度を向上させ、また、行政処分の際の考慮事項や考慮事項の比重を示すことによって、透明性を向上させていること、それぞれの審査の関係や、このような方法による審査密度の向上の際に問題となる審査基準の不安定性についての考え方を明らかにした。また、次の「学生に対する措置と裁量審査」は、「社会観念審査」と「判断過程審査」を結合させつつ、審査密度を向上させてきたリーディングケースである「エホバの証人」剣道拒否事件最高裁判決を評釈したものである。最後の「社会観念審査の審査密度の向上」においては、雑誌の編集委員として、「行政裁量」の特集を組みつつ、自らは最初の論文と同様の問題意識の下に、簡潔に判例や学説の状況を示した。
また、従来「判断過程審査」に基づく審査を行い、「比例原則審査」を行っていなかったイギリスにおいても、わが国と同様、行政裁量の司法審査の審査密度に関心が持たれ、わが国と類似の議論が展開されていることはわかっているが、上記で述べたように、未だ公表した成果として示すことができていない。今後近い内に成果として公表していきたいと考えている。 |
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