大規模災害は産業の連関構造を通じて直接被災した地域以外の地域にも多大な影響をもたらす。東日本大震災の場合は、地震そのものの揺れによる建物、設備、社会インフラの損害と共に、地震によって発生した津波によるそれらの損壊が同時に発生したために、ストック被害はこれまでにない規模のものになった。ストックのダメージは、直接的には被災地域にある事業所の活動を停止させ、産業間の連関構造を通じたフローの影響をもたらす。そしてフローの影響は被災地域にとどまらず、地域間の相互依存関係によって他地域へと波及する。このような被害は、サプライチェーン寸断による影響であり、短期的状況の中では生産地や中間財の代替による対応は困難であるため、災害の直接的な被災地域だけでなく、それらを取り巻く多くの国や地域で多大な影響へと発展する。
産業連関表は、企業が中間財の供給を通じて最終財まで生産する構造をとらえることができるほとんど唯一の統計データであり、これを用いることによって波及過程を逐次分析することによりサプライチェーンの姿を詳細に考察することが可能である。本研究では、研究申請者らがすでに作成している都道府県間産業連関表を用いて都道府県レベルの災害による直接被害が、サプライチェーンを通じて全国各地にどのように波及していくのかを捉えるための分析手法を提案した。主な研究成果は以下のとおりである。
|
1. |
研究申請者らがすでに開発している47都道府県間産業連関表について、その精度を高めるべく、地域間交易データの見直しとその修正方法を検討した。その結果、特にエネルギー部門の交易係数の修正と投入係数を変化させない新たな交易係数収束計算手法を考案した。 |
2. |
災害によるサプライチェーン途絶のリスクを評価する新たな手法を検討し、実際に東日本大震災時に被災3件から中間財が届かないことによるリスクの可能性を分析した。 |
3. |
被災による人口減少がもたらす消費活動の停滞が被災県以外の地域にどのように波及するか、都道府県間産業連関表を用いて分析した。 |