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研究経過 |
本研究の目的は、植民地時代のアンデス地域で、教会で盛んに上演された先住民のための宗教劇を分析することにあった。Titu Yauri (スペイン語のタイトルEl pobre mas rico)には、ケチュア語とスペイン語の台本とが用意されており、両者を比較することで、教会が意図した事柄と、ケチュア語で伝えようとしたメッセージとの齟齬が露わになる。そこで、本研究では、Titu Yauriに注目し、先住民の作者が、ケチュア語のメタファーを駆使し、教会に気付かれないように、どのような別のメッセージを忍ばせたかを探究した。
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研究結果 (以下、太字は申請時に研究計画で指摘した解明すべき点である) |
1) |
植民地期のアンデス地域で悪魔と聖母の奇跡をテーマとする宗教劇の実態を把握。
当該地域の植民地期の演劇研究はまだ数少ないが、スペイン黄金世紀の聖餐神秘劇の影響が強く、Usca Paucar、Amar su propia muerte などの作品が都市部を中心に上演されていることが判明した。
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2) |
先スペイン期の演劇伝統とスペイン演劇との類対比の検討。
先スペイン期にもアンデス独自の演劇伝統は、叙事詩的で王や英雄の偉業を讃えそれを記憶するための政治的仕掛けだったが、ここで問題としたスペイン演劇は、カトリック教化のための道具であった。
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3) |
植民地期の社会・文化的脈絡の中での演劇の意味の考察。
植民地期には、識字者の数は極端に少なく、教会で演じられる演劇は、強制的に見せられ、しかも、現地語で行われ、多分に娯楽の要素を含んでいたので、当時、最大のマスメディアと考えることができる。
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4) |
上演を予定されていたベレン教会の位置の特定。
Titu Yauri で登場する聖母は、クスコのベレン教会を本拠地としている。J.Rowe の発見した古地図から推して、当時のベレン教会は、Coripata 付近にあり、それが、当時、現在地に移転したと考えれば、この演劇は、新しい教会の竣工と重ねて演じられた可能性がある。
5)ケチュア語で書かれた
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5) |
ケチュア語で書かれた作品の真のメッセージの抽出。
この宗教劇は、もともとケチュア語で書かれているため、スペイン語で読むと気づかないが、ケチュア語で読むとその多義的な意味を利用して、そこにはインカ王とはどのようでなければならないか、インカをどのように復興てきるか等、インカへの結束を謳うメッセージが織り込まれていることが具体的に分かった。
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