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1. 研究経過 |
まず、外国語教育に関する実証的研究の方法論についての先行研究を精査し、各方法の特徴、メリット、デメリットについて考察した。そのうえで、そこから考えられうる外国語作文プロセスの実証的研究のデザインの可能性について「研究ノート」にまとめた。 |
2. 研究結果 |
人間の行動を一般化されうる規則的な現象として説明・描写しようとする「量的研究」は、現実世界とは客観的に捉えられるものであるとする実証主義的な世界観に依拠しているのに対し、少ない数の被験者を合目的的に選び出し対象に接近して丹念にその行動や言動を観察・分析する「質的研究」は、現実世界や知識の認識とは主観的なものであり人々が世界を理解する方法も文脈に大きく依存しているものであるとする構成主義的な世界観に基づいている。研究パラダイムの歴史的変遷を振り返るならば、仮説検証型の量的研究と仮説生成型の質的研究の間の学術的交流は当初あまりなかったが、その後両者を「対立」としてではなく「統合」する方向で、いわば「第3の研究法」として「混合研究法」が発展してきた。この混合研究法は、量的研究あるいは質的研究だけではわからない問題の答えを見つけるための、また質の高い実証的研究において必要とされる「トライアンギュレーション」を確保するための有効な方法の一つである。トライアンギュレーションとは、複数の研究方法や複数の理論を組み合わせることでより多角的て?妥当性の高い知見を得ようとする研究テ?サ?インであり、研究の質を高める方法として提唱されている概念である。外国語教育に関する実証的研究の最大の問題である「対象の複雑性」を認識するならば、一つの事象をできる限り複眼的な視点から分析し、トライアンギュレーションを確保することがきわめて重要である。
外国語作文における修正フィードバックの効果を検証する実証的研究をデザインするにあたっては、単に現象の有無を量的研究で確認するだけでなく、質的研究によって現象の原因を探索的に調べ、両者の結果を統合する混合研究法が有効である。その際、発話思考法を導入する場合には、意識せずに自動化された言語処理は発話されにくく、また発話思考法そのものがタスクに干渉を及ぼし得るという問題を軽減するために、再生刺激法によるデータ取得もあわせて行い、方法間トライアンギュレーションを実現する方法が有効であると考えられる。
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