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本研究は、これまで取り組んできたイギリス憲法を対象にした民主制、法の支配および裁判官の役割についての最近の議論の展開の検討をふまえて、とくにその際扱った新たな権利章典問題の研究を発展させることを目的とするものである。その場合、イギリスにおいて新たな権利章典として制定された1998年人権法を、近年日本において注目されつつある「弱い違憲審査制」(「コモンウェルス型」立憲主義)との関係で検討しようとするものである。
当初の研究計画では、本研究課題は、数年間かけて取り組まれる必要があるものであり、2013年度には、「コモンウェルス型」違憲審査制との関係でイギリスの1998年人権法の分析を行うことから、他の「コモンウェルス諸国」とりわけニュージーランド、カナダ、オーストラリアとの比較が重要であり、カナダの調査から始めることを予定していた。
しかし、調査を進めるうちに研究の本体であるイギリスの1998年人権法についての研究を先行させる必要性を感じるに至った。
このようなことから、2013年度には、イギリス外の研究者による「コモンウェルス型」立憲主義に関する文献を素材に(とりわけ、S.Gardbaum、J.Hiebert)、その中でイギリス1998年人権法がどのように位置づけられているかを検討することと並行して、イギリスの研究者による著書・論文を検討した(とりわけ、A.Tomkins、K.Ewing、J.McEldowney)。これら研究者の一部についてはイギリス調査を行った際に面会し、直接インタビューを行い指導・教示を得ることができた。
その結果、イギリスにおいては、この「コモンウェルス型」立憲主義をめぐる議論は、「政治的憲法」から「法的憲法」への変遷をめぐって展開している議論と密接にかかわるものであることがわかった。すなわち、「コモンウェルス型」立憲主義は、イギリス型(ウェストミンスター型)「政治的憲法」(議会中心)とアメリカ型「法的憲法」(裁判所中心)の中間に位置しようとするものである。また、それは、従来からのテーマである民主制、法の支配および裁判官の役割の検討へと戻るものであることがわかった。
以上のような研究経過を経て、現在、これまでの調査・研究結果を論文にまとめようとしているとことである。
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