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英国では2010年に政権交代が行われ、現在は保守党政権となっている。同政権下では2013年9月にナショナル・カリキュラムの改訂が行われているが、シティズンシップ教育もこの改訂の影響を受けている。シティズンシップ教育が義務づけられる対象は依然としてKS3〜4の中等教育段階であるが、教育目的については、「民主主義と政府を理解し、法がどおのように作られ維持されているか」について、生徒が理解を深めることに置かれ、政治教育としての要素に強調点がおかれるようになっている。
英国では学校教育の教材は市販のものが適宜選択されるが、比較的多くの学校で使用されている教科書もある。Collins社の『Citizenship Today --- updated for both the full and short course edexcel GCSE ---』は、そのような教材のうちの一つである。これは政権交代以前に作成されているものであるが、内容を分析すると、もちろん民主主義や法についても決して軽視はされていないが、権利(特に人権)やグローバルな協調関係に関わる内容が重視されている。
シティズンシップ教育は労働党政権下で2000年に導入されたものであり、現保守党政権がこの教育を運営するのは現政権がはじめてであるため、学校教育上、同教科が今後どのように位置づけられるのか、また、どの程度重視されていくのか、また、優先される課題、強調されるテーマがどのように変化するのか、今後の課題として注目する必要がある。
また、2010年にシティズンシップ教育についての報告書『イングランドにおけるシティズンシップ教育2001-2010:未来に向けた若者の実践と展望(シティズンシップ教育についての長期的研究最終報告)』を通じて、労働政権下におけるシティズンシップ教育の成果や評価について、分析を行っている。この報告書では、若者たちのシティズンシップに関する実践が調査開始時から、いくつかの点で徐々に変化してきていることが明らかにされている。年齢が上がるに従い、政治的参加や市民的参加が増加しているが、一方で、コミュニティに対する市民としての期待などは、むしろ減退しているなどの結果が示されている。今後、同報告書や、他の報告書などを通じて、シティズンシップ教育の効果、限界、課題などをより詳細に検証する。
この研究のテーマに関わって、英国の若者らの政治行動について、2013年9月に行った英国での調査の際、ジャーナリストであるPhilip Coggan氏の講演を聞き(2013年9月9日、LSE)、英国の民主主義の危機についての理解を深めた。氏の研究成果である著書 Last Vote については、今後、先行研究として活用する予定である。
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