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大橋 直美:南山大学教育・研究事務部学術情報センター 逐次刊行物係 専任嘱託
原稿受理日:2003年1月23日

貴重書 『ローマ法大全』 と南山大学デジタルアーカイブ

大 橋 直 美

Corpus luirs Civilis
―Precious Materials and Nanzan University Digital Archives―

Naomi OHASHI

はじめに

 2002 年, 南山大学は文部科学省の助成金を受けて, 欧州中世法コレクションを購入した。 このコレクションは, ドイツの法律古書専門店である KEIP 社が長年にわたり 「欧州中世法」 のテーマに沿って希少で価値の高い法源や文献を収集したもので, 90 点, 77 冊におよぶ。 今回購入したようなコレクションは国立私立を問わず, すでに日本のいくつかの大学ないしは法学部でも所蔵されているが, 中部圏の大学としては本学が初めて所蔵することとなった。 本稿では, まずコレクションの骨格をなす 『ローマ法大全』 とその解説書について大まかな説明を行ない, このコレクションの中からいくつかの刊本について, 具体的にその特色を述べ, 収集の意義を明らかにしたい。 次に, こうした貴重書が購入されたのを機会に, その利用のために大きな便宜を提供すると思われる, 電子図書館・デジタルアーカイブについて述べることにする。

1  『ローマ法大全』

1. 1 中世におけるローマ法大全とは
 東ローマ帝国のユスティニアヌス帝 (在位 527 年− 565 年) は, 従来の法学説および勅法の集大成を 529 年から 534 年にかけて行わせた。 この集成は 3 つの部分からなり, それぞれ 「法学提要 (Institutiones)」 4 巻, 「学説彙纂 (Digesta 別名 Pandectae)」 50 巻, 「勅法彙纂 (Codex)」 12 巻 (以上は大部分がラテン語) と呼ばれる。 これらは, その後同帝が発布した勅法を集めた 「新勅法 (Novellae)」 (ほとんどがギリシャ語) とあわせてこの 4 部は, 後に 『ユスティニアヌス帝法典』 あるいは 『ローマ法大全』 (Corpus luris Civilis) と呼ばれることになった。 全部で聖書の約 2 倍の分量と言われる。
  「法学提要」 は法学校の入門書として使われたが同時に法律としての効力を持っていた。 つまり教科書であると同時に, 裁判で今日の条文のように引き合いに出すことができたのである。 「学説彙纂」 はローマ法学の全盛期 (2−3 世紀あたり) の法学文献 (告示注解, 助言集など) からの抜粋で, 『ローマ法大全』 の中心的地位を占め, 分量・質とともに他の部分を圧倒する。 権力者が断定的に判断を下すというよりも, 学者が自由な議論を交わした成果であるために, また当時当然とされていたことを前提としつつ複雑な法律問題に取り組んだ成果であるために, その内容自体の理解をめぐって様々な解釈を呼び起こし, まさに後代の解釈者の能力が問われ, 優れた頭脳の持主を魅了した。 「勅法彙纂」 はローマ歴代皇帝の勅法の集成であり, 多くは具体的な事件に対し皇帝名でなされた解答 (回答) からなっていた。 以上, 3 つの部分完成後の 「新勅法」 はユスティニアヌス帝の勅法集である。
 この 『ローマ法大全』 は, 中世・近世ヨーロッパにおいて 『教会法 (カノン法) 大全』 と並んで普通法 (ius commune) として大学で研究教育され, 各国の民事立法に多大な影響を及ぼしただけでなく, 紛争解決の規範として直接裁判や助言活動で適用された。 しかし, この普通法の主要法源は, 簡潔な条文の形をとる今日の六法全書のごときものでは決してなく, 実務家が直ちにこれを適用するにはあまりにも難解であった。 故に, この 『ローマ法大全』 を実務で適用できるように解説する作業が不可欠となった。 12 世紀イタリアのボローニャを中心に, 法源の各節・各語句に対する註釈という形でその作業が始まった (註釈学派)。 イルネリウスから始まったとされる註釈学者は, ローマ法の中で論じられている事件の内容や法文のルールを解明して註釈の形で書き残し, 講義を行なった。 彼らは同時に簡潔で体系だった 「要約 (Summa)」 をも記している。 もっとも彼らが基準とした 「学説彙纂」 はギリシャ語部分が読まれなかった。 また, 新勅法は公撰書と呼ばれたラテン語訳が用いられていた。 かれらの利用した text は, 後に 「流布本 (Vulgata)」 と呼ばれる。 註釈学派に属する学者には, 「四博士 (quattuor doctores)」 といわれるマルティヌス (Martinus), ブルガルス (Bulgarus), フーゴ (Hugo), ヤコブス (Jacobus) がおり, 次の世代として, アーゾ (Azo), フゴリヌス (Hugolinus) らがいる。 彼らの註釈作業は, アックルシウス (Accursius) の手によって集大成され, それが註釈のいわば決定版となった。 これは 「標準註釈 (Glossa ordinaria)」 と呼ばれており, その数は 96,000 を越える膨大なものである。 こうしてローマ法は註釈付きで西ヨーロッパに広まっていく。
 14 世紀になると, 実務とのより強い結合や法源のより体系的な解釈を指向する 「注解学派 (Kommentatoren)」 が主流となる。 注解学派は現実の事件に対し法的なアドヴァイスを積極的に行なったので, 「助言学派 (Consiliatoren)」 と呼ばれることもある。 代表的な学者は, バルトルス (Bartolus) とバルドゥス (Baldus) である。 「註釈学派」 はローマ法に理論的な分析・加工を施し, ローマ法の解明を行った。 彼らとて同時代の法律問題にコミットしていなかったわけではないが, この 「注解学派」 の人達の仕事には, ローマ法の成果を現実の社会に利用しようとする実践的意図がより鮮明に出てきた。
 以来, 西欧の法律学の歴史はユスティニアヌス帝法典とこの註釈・注解との格闘の中から生まれたといっても過言ではない。 フランス法およびドイツ法を継受した日本の民法もその遺産の一つであり, 今日でもなお, 民法典の条文の理解・解釈にローマ法の知識が不可欠といわれる理由もその点にある。

1. 2  南山大学図書館所蔵・欧州中世法コレクションについて
 本学図書館の欧州中世法コレクション 90 点の中核をなすのは, 『ローマ法大全』 の刊本と今述べた中世の註釈, 注解文献である。 我国では, 東京大学, 九州大学, 北海道大学, 福岡大学などに素晴らしいコレクションがあるが, 前述のように中部地区はこうした法学文献について所蔵がとぼしい状況にあった。 本学図書館は, 先に購入した 19 世紀ドイツの法学 (パンデクテン法学) を中心としたコレクションに含まれるそれ以前の法学文献の古書と合わせ, この欧州中世法コレクションによりヨーロッパ法学の基本文献において, 中部地区で群を抜く存在となったと言える。 注解学派文献について言うと, 比較的近隣の大学としては関西大学が見事なコレクションを所蔵しており, 例えば, バルトルスの全集はローマ法を操る法律家にとっては必須文献であったために, 1500 年代の刊本とて我国では必ずしも珍しくはない。 しかし, 本学が所蔵することになった刊本は印刷・装丁ともに見事なものである。 これに対し, バルドゥスの注解やデ・カストロの注解は今日では古書市場に出ることが極めてまれであり, しばしば引用される権威的著作であるにもかかわらず, 参照に苦労するものである。 これらもこのコレクションに含まれており, 大変貴重な資料を所蔵することとなったわけである。
 このコレクションは 1500 年代出版のものが中心であるが, 先に述べたように, 本来書かれた年代はそれより古い。 ようやく 1400 年代ヨーロッパで印刷技術が発明され, とりわけ 16 世紀には聖書などの神学の著作, アリストテレスなどの哲学の著作と並んで, ローマ法関連の文献が大量に印刷され, 書籍市場が形成された。 そのために過去の作品の印刷刊本は必ずしも絶対的に信頼できるものとは言えず, この意味で, すでに日本の他大学に同じ作品が所蔵されているとしても購入をためらう必要はない (極端な場合, 同じ年代, 同じ土地, 同じ出版社からの刊本にも異同があることさえある)。
 ローマ法の刊本について言うと, あらゆる作品がそうであるように真正の text の確定作業が必要である。 例えば学説彙纂について言うと, 今日では 19 世紀末のドイツのローマ法学者 T・モムゼン (1902 年ノーベル文学賞受賞者) の校訂版が基準となっている。 しかし, モムゼン版にいたる text 確定作業には長い歴史があり, 様々な刊本所蔵が望ましい。 アックルシウスの註釈付 『ローマ法大全』 についてはドイツ (最後の註釈付の刊本) とイタリア (15 世紀のインキュナビュラ) からそれぞれ復刻版が出ている。 前者については本学図書館には復刻版のみならず, 前述のパンデクテン法学コレクションにオリジナルが入っている。 さらに, 様々な修正提案や写本異同を記したフランスのゴドフロワ版についてもオリジナルが数点入っている。 18 世紀のオランダの研究成果を反映しドイツで出版されたゲバウアー版は, ゲッティンゲン大学からのコピー版を所蔵している。
 さて, 本コレクションにはともに 16 世紀の 『ローマ法大全』 の刊本であるリヨンのフラダン版とパリのポルタ版が所蔵されている。 16 世紀になるとすでに中世の text =流布本が批判の対象となったため, 新たな text の読み方の提案 (若干の単語の追加, 削除, 段落の変更, 文の追加等) が反映されることが多くなり, フィレンツェにある古い写本との比較対照作業が行なわれた。 これは当時の学問的進歩の反映として歓迎すべきものであるが, 中世の註釈や注解を読むときは, この時代に変更された text と中世法学者が念頭においていた text とがずれることがある。 従って, 修正された text を参照してそれ以前の解説書を読むのは, 法律の条文が改正された後の六法全書を参照して以前の法律の条文に基づく解説書を読むようなものである。 この点, 本学図書館がこの度入手したフラダン版第 3 版は, それ以前に出版された刊本がボロニーニ (Bolognini) らの校訂作業を反映させ, すでに流布本に変更を加えているのに対して (それを誇らしげにうたっている), 不思議なことにそうした新たな知見を無視した“保守的な”刊本とされている。 従って中世の法学者の議論を読む者にとっては (写本研究に遡るのでない限り), 実に貴重な刊本である。 ちなみに学説彙纂の 6・7 世紀の手書書であるフィレンツェ写本写真版も本学図書館に所蔵されている。

2 デジタルアーカイブへの試み

2. 1 デジタルアーカイブとは
 このような貴重書を所蔵することになった本学図書館でも, こうした資料をオープンに利用できるような方策を採るべきときがきている。 さて, 我が国では 「電子図書館」 を初めとする資料のデジタル化が進められている。 教育や文化の伝承を目的として, 博物館や図書館等の資源をデジタルアーカイブ化して作成する機関が増えている。 文化財のデジタル化は, 貴重な国民的財産である文化財の情報を, 最新のマルチメディア技術を活用してデジタル化し, 保存・蓄積・修復・公開することによって, 今の世代へは情報の公開, 次世代には正しく情報を継承することを目的とするものである。 政府は IT 国家を目指す具体的な活動としてデジタルアーカイブ推進協議会 (JDAA) を発足させ, そこが先頭となって様々な活動を行っている。 『デジタルアーカイブ白書』 にてその詳細を記述している。
 また, 2002 年 10 月に国立国会図書館関西館が京都府精華町にオープンした。 国会図書館の初の分館であるこの図書館は, ハイテク装備を特徴とし, インターネットで図書の内容を提供する 「電子図書館」 の拠点でもある。 同館のホームページに 「近代デジタルライブラリー」 というコーナーが開設され, 明治期に刊行された 3 万冊をネット上で読めるようになっている。 このように電子化される蔵書の数は今後も増えていく。 書店側もこうした動きに対応し, 著作権の許諾などで協力をしている。 現在では図書の電子化は国を挙げての一大事業となっている。 多くの古書や貴重書を気軽にパソコンで読める日がすぐ近くまで来ていることが伺える。
 本学でも 『南山大学図書館紀要』 第 6 号で三浦基氏が“電子メディアにおけるデジタルテキストの有効性”の中で, 電子図書館の教育的研究効果を強調し, 近い将来の具体化を述べている。 本学図書館においても価値の高い資料 (貴重書を中心に) のデジタル化を進め, 「電子図書館」 を構築し, その資料を教育・研究に役立てることを目標とする時期にきている。

2. 2 ウェブサイトの構築
 今回は南山大学電子図書館の手始めとして, ウェブ上にホームページ形式で貴重書 「ローマ法コレクション」 を中心に, 映像を交えて資料の紹介ページを作成した。 このサイトを立ち上げるにあたり, いかにすれば見やすい・利用しやすいホームページができるかを念頭に置き, 構築・作成を行った。 インターネットのウェブサイトには, 作成者の蓄積した情報や資料を発信すると同時に, たとえ個人の情報であっても大勢の人々と情報を共有できるという利点がある。 まさに取り扱いが難しく, 稀少価値の高い貴重書を多くの人に紹介・公開するのに適した方法の一つであると思われる。
 インターネットのウェブサイトは, 自分の情報基地である。 よって作成者にとって分かりやすく, また人が使っても分かりやすいものにしなくてはならない。 そのためウェブサイト制作についての理解を深めるため, 他大学の図書館ホームページを訪ねたり, 技術書等を読み参考にした。 その中で, 二木麻里. “情報発信基地としてのウェブサイト構築”. 情報管理. Vol. 44, No. 8, p. 41− 52 の論文が大変参考になった。 内容を以下に少しまとめると, インターネットの情報発信の形態には 7 種類あり, それは内容や分野にかかわりなく情報の切り口による分類となる。
1. 汎用サーチエンジン (Yahoo ! や Google など, 広くウェブ上のページ情報を収集してキーワード検索を行うためのサイト)
2. 専門サーチエンジン (汎用サーチエンジンに対し, ある分野の資料だけを探すよう特化されたサーチエンジン)
3. テキストアーカイブ (デジタル文献を貯蓄したオンラインアーカイブ)
4. データベース (収集したデータ自体に焦点を当てたもの)
5. テーマサイト (研究の拠点として専門分野をデータ提供に限らず様々な形式で情報を発信)
6. サイトジャーナル (オンラインジャーナル。 紙媒体の学術誌がオンラインで発行されるようになったものが多い)
7. リソースリスト (1 つの分野に深く入っていくための入り口となるリンク集)
 今回の本学所蔵の貴重書に関するウェブサイトは単純なデジタルアーカイブにすぎないが, 今後は画像による紹介のみにとどまらず, 全文をデジタル化し, 研究に利用できるオンラインテキストに編集したい。 また, 『ローマ法大全』 を主体に関連の文献資料を紹介し, さらに 『ローマ法大全』 に関するリソースリストや研究者を紹介するコーナーを設け, 専門的なテーマサイトに構築していくことも可能であろう。
 当貴重書についてのウェブサイトは, 情報の内容が分かりやすく明確で, かつシンプルに展開できるように, ホームページの設計を心がけた。 サイトを設計するにあたり, 以下の点に注意を払った。
1. トップページを見ただけでそのサイトに何があるか全部分かるよう配慮する。
2. 主要な内容が先頭にくるように設計する。
3. サイトマップを付ける。
4. 階層を深くしない。
 これらの設計理念のもと, 情報配置 (優先的に表示されるスペースは左上から順に右下に向けて順位が下がる) を意識し制作を行った。 また, 以降このサイト内に増え続ける情報や資料を考慮し, サイト内サーチ機能を設置した。
 インターネット上には大学を始めとし様々な電子図書館が存在するが, 本学図書館においても, もっと充実した独自の電子図書館構想を練り, 改訂・増築を重ねていきたい。

2. 3 サイトの紹介





2. 4 将来構想
 この資料紹介の執筆を機に, 『ローマ法大全』 をはじめとする 「欧州中世法コレクション」 の電子出版化について考察してきた。 貴重書を電子出版するということは, 物理的に利用が制限されている貴重な資料を, 場所や回数にこだわることなく利用できる出版物に生まれ変わらせることを意味する。 このようなメディアが発達すれば, 利用者が貴重な文献を求めてさまよい歩いていた時代は終わり, また図書館や文書館で貴重書のためコピーを取ることを断られてがっかりすることも無くなるだろう。 資料をデジタル化することで, コピーが可能になり文献比較が容易になる。 さらに, ある一部分だけ拡大して検証することも可能となる。 こうして従来の貴重書に対する利用や研究方法もドラマティカルに変わって行くことが予想される。 はたして本学の場合はどうであろうか。 本学図書館の貴重書室は閲覧席もなく, 書架スペースも限界に来ている。 この 「欧州中世法コレクション」 においても一冊一冊保存箱に入れられ, 棚の上段から下までびっしりと並べられている。 現物を閲覧しようにも保存箱を紐解く場所すらないのが現状である。 しかし, 図書館には利用を促し, 同時に資料の保存も行っていかなくてはならない使命がある。 このような状況を打破するためにも, 本学図書館こそ率先して資料の電子化に取り組むべきではないのだろうか。
 今回ここで行ったデジタルアーカイブは展示型である。 展示型とは, 一般的に多くの図書館や博物館等が, ホームページを利用して, 所蔵する書物の表紙や一番見栄えのいいページを写真に撮り紹介・公開することをいう。 しかし, 同じ電子出版といっても福岡大学図書館で行っているデジタル化は上記のものとは異なり, 利用型のアーカイブである。 ここでは先にも述べた 『ローマ法大全』 のゲバウェル=シュパンゲンベルク版を画像データベースとしてデジタル化事業を行っている。 また, ドイツの大学においても 『ローマ法大全』 のモンゼン版の電子出版を行っている。 ここで少し福岡大学の 『ゲバウェル版ローマ法大全』 の例を挙げて利用型の電子出版の説明をする。 これは法律の構成に即して用語で検索ができ, 検索した本文の一部から脚注部分にリンクで飛ぶことができ, さらにそれを拡大画像で見ることもできる。 『ローマ法大全』 の構造を端末上でよく表現していることに驚く。 またその手法とは, ローマ法大全の書物の背を外して一度紙の状態までにしてドキュメント・スキャンとデジタルカメラで画像を撮り, photoshop (アドビシステム社) 等のソフトで修正を加え, WWDS (ハイパギア社) の文書管理ソフトでデータベースを作成して図書一冊を丸ごと電子化するというものである。 その図書にはキーワード生成やインデックス化が施されており, 検索機能も充実している。 さらにそれは画像圧縮がされホームページ上でも閲覧できるようになっている。 また, 学内用には専用端末と大型テレビが設置されていた。 費用の面から言うと, デジタルカメラやスキャナー, 大型プリンターなどの画像機器に専用サーバーに専門ソフト等コンピュータ機器など, コストのかかる設備投資と専門の人材が必要となり決して安いものではない。 だが, 貴重書が世界中の利用者に気軽に閲覧できる資料として生まれ変わるのである。
 本学図書館でも業者に貴重書のデジタル化について尋ねたところ, 次のようなアドバイスを受けた。
 一次情報であるデジタルコンテンツについては, まず最初に 35 oカラーマイクロフィルムにて資料の撮影をし, その写真をスキャンして TIFF 形式ファイル (2000dpi・16MB) に変換を行なう。 この TIFF 形式ファイルのデータをマスターデータとして図書館に保存する。 さらに, 公開用に使用するためにデータを JPEG 形式ファイル (300KB) や PFD ファイルに変換する。 実際に端末から資料を閲覧するには Gigaview (富士通), MrSID (ESRI ジャパン) や Acrobat Reader (アドビシステム社) 等の画像配信ソフトを利用する。 また, これらを効率的に利用するには検索を行なうための書誌やメタデータ (二次情報) が必要となり, それらのデータを保存・検索するシステム, 例えば Library Pro (インタニア社) を導入することが必然となる。 費用の面から言うとかなりの高額になるが, 本格的な電子図書館が運営できる。
 また, 他にも図書館内で手軽に図書の電子化をする方法もある。 例えば, ゼロックスの DocuWorks というソフトを使用し, 図書をページ毎 PDF ファイルのように電子化する方法も考えられる。 DocuWorks は, デジタルカメラで撮影したページを編集して一冊の図書のようにまとめることのできるソフトで, ライセンス料も安価である。 撮影したページには, ハイライトや文字の挿入, 付箋の付加などもでき, 利用者が図書の中に書き込みするような行為が擬似的に再現できるのも特徴だ。 もちろんその書き込みは DocuWorks 上にて行うのでデジタルカメラで撮影をした画像ファイルには更新されない。 また, この DocuWorks には OCR 検索機能が付いているので日本語 (草書等の特殊文字は除く) または英語の書物ならば文字検索することも可能である。 資料の撮影だが, 市販のデジタルカメラ (40 万画像〜) でも十分撮影は可能だが, 撮影場所によりストロボを使用する際は焦点がページの端に合わないため, 見づらい部分が出てくるので注意が必要となる。 よって細かい文字の書物など, より鮮明な画像を必要とする時は手動のデジタルカメラ (400 万画像) で撮影することを勧めている。 図書館の利用者がコピーを許されていない貴重書をデジタルカメラで撮影し, このソフトを使用して印刷出力したり, ファイル形式にして持ち帰ることもできる。 また, 教員が研究に使用した画像資料をそのまま授業に再利用してもらうことも可能になる。 このようなソフトを利用し, 文書管理ソフトも導入すれば, あまり専門的な知識を必要としないので比較的簡単に図書の電子化を行なうことができる。
 貴重書の電子化には様々な手法・方法が考えられるが, 本学図書館では利用面・コスト・時間等を考慮し最善なシステムを選択したいと考えている。
 上記に挙げた福岡大学が電子出版事業に成功を収めた理由の一つに, 研究者との連携体制の確立によるところが大きい。 資料をデジタル化する上で, エンドユーザーがストレス無く使える, いや使ってもらえる, データベース=電子資料にするためには, 研究者がどの様な情報を求めているか, また何を必要としているかリサーチを行わなくてはならない。 よって図書館は, 必然的に研究者と協力体制を取りながら事業を進めて行くことが求められるであろう。
 最後に今後, このウェブサイトをどの様に充実させていくか, 将来的な設計や構想を述べてきたが, 一日でも早くこの展示型アーカイブを脱し, 利用型のアーカイブを構築していきたいと考えている。 エンドユーザーの立場から見て利用しやすい, かつ独創的な発信内容を満載した情報発信基地である 「電子図書館」 を, 本学図書館に設立できるよう日々改造・改良・増築を重ねていく心構えである。

謝 辞
 最後に, この執筆にあたり御指導, 御協力頂いた方々にこの場を借りて感謝を申し上げたい。 本稿の 1 については, 本学法学部の田中実教授より御多忙中にもかかわらず御丁寧な解説と親身な御指導を頂いた。 また, 福岡大学図書館・中村芳比古氏, 高木秀人氏, 工藤邦彦氏からは丁寧な御説明を受け貴重な資料を拝見させて頂いた。 刊本の写真撮影については本学図書館・笹山達成氏, 日高由紀子氏の協力を仰いだ。 皆様方に深く感謝の意を表し, 御礼申し上げたい。


参考文献
1 ) 田中実 (「ローマ法」) . 法と秩序:歴史学事典第 9 巻. 東京:弘文堂, 2002, pp. 679−682 所収。
2 ) 碧海純一ほか (編) . 法学史. 東京:東京大学出版会, 1976
3 ) H. シュロッサー (著), 大木雅夫 (訳) . 近世私法史要論. 東京:有信堂, 1993
4 ) P. ヴィノグラドフ (著), 矢田一男, 小堀憲助, 真田芳憲 (訳) . 中世ヨーロッパにおけるローマ法. 東京:中央大学出版部, 1974
5 ) ベーレンツ (著), 河上正二 (訳著) . 歴史の中の民法. 東京:日本評論社, 2001
6 ) O. F Robinson, T. D Fergus, W. M. Gordon. European legal history. 2nd ed. London:Butterworths, 1994
7 ) 二木麻里. “情報発信基地としてのウェブサイト構築”. 情報管理. vol. 44, no. 8, pp. 569−580 (2001)
8 ) 岩川良樹. “全文検索エンジン”. 情報管理. vol. 43, no. 9, pp. 845−853 (2000)
9 ) 安田文吉. “リチャード・レイン氏所蔵近世文芸作品コレクション”. 南山大学図書館紀要. 第 3 号, pp. 47−54 (1987)
10) 三浦基. “電子メディアにおけるデジタルテキストの有効性”. 南山大学図書館紀要. 第 6 号, pp. 41−52 (1999)
11) 石井知好. “資料紹介”. 南山大学図書館報. 第 39 号, p. 5 (2001)
12) 西村重雄. “中央図書館貴重文物展観目録”. 九州大学広報. 第 715 号, pp. 1−11 (1990)

バルドゥス 『勅法彙纂第 4・5 巻注解』 1539 年リヨン版表紙

バルトルス 『学説彙纂前部後半注解』 1588 年バーゼル表紙

『ローマ法大全』 「学説彙纂前部」 1518 年, フラダン版
左頁の真中はローマ法文, 周囲は標準註釈
右頁は役権の分類を整理した樹木図

『ローマ法大全』「学説彙纂中部」 1518 年, フラダン版