図書館について 活動紹介
学部長と図書館委員会委員による推薦図書 Talk Café(全9回)
2023年07月11日
学部長と図書館委員会委員の皆様に、図書館展示企画として選書していただいた新入生向け推薦図書の魅力や選定の背景をプレゼンテーションしていただきながら、学生との質疑応答を含む企画としてカジュアルなトークを展開していただきました。
<開催一覧>
NANTO ルーム推薦図書 Talk Café 第1回 2023.6.5
南山大学ライネルス中央図書館では、6/5 から NANTO ルームにて「推薦図書 Talk Café」を開始しました。この推薦図書 Talk Café は、学部長と図書館委員の先生方から紹介いただいておりました推薦図書の魅力や背景について、ざっくばらんに語っていただく企画です。記念すべき第 1 回は、国際教養学部長の森山幹弘先生をお迎えして開催しました。今回の推薦図書は、インドネシアのプラムディヤ・アナンタ・トゥール(Toer, Pramoedya Ananta, 1925-2006) 著『人間の大地』でした。自らもインドネシア文学作品の翻訳者でもあるという森山先生は、ご専門のインドネシアのことを話し出せば本当であれば3時間はかかる!と仰りながらも、30 分という限られた時間を一杯に使って、作品の理解に必要なインドネシアの歴史・文化・政治的な背景と作品の持つ重層的な構造と魅力について、濃縮された深いお話をしてくださいました。
この推薦図書トークカフェはこの第一回を皮切りに全9回の開催予定です。ぜひ、飲み物片手に気軽に参加してみてください。
■今回取り上げられた作品
人間の大地 ; 上 / プラムディヤ・アナンタ・トゥール著 ; 押川典昭訳. めこん, 1986 (プラムディヤ選集 ; 2) 929K||319||v.2
人間の大地 ; 下 / プラムディヤ・アナンタ・トゥール著 ; 押川典昭訳. めこん, 1986 (プラムディヤ選集; 3) 929K||319||v.3
NANTO ルーム推薦図書 Talk Café 第2回 2023.6.16
第2回は総合政策学部の平岩俊司先生をお迎えして開催しました。メディアで露出することが多い先生ですが、直接お話をうかがう貴重な機会となりました。内容も、推薦図書2冊の紹介にとどまらず、図書館の資料収集のあり方から、大学での学習・研究に不可欠な「考える」という行為や、平岩先生の大学院生時代の体験談まで、幅広く盛りだくさんな 30 分となりました。
推薦図書のうち『コロナの影響と政策』は総合政策学部の学習・研究の対象となる分野の内容(同学部の先生方が分担執筆)であり、他方で『独学大全』は「学ぶ」うえで必要な「技法」と「考える」こと自体について書かれたものでした。これらは大学での学習・研究におけるいわば車の両輪であり、両者が掛け合わされることで「知」が深まり拡充するのだと教えていただきました。それだけでなく、「独学」が「独善」になることを戒められました。また、「議論」はディベートのように勝つことが目的ではなく、唯一ではない最適と思われる答えを見つけるための協働作業であることや、学問上の「言葉」に対する概念設定の厳密さにも触れられたりするなど、知的活動の厳しさを知る好機にもなりました。短い時間ではありましたが、大変有意義でお得感のある催しでした。
■今回取り上げられた作品
コロナの影響と政策 : 社会・経済・環境の観点から / 石川良文編著. 創成社, 2022
498K||2079
独学大全 : 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための 55 の技法 / 読書猿著. ダイヤモンド社, 2020
379.6K||229
第3回:6月20日 法学部 洪 恵子 先生・図書館長 太田 達也 先生
NANTO ルーム推薦図書 Talk Café 第 3 回 2023.6.20
第 3 回は法学部の洪恵子先生をお迎えして開催しました。図書館長の太田也先生との対談形式という初の試みでしたが、お二人にとって思い入れのある共通の図書を通じて語り合うあたたかい時間となりました。
今回の推薦図書は『コルシア書店の仲間たち』でした。洪先生自身が大学院生の頃に出会った図書で、太田先生も同じく若い頃に読まれて心を動かされた作品だそうです。法学部の学生へ進めたい理由として、法学部は実学なのでこういった本を読んで人生とは何か?人間とは何か?という答えのないことを考えることも大学生の間は大切だと思うとお話してくださいました。
30 年という時間のフィルターを通して、それぞれの人生を包み込むように描かれており、司会をご担当いただきました法学部の齊藤高広先生もストーリーの中で共感できる人物に出会い読み終わるのが惜しいと感じられたそうです。
また、Talk Café に参加した学生に向けて洪先生より「映像を見ることとは違って読むことはエネルギーが必要だが、静かに自分と語る時間になる。すぐに授業につながる読書でなくても心の安らぎのためにも読書を薦めたい。」、太田先生からは「ネットの情報だけではなく、読書を通して広い世界をみてほしいし、図書館は世界が広がる入り口であると思う。」とメッセージをいただきました。
■今回取り上げられた作品
コルシア書店の仲間たち;須賀敦子著. 文芸春秋, 1992
914K||677
NANTO ルーム推薦図書 Talk Café 第 4 回 2023.6.22
第 4 回は外国語学部長の牛田先生をお迎えして開催しました。あいにくの空模様にもかかわらず、多くの方が足を運んでくださり、大変実りのある時間となりました。今回の推薦図書は『人種主義の歴史』。牛田先生は、次の二つのことを念頭に、この本を推薦図書に選んだそうです。一つ目が、学生(特に新入生)に手に取ってもらえる本であること、外国語学部のどの学科に所属していても(勿論、他の学部の皆さんにとっても)国や地域を超えた共通のテーマであること、2 つ目が、信頼できる執筆者と出版社から発行されていること。著者の平野氏は、牛田先生が最初に教鞭をとった大学の同じ部屋で机を並べていた研究者で、今でも交流があり今回の本も平野氏ご自身から献本されたそうです。
膨大な史・資料を確認して様々な問題に正面から取り組む姿勢や緻密な文章構成、日本語の表現力に触れることは、学生の皆さんが卒業論文やレポートを作成するうえで大きな力になるはずと話してくださいました。本書は「「人種」という根拠なき考えに基づいて、人を差別・排除する。人種主義(レイシズム)はナショナリズムや反ユダヤ主義と結びつき、近代世界に計りしれぬ惨禍をもたらし、ヘイトスピーチ・黒人差別など、現代にも深い影を落としている。大航海時代から今日まで、その思想と実態を世界史的視座からとらえる入門書」と表紙の見返しに紹介されています。人の毎日の営みの中で何らかの相違点が見出され、新たな差別が生まれる。何が問題なのか、その問題と自分はどのように向き合うのか不断の思考を続けることが大切であるというメッセージを、この本から、そして牛田先生のお話から受け取ることができました。
■今回取り上げられた作品
人種主義の歴史 : 平野千果子著. 岩波書店(岩波新書 1930), 2022
081K||2356-3||v.1930
NANTO ルーム推薦図書 Talk Café 第 5 回 2023.6.27
第 5 回は理工学部の横森励士先生をお迎えして開催しました。今回の推薦図書は『コンピュータはなぜ動くのか』でした。コンピュータがどのような仕組みで動いているのか、その基本的な原理について、特にコンピュータ基礎・応用の授業を受講する理工学部生に知っていてほしいという思いから、本書を推薦したとのことでした。
本書の前半では、コンピュータの基礎動作の原理について、後半はアルゴリズムやデータ構造の役割、データベースシステムやネットワークの仕組みについて書かれており、プログラミングを学ぶ学生にとって、勉強の第一歩として有益なので、ぜひ読んでみてほしいとお話しいただきました。また、本書はシリーズとなっており、『プログラムはなぜ動くのか』『ネットワークはなぜつながるのか』と関連書籍が出ているので、ぜひそちらも読んでみてほしいとお勧めしていただきました。
先生の推薦資料紹介には、「コンピュータに関する技術の発展はすさまじく、日常生活にかかせないものになっている反面、技術の多様さや多彩さに流され、コンピュータの基礎的な技術や動作の仕組みを理解できていない人も多くみられる」と触れられており、先生ご自身、「普段コンピュータに触れない一般の人には、どの程度コンピュータについて知っていてほしいか」との質問に、「コンピュータの内部についての知識がなくても勝手に動いてくれるが、コンピュータを構成しているものについては最低限理解していてほしい。あとは、使いこなせる程度の知識を持って欲しい。」とのお考えを述べられました。本書から、そして横森先生のお話を通して、私たちの日常生活を支えるコンピュータに関心を向けると同時に、正しい知識と使い方を身に付ける必要があると気づきを得ることができました。
また、本日の講演の中で、理工学部長 大石泰章先生推薦の『理科系の作文技術』についても触れられました。簡潔に自分の意見を述べる技術が詰まっており、この本を読むといかに自分の文章に無駄が多いか気づくことができるので、論文やレポートを書く際には非常に参考になるのではとお話しいただきました。
■今回取り上げられた作品
コンピュータはなぜ動くのか 知っておきたいハードウエア&ソフトウエアの基礎知識;矢沢久雄著. 日経 BP, 2022
007K||286
理科系の作文技術;木下是雄著.中央公論社, 1981 (中公新書 ; 624)
081K||2358||v.624||C
NANTO ルーム推薦図書 Talk Café 第6回 2023.6.30
第6回は経済学部の岸野 悦朗先生をお迎えして開催しました。今回の推薦図書は『思考の整理学』でした。
岸野先生は資料紹介前の導入として、高校までの授業と大学からの授業とそれぞれに必要な能力を比較しつつ、大学において自主的に考え行動することの重要性を、具体的な経験からくるエピソードを交えお話しくださいました。ではどのようにその「思考力」を鍛えるべきか、本書の目次である「グライダー」「朝飯前」「整理」「とにかく書いてみる」「垣根をこえて」...といったキーワードをピックアップしながら、各章の重要なポイントについて、緻密なスライドを用いて解説いただきました。
本書では、自力で飛ぶことのできない「グライダー型人間」と、自分の頭で考え、飛ぶことのできる「飛行機型人間」という比喩表現を用いて、自律的に思考・実践することの大切さが説かれています。大学の授業で必要になるのは自分から発信し考える力で、まさに「飛行機型人間」になっていくことが求められる、と先生のご所属である経済学科のディプロマポリシーなどを引用しつつ語られました。
また、「読書」という行為そのものについて、「能動的」で「主体的」、「想像力の発揮」される行為で、「深度ある作業」といった分析をされ、さまざまな能力が鍛えられるメリットの大きな作業であることを示していただきました。
トークが終了した後も、参加した教員・学生から質問が飛び出し、質疑応答も含めて大変学びの多いひとときとなりました。岸野先生は今回新入生に向けた推薦図書を選書してくださいましたが、本来は推薦されるものをただ受け身で読むばかりではなく、自分から積極的に資料に出会っていく・自分で考えて必要な資料を探していく姿勢も重要であることを、本書に記された内容に絡めながら、あらためて語ってくださいました。
■今回取り上げられた資料
思考の整理学 外山滋比古著. -- 筑摩書房, 1986.
081K||2425||v.0-84||A
第7回:7月 3日 経営学部 南川 和充 先生・余合 淳 先生
NANTO ルーム推薦図書 Talk Café 第7回 2023.7.3
第7回は経営学部の南川 和充先生、余合 淳先生のお二人をお迎えして開催しました。南川先生の推薦図書は『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている―再生・日本製紙石巻工場』、余合先生の推薦図書は『私たちはどうつながっているのか―ネットワークの科学を応用する―』でした。先生方が選書されたそれぞれの資料について、前半は南川先生、後半は余合先生の順にお話しいただきました。
南川先生は、『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている―再生・日本製紙石巻工場』の推薦理由として、新入生を含むさまざまな所属の学生が読むことを想定し、難解な専門書ではなく、よみやすさを重視した一般的な資料を選定してくださったとのことでした。また、震災という大きな悲劇から一企業(製紙工場)がどのように立ち直っていくかという本書のストーリーは、とくに先生のご所属の経営学部の取り扱うテーマにも関係するところが大きく、ぜひ経営学部の学生に手に取ってほしいとのことでした。舞台となるのが「製紙工場」という点においても、紙・本と密接に関わることから、本を取り扱う図書館での展示に適しているとのお考えで、さまざまな観点からその推薦理由を述べていただきました。
余合先生は、『私たちはどうつながっているのか―ネットワークの科学を応用する―』について、本文を引用したスライドを用いながら、本書の内容を踏まえその魅力をお聞かせくださいました。文中に登場する、「弱い紐帯」「スモールワールド研究」など、聞きなれない専門用語について身近な事例を挙げつつ、人や社会とのつながり方について示唆に富んだお話をいただきました。
同質性の高いいつものコミュニティは居心地がよいものの、"普段と異なる場所で属性の異なる人間と出会っていくことが、自らの人生やキャリアにさまざまなブレイクスルーを生み出す可能性を秘めている"と締めくくられ、トークカフェのような一期一会の場所においても、新たな出会いや発見の場になりうるとのお言葉をいただきました。お二人のトーク終了後も積極的な質疑応答が交わされ、大変充実したひとときとなりました。
■今回取り上げられた資料
紙つなげ!彼らが本の紙を造っている : 再生・日本製紙石巻工場 佐々涼子著. -- 早川書房, 2014.
585K||230
私たちはどうつながっているのか : ネットワークの科学を応用する 増田直紀著. -- 中央公論新社, 2007.
081K||2358||v.1894
NANTO ルーム推薦図書 Talk Café 第8回 2023.7.4
第8回は外国語教育センターの山口薫先生をお迎えして開催しました。
山口先生は推薦図書『実例で学ぶ認知意味論』の内容について、入念にスライドをご準備いただき、大変分かりやすく詳しく解説してくださいました。日常でよく使う言葉などを例に挙げ、身近な日本語の言葉の意味について考えながらまったく認知言語学の知識がない聴衆にも意味論の考え方を知る機会となりました。会場には著者の籾山洋介先生もおいでくださいました。
言葉の意味が広がっていくしくみについて楽しく学び、山口先生からの図書の紹介にあったとおり、固かった皆さんの頭が柔らかくなったことは間違いありません。(皆さんの頭は、本当に物理的に固くなったり柔らかくなったりするのでしょうか?)
■今回取り上げられた資料
実例で学ぶ認知意味論 / 籾山洋介著. -- 研究社, 2014.
801K||7603
第9回:7月10日 人類学研究所 DORMAN, Benjamin先生
NANTO ルーム推薦図書 Talk Café 第 9 回 2023.7.10
第 9 回は人類学研究所の Dorman, Benjamin 先生をお迎えして開催しました。
今回は図書ではなく『裸足の 1500 マイル(原題:Rabbit-Proof Fence)』というオーストラリア映画をご紹介いただきました。ドーマン先生には、英語と日本語を併記したスライドをご準備いただき、大変分かりやすい英語で解説してくださいました。
映画は 1930 年代の西オーストラリア、白人男性と先住民女性との混血児(Stolen Generations(盗まれた世代))を、白人社会に適応させようとする隔離・同化政策について描かれたストーリーで、オーストラリアの先住民文化、植民地化、忍耐力、人権侵害、尊重、歴史的不正義について学べる深い内容となっています。
この映画を推薦した理由として、オーストラリアへの理解を深めてほしいということ、これは決してオーストラリアだけに起こったことではないということをあげていらっしゃいました。
オーストラリア国内でも賛否両論のある映画で「オーストラリアは過去から前進した」「過去は私たちの生活の一部である」など、肯定的な意見と否定的な意見の双方があることもお話しいただきました。
ドーマン先生にとって印象的なシーンは何かという質問に対して、シーンというより、先住民の土地に対する知識や、動物(先住民)をどうやって人間にするのかという表現が印象的だったと話されていました。
さらに学生からの質問を受け、1980 年代に「盗まれた世代」という言葉が研究者によりできたものの、社会的に浸透するまでに時間がかかり、オーストラリア政府は 2008 年に初めて「盗まれた世代」に謝罪したということ、また、ドーマン先生ご自身が 1970 年代に学校で習った歴史はこの映画とは全く違うものだったということが披露されました。
ドーマン先生のおっしゃったとおり、これはオーストラリアだけに起こったことではなく、日本や身近なところでも同様の歴史はあるのかもしれません。自国の歴史を振り返るきっかけとしても、『裸足の 1500 マイル』をぜひ観てみてはいかがでしょうか?
■今回取り上げられた資料
裸足の 1500 マイル / フィリップ・ノイス監督・製作 ; クリスティン・オルセン脚本・製作 ; ドリス・ピルキングトン原作. -- [リミテッド・エディション]. -- [アットエンタテインメント (発売)], 2003.
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