図書館について 活動紹介
推薦図書トーク2024 第17回(6月27日開催)
2024年06月28日
外国語学部 ドイツ語学科 麻生 陽子先生
『私とは何か : 「個人」から「分人」へ』
南山大学ライネルス中央図書館では、NANTO ルームにて「推薦図書トーク(全17回シリーズ)」を開催しています。各学科の先生方から学生の皆さん宛に本を推薦していただき、その本の魅力や背景について直接語っていただく企画です。
最終回となる第17回は、外国語学部 ドイツ語学科 麻生 陽子先生に推薦図書 平野啓一郎著『私とは何か : 「個人」から「分人」へ』をご紹介いただきました。
「私」とはいったい何でしょうか。本当の私、たった一つの私というものは、果たして存在するのでしょうか?
明治時代に西洋から輸入された「個人」という考え方は、それ以上分けられない、不可分である、という概念ですが、生活しているだけでも、自分を「ひとつ」に決めてしまうのは難しいほど「家族といる時の自分」「職場にいる時の自分」「趣味の仲間といる時の自分」など、自分の中にさらに「さまざまな自分」がいることに気づかされます。
著者は本書の中で「個人」に対する概念として「分人」、すなわち「関係性の中で変化していく自分」を提唱し、氏の経験を通じて、「分人」という概念に焦点を当てていきます。麻生先生は、この「分人」という考え方を通して、「私とは何か?」という問い・モヤモヤがすっきりし、生きやすくなった、とご紹介くださいました。
また、「本当の自分」「不変の自分」などはなく、たとえば、過去の自分や未来の自分、さまざまな相手と接する自分にはじまり、ある言語を話す自分、別の言語を話す自分など、多種多様な「分人」が存在することを例に挙げ、先生ご自身の体験として、「日本語とドイツ語を話している時のそれぞれの自分は少し異なっている気がする」と語っていただきました。
本書の目次と内容紹介の後、先生が授業でも取り上げたという、同じく平野啓一郎による小説『空白を満たしなさい』についてもご紹介いただき、「分人」の概念を通して物語を読むことのおもしろさに触れながら、著者の平野氏がその内容を分析したカフカの『変身』や、先生のご専門であるドイツ文学から『若きウェルテルの悩み』など、さまざまな文学作品が例として飛び出し、参加者の読書欲を掻き立てるトークとなりました。
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■今回の推薦図書
『私とは何か : 「個人」から「分人」へ』 平野啓一郎著 ( 講談社 , 2012年) |
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全17回のトークイベント、新たな資料との「であい」を皆さんにお届けできましたでしょうか。恒例となりつつある本企画、次年度の開催もどうぞお楽しみに。