カトリック文庫 平戸御水帳
書名等 | 御水帳 : 平戸 |
出版事項 | [平戸] : [田崎教会] , [1878-1884] |
ページ数・大きさ | [182]丁 ; 39.4×14.6cm |
請求番号 | CAT2||13||9 |
「御水帳」とは、いわば洗礼台帳であり、キリシタンの潜伏時代以来の洗礼を御水と言ったことに由来する。本史料は、平戸島における、1878(明治11)年7月28日から1884(明治17)年9月7日までのほぼ6年間、約70名の授洗記録である。
形態としては、縦長、和紙の袋綴じ、四つ目綴じ、全182丁(記入は37丁まで)の和装本である。長崎出身であり、日本における近代活版印刷の祖とも言われる、本木昌造が鋳造した金属活字(2号活字)による印刷と思われる。ただし、柱の「平戸」の文字だけは木活字であり、各教会で使用できるよう配慮されたものであろう。それゆえ、長崎近辺の古い教会には同様の御水帳が眠っている可能性は容易に想像できる。そして11行の罫があり、必要事項を記入する様式となっているが、「御出世以来一千八百七十△年△月△日」(△はスペース)と印字されていること、この手の活版印刷は1877年以降のものしか知られていないことから、自ずと1877~1878年に印刷されたものであると推測できる。
本史料には比較的現存数が多い宗門人別改帳では到達し得ない情報が記載されており、それだけでも重要度が高いと言える。一般的に五島・外海(そとめ)・長崎系と生月(いきつき)・平戸系の2系統に分類されるキリシタンのうち、数少ない生月・平戸系の史料が発見されたことは意義深い。殊に生月・平戸系とひとくくりにされがちであるが、大きく異なる要素があるため、その意味でも、本学の『平戸御水帳』は貴重である。
『平戸御水帳』は、記載人数は少ないものの、受洗者本人のみならず「帳方」「水方」「抱親」などの名前を丹念に見て比較すれば、復活時代のカトリック教会の勢力を把握する一助となるだけでなく、人物の確認、さらには受洗年齢や家族関係から婚姻関係や信徒の移動まで、多岐にわたる当時の状況を詳細に知ることができる。他の御水帳と突合わせて調査することで、より詳しい実態が掴めることは言うまでもない。また、明治初期の庶民生活に関する基礎史料としてだけでなく、カトリック教史、民俗学あるいは宗教社会学等々、幅広い研究分野で有益な史料となるのではと期待を寄せている。
【参考文献】
- 石田昌久, 加藤富美, 関谷治代, 山田直子. キリシタンの歴史を辿る : 復活期の史料『平戸御水帳』の紹介を通して.
- 小値賀諸島の文化的景観 : 野崎島キリスト教関連資料保存調査報告書. 長崎県小値賀町教育委員会, 2018, 108p., (小値賀町文化財調査報告書, 24).(請求番号:290||1100)