今回、提携先である愛知県庁(政策企画局国際課)からご提供いただいたのは、
愛知という土地の魅力を外国人に伝えることを目的とした「最高の愛知旅を提案する」という課題です。
異なる文化を持つアリゾナ州立大学の学生とオンライン上で議論を重ね、
協働によって導き出した旅の企画をプレゼンテーションしました。
PBL COILとは?
南山大学独自のテーラーメイド型教育プログラム「NU-COIL」の上級科目で実践的なCOIL型授業。
『国際産官学連携PBL』の授業を通じ、南山大学と海外協定校の学生が協働して、企業や団体、官公庁が抱えているビジネスや行政上の課題に取り組みます。
プロジェクトのゴールは、愛知県庁よりいただいた「最高の愛知旅を提案する」という課題に応え、プレゼンテーションすることです。
学生たちは、アリゾナ州立大学の学生と混合の6グループに分かれ、オンラインツールを通じてそれぞれ調査・研究・意見の交換と調整、プレゼンテーション資料作成を行いました。
全8回の授業では、企業のブランドプロデュースおよびデザインを手掛ける協力企業、(株)オレンジ・アンド・パートナーズの担当者による講義や愛知県観光コンベンション局国際観光コンベンション課による愛知県の観光に関する施策についての講義も開催。課題の進捗を報告したり、企画に関するアドバイスを受けたりしながら、最終授業でのプレゼンテーションを目指しました。
1. 課題を理解し、取り組みに必要な情報を得る
取り組みに先立ち、愛知県観光コンベンション局国際観光コンベンション課による特別講義が開催されました。
学生は、愛知県が外国人旅行者の誘致に力を入れている背景と誘致のための戦略について学びました。
また、愛知県への訪問は東京や大阪に比べて少なく、インバウンドに大きな「伸びしろ」があることを、具体的な統計資料から理解しました。
次に、観光資源として、「歴史・伝統」「自然・景色」「伝統工芸・窯業等」「祭り」「醸造業」「食文化(なごやめし等)」「工業・先端技術」「最近オープンした観光資源・今後オープンが予定されている施設等」の数々についてご紹介いただきました。
そのうえで、現在、愛知県が取り組んでいる観光戦略や観光資源のブランド化を目指した取り組みが伝えられました。
最後は、2027年のリニア中央新幹線開業など、この先に予定されている愛知県内の大型事業やプロジェクトの紹介で締めくくられました。
2. 質疑応答を通して、より深く理解する
特別講義後は質疑応答時間が設けられ、学生からいくつかの質問があがりました。
「現在、特に誘客のターゲットとして考えている国や地域はありますか?」との質問には、現在はアジアからの観光客が多いため、今後は欧米・オセアニアからの観光客にもアピールしていきたいという回答をいただきました。
課題としては、アジアに比べて欧米から中部国際空港への直行便が少ないことが挙げられ、新幹線などを利用して愛知県へ誘客できるような仕掛けづくりを検討していることをお話しいただきました。
誘客のための一案として、国際的なスポーツイベント等を活用した呼び込みに力を入れていることもご紹介いただきました。
質問の一例
ほかにも、「宗教上の理由で食べられる食材が限られる観光客への配慮は進んでいますか?」「愛知県の各観光地への移動手段としてはどのような交通機関が利用されていますか?また、今後はどのような移動手段の利用を期待されますか?」「県内に外国語で応対できる施設はどのくらいありますか?」などの質問があり、それぞれのご担当者様からご回答いただきました。
課題を理解し、情報をインプットする
特別講義の目的は、学生たちが、「なぜ愛知県は外国人旅行者の招致に力を入れているのか」という課題の本質を知ることと、企画に取り掛かるために欠かせない情報をインプットすることです。
学生にとっては初めて触れる県の観光戦略。インバウンドを推進するという視点から考える機会となりました。
特に、関係者以外が目にする機会のほとんどない、海外でのプロモーション活動の様子は、新鮮に映ったようです。
講義後に学生たちから上がった質問の数々が、多くを学んだことを示しています。
1. 協力企業から企画の立て方を学ぶ
企画に先駆けては、(株)オレンジ・アンド・パートナーズの担当者に講義を依頼。学生たちは、企画とは何かを考え、企画に必要なステップを学びました。
まずは、「価値の生み出し方」について。SurpriseやHappinessが予想もしないタイミングで訪れる瞬間を仕掛けることで新しい価値が生み出される経緯を、わかりやすくレクチャーいただきました。
そのうえで、企画とは「あの人の好みは何だろう?」「どうやったら喜ぶだろう?」と考えることであると学び、今回の課題「最高の愛知旅」というキーワードを改めて捉え直しました。
具体的なミッションとして、「4日間の愛知県旅行をアリゾナ州に暮らすある特定のグループのために企画すること」を設定。
一生の思い出になる旅のプレゼントをゴールとして設定しました。
企画のステップ
企画の出発点は、マーケティング調査です。
まずはできる限り多くの対象に向けて、日本に対するイメージや関心事を調査するアンケートを実施。
そのなかの2、3人をターゲットに設定し、より深いヒアリングを通して、どのような企画なら相手が驚き、幸せを感じてくれるかを考えていきます。
2.アリゾナ州立大学の学生と協働して課題に取り組む
いよいよ国境を越えた連携です。時差に配慮しながら、講義外の時間でオンラインツール(オンライン会議、メール等)を利用して、両大学の学生がディスカッションを開始しました。
ディスカッションは、日本語と英語を織り交ぜながら進められました。
『Business Japanese』の授業を履修する学生であるアリゾナ州立大学のメンバーにとっては、本プロジェクトは生きた日本語に触れ、日本語会話能力を磨く貴重な機会です。
南山大学の学生にとっても、英語を用いて協働学習をする大切な機会となりました。
南山大学の学生からアリゾナ州立大学の学生に日本語で説明している途中、伝わりづらいことに気づき、英語に切り替えて説明をすることもありました。
あくまでグループ外のアメリカ人がマーケティング対象者
アリゾナ州立大学のプロジェクト参加学生は、あくまでこのプロジェクトのメンバーであり、南山大学の学生と同じ目線で課題に向き合う仲間です。
従って、アンケートやインタビューの対象者にはなりえません。
両大学の学生がそれぞれの役割を担い、進行していきました。
1.アリゾナ州立大学の学生とビデオプレゼンテーションを制作
最終回の授業は、オンラインで愛知県政策企画局国際課と愛知県観光コンベンション局国際観光コンベンション課に向けたプレゼンテーションです。
プレゼンテーション本番に向けて、グループ別にビデオプレゼンテーションを用意しました。
ビデオプレゼンテーションを用いてポイントを補足しながら発表
いよいよプレゼンテーションです。
当日は、評価者として愛知県政策企画局国際課から2名、愛知県観光コンベンション局国際観光コンベンション課から2名、(株)オレンジ・アンド・パートナーズの担当者1名が参加しました。
学生があらかじめ録画しておいたビデオプレゼンテーションを用い、補足説明を加えながら発表しました。
発表後には質疑応答があり、学生たちは、やや緊張しながらも、自分自身の言葉で丁寧にしっかりと説明をしました。
※発表当日は出席していませんが、中日新聞アメリカ総局のご担当者にも、連携企業として評価に携わっていただきました。
旅のターゲットに設定したのは、読書・映画が好きで食や海に興味があり日本の歴史を知りたいと考えている、アリゾナ州立大学に通う3人の学生です。
完成したプランは、「昔話がもつ文化の"体験"を通して愛知のオリジナリティーを伝える」旅。
昔話の主人公となって空想を楽しみながら愛知の文化や歴史を体験してもらいます。
「かぐや姫」の竹に見立てたカプセルホテルに宿泊したり、一宮市の桃太郎神社を訪れることで「桃太郎」の伝説に触れたり、犬山城で宝探しゲームのように地元野菜を見つけて味わったりするプランで、体験を中心とした4日間の「愛知物語」を構成しました。
評価者からいただいた評価と質問および学生の回答
各グループのプレゼンテーション内容に関して、さまざまなご質問をいただき、学生がその場で回答しました。
3.愛知県庁担当者による評価とコメント
プレゼンテーションに出席した愛知県庁担当者からは、「学生らしいコンセプトやアイデア、発想が面白い」「非常に参考になった。実際の旅のプランに十分、応用できる」「着眼点が素晴らしい。ぜひ今後の企画に反映したい」などの高い評価をいただきました。
さらにアドバイスとして、「コスト面も調査して提案に加えれば、旅の企画としての完成度が高まる」「実際に現地をリサーチした体験も織り交ぜて企画すると説得力が増す」「海外の斬新な旅の企画などを参考にするとアイデアの幅が広がる」などの言葉を頂戴しました。
最後に、担当教員の藤掛講師から愛知県政策企画局国際課及び愛知県観光コンベンション局国際観光コンベンション課に向けて、連携への感謝と、今後の関係継続への期待が述べられ、今回のプロジェクトは終了しました。
このたびの連携プロジェクトは、日本とアメリカ両大学の学生の視点から、愛知県の魅力を掘り起こしていただく機会となりました。
課題提供に伴って実施した特別講義では、積極的に質問をいただき、皆さんの関心の高さを感じました。
どのグループの愛知旅も、ターゲットであるアメリカの学生のニーズを捉え、グループの個性が表れた内容になっていました。
地元の人との交流を重視した旅の提案が多く、私たち県職員がつくる観光モデルルートにはないような斬新な提案もありました。
例えば、毎朝同じ喫茶店に通ってモーニングの常連になるという地元体験は、私たちには思いつかないアイディアです。
それぞれの旅が、愛知県の観光資源をアメリカの学生に楽しんでもらうための魅力的なプランに仕上げられており、私自身も愛知県の新たな魅力を発見する機会となりました。
今回知ることができたアメリカの学生のリアルなニーズと、それを実現する旅のプランを、今後アメリカ向けのPR活動を検討する際に、一つの視点として活用させていただきます。ありがとうございました。
愛知県 観光コンベンション局 国際観光コンベンション課 課長補佐 上松久美子様
このたびは、母校である南山大学に講師として関わる機会をいただき、ありがとうございます。
愛知県の魅力を発信するという実践的な授業を通して、地元に貢献することができました。
授業では、目の前の一人に一生の思い出をプレゼントする熱量や具体性こそが、実際には多くの人の心を動かすということを伝えました。
将来、自分たちが社会で働くことを想定した実践的な学びだからこそ、苦労しながらも楽しく取り組めるように工夫したつもりです。
結果として、固定観念にとらわれない、自由な発想を反映したプレゼンテーションが仕上がり、その完成度には驚きました。
授業での関わりを通じて、的を射た質問や個人的なキャリアの相談も寄せられ、学生たちの積極性を感じる指導体験となりました。
私個人も、今後の働き方に新しい視点を得ることができました。また機会がありましたら、参加させていただきたいです。
株式会社オレンジ・アンド・パートナーズ プロデューサー 佐藤剛史様
プロジェクトへの参加を通じて、これまで客観的に見つめる機会のなかった地元愛知県の魅力を発見することができました。
オンラインによるアリゾナ州立大学の学生とのやりとりからは、多くの気づきを得ました。
実感したのは、母語が異なる相手との対話では、わかりやすいリアクションでお互いの理解度を確認することが大切だということです。
両国間の時差が大きいため、限られた時間で自分の役割を見つけ、率先して取り組む柔軟性や責任感も生まれたと思います。
(株)オレンジ・アンド・パートナーズの佐藤さんによる、目の前の人を楽しませようという考え方は、やりがいにつながりました。
プレゼンテーション資料を作成する過程で、「絶対に喜んでくれるよね」というフレーズが飛び交い、アイデアの完成に夢中になりました。
自分自身のキャリア形成過程で大切にしたい軸ができたと思います。
南山大学 国際教養学部 国際教養学科3年 上田圭介さん
南山大学の学生とともにグループで課題に取り組む本プロジェクトで、最後まで模索していたのが、効率的で効果的なコミュニケーション方法でした。時差に邪魔をされないように、定期的なミーティングを通してやるべきことをまとめ、資料と理解を共有。LINEのチャットやWebミーティングでは、できる限り日本語を使用しました。会話に困難が生じた際には、南山大学の学生が英語の説明を補足したり、日本語の簡単な言葉に言い換えたりしてくれたので、回を重ねるごとに交流も順調に。アリゾナ州立大学で行ったアンケート調査に先駆けて、二国間の文化や習慣の違いについてよく話し合って質問項目を作成し、インタビューに臨むことができました。
このプロジェクトを通して、日本はもちろん愛知県への理解が深まり、卒業後に日本のメディア系企業で働きたいという気持ちがより強固になりました。
School of International Letters and Cultures (SILC), the Japanese Program 4年
イシュー・リさん
「最高の愛知旅」は、アリゾナ州立大学の学生にとって身近に感じられる内容であり、ビジネス企画のシミュレーションとして取り組みやすいテーマでした。
よって、学生には、課題に対して「プロフェッショナル」な態度で臨むように指導しました。
ビジネスプロジェクトの進行に欠かせないのは、チームワークです。コミュニケーション上の行き違いに注意し、できるだけ会話を通して連絡することを重点にアドバイスしました。
南山大学の学生とは日本語での会話を優先し、発表も日本語で予定されていました。「ビジネス日本語」を履修する3、4年生である参加学生にとって、日本語学習のうえで大きな利益となったことは言うまでもありません。
プロジェクト全体を通して、将来、グローバルビジネスに関わった時に、どうすれば相手とうまく意思疎通を図ることができるかを学ぶことができたと思います。
アリゾナ州立大学 日本語主任講師 下村朋子先生
今回、愛知県庁様からいただいた課題は、学生たちが国際的な観光に関する施策や旅行者の誘致について知る貴重な機会となりました。
国や地域の政策や取り組みに関心を抱くことは、今の時代、特に大切なことではないでしょうか。
言語や文化の異なるグループで協働し、高いレベルの成果を求められる、難しい挑戦でもあったことから、担当教員としても、適宜サポートを行いました。なかでも注力したのは、常に自由なアイデアを歓迎して、学生たちの発想を引き出すことです。
(株)オレンジ・アンド・パートナーズの佐藤様が講義の中で学生たちに示してくださったプロとしてのクリエイティブな発想も、学生たちのやる気に火をつけ、団結力や実行力を促進するエネルギーとなりました。
本プロジェクトをやり抜いたこと自体、学生にとって大きな学びですが、今後さらに仕事観やキャリア選択の幅を広げ、世界での活躍につなげるステップにしてほしいと思います。
南山大学国際センター 特別任用講師 藤掛千絵先生
LMSの活用
LMS(Learning Management System:学習管理システム)のプラットフォーム上で協定校と南山大学の学生・教員がリアルタイムに情報交換することで、COIL型授業ならではのリアルタイムコミュニケーションをより進めることができます。 今後は、このLMSの活用を広げていく予定です。
ベーシックCOIL、アカデミックCOILとの関連づけ
COIL型授業の別カテゴリーであるベーシックCOIL・アカデミックCOILを、PBL COILと関連づけて学ぶ、ステップアップ型の学習モデルの確立をめざします。
NU-COIL産官学連携への参画について
PBL COILやインターンシップなどNU-COILを通じた本学との連携にご関心のある企業・団体様からのお問合せやご要望などは
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